@tHIrTeen

 三岳みたけ 比奈ひなに誘われた夕食を終え、帰路に着いた頃から、1時間後の21時30分頃。

 首都圏、房総半島に威風堂々を佇む広い施設。

 成田国際空港。

 その第二ターミナルに、政府専用機が一機到着し、乗客が機を降りたところだった。

「おかえり。日奈円ひなえ

「ありゃ紀麗きうら、出迎えありがと」

 一人の女性が降り立っていた。

「留守の間ありがとう」

「そんなこと言ったって、ちょくちょく帰ってきてたろ」

「まあそうなんだけどね」

 手荷物の持ち手を変えながら、茶髪の長い、降りてきた女性ー日奈円かなえが返す。

「向こうで色々やりながらこっちのコーディネータまで勤めるとは本当にキャパシティの大きさに驚かされたよ。俺には真似できねぇ」

 出迎えにきていた紀麗という男性が返した。どうやら知らない中ではないらしいが、恋人らしい雰囲気にもない。

「そんなことないわよ。そう言うプログラムも受けてるわけだから、紀麗も受けたらできるようになるって」

「そもそも俺は受ける資格が取れねぇんだよ」

「そんなことなくない?この私、日奈円かなえ 仍生よるはの右腕であり左腕なんだし」

「それ、小間使いって言いたいのか?」

「そんなわけないじゃん?貴方がいなければ、MAATはとっくに露見してテロリスト扱いされて潰されているわよ」

「あんたがいりゃそんなことねぇだろ」

「いいから。素直に認めておきなさいな」

 日奈円が返すと、紀麗は肩をすくめてへいへい、と受け流した。

 荷物受取所での手続き、入国も済んでいるため、トランクに荷物を乗せた後で二人はそのまま車に乗り込んだ。

 運転は紀麗。後部座席に日奈円が乗り込んだ。

「そういえば」

 エンジンがかかったのを確認したかのように日奈円が紀麗に問いを投げる。

「なんだ」

「彼は元気?」

「ああ。相変わらずだ」

「まだ杜乃ちゃんのところにいるんだ」

「そうだな。ってか、離れることなんかあるのかねあの二人」

「ふーん。そうか。叶世はまだそうなんだ」

「なんだその含みのある言い方。あいつをこっちにスカウトしたいって考えはわからなくはねーんだけどよ、それなら杜乃 天加の方がいいんじゃねーのか?なんで蓮宮 叶世なんだよ」

「いいのよ。それはどうでも。ちょっとしたこだわりってやつ」

「へぇぇ。お前が一個人にこだわるなんてなかなかないからよ。ここまで長くやつを注視してるのかわからねぇ。そんなに特別かね」

「世界で一人ってレベルにはね」

「それだよなぁ。まあ、いつか教えてくれや」

「ええ。もちろん」

 車が発進する。高速に乗り、一路霞ヶ関を目指す。

「……ふん。そう。まだ空白にいるんだ。叶世」

 その日奈円の独り言は、紀麗の耳に入ることもなく、世界にとって不要なものであるかのように虚空に消えていった。

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