#WhiteRoom;Alpha:"紡"

唯月希

@onE


 月明かりだけが見守っている雑木林の中。風もなく、木々が枝葉を掠める音もしない。近くに野鳥がいる気配を告げる鳴き声もせず、動物の遠吠えもまた無かった。

 そんな中、自然のものとは捉えづらい規則性があるように感じられるザク、ザク、と言う音だけが響いていた。

 雑木林の麓からやや奥まったところに一台の車が止められている。灯され放しにされたヘッドライトが照らす先には、やや大型のスコップで地面を掘削する姿があった。

 その傍らで照らされているのは、どうやら人間の下半身のようだ。投げ出すようにして地面に放置されたその脚は、しかしピクリともする気配がない。

 スコップによる作業を続けていた人物がその手を止めると、その投げ出された脚をつかんでズルズルと引きずって、作業によってできたそう深くはない穴に放り込もうとした瞬間に、ヘッドライトに照らし出されたそれは。

 その人間は女性のような服装をしており、着衣に大きな乱れはなかった。

 そして同時、首から上にあるはずのものも同時にまた、無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る