@tWEnty-Two
「それじゃあ、一旦
「はい。構いませんよ」
「むしろお願いします」
「ん?事情説明か?」
「その通りだ。それでは遠慮なく続けさせていただく」
引きこもりの推想師が、そこから清涼な流水のごとく語り始める。
「まず、昨日行った
一つ呼吸を置く。少しいつもより語気強く声色が明るい感じがするのは、蓮宮の主観によるものだけではないだろう。
「まず、容疑者の条件第1点。蓮宮の助言もあってのことだが、ある程度人の肉体や装飾に関することに
次に第2点。その能力が、機械的な特殊技能に長けているか、もしくは
確認だが朝霧くん、これは、下層に埋められていた、死亡推定時刻から推測される第一被害者と、第二の被害者の間に埋まっていた、ということで間違いないのだよね?」
「はい。その通りです」
杜乃の確認に朝霧は一切の躊躇なくその通りに答えた。鑑識から嫌という程聞かされ、それらの結果がまとめられた資料をこれでもかと見返した結果、脳に焼き付いた記録を反復したに過ぎないが、だからこそ、その言葉の信頼性は圧倒的なもので疑う余地はない。
「続けよう。その確証を得て、私はこれが、遺体隠匿のためにそれらの遺体を埋没させる作業中に穴に放り込んだ土の中に偶然あった物品ではないと踏んでいる。何故ならば、これは比較的新しく製造され最近一般市場に流通され始めた商品であることが確認されている。これは警視庁鑑識の照合も得ている確定事項だ。
そこで、ではその行間を埋めるクロノスは何かと考えれば、雑木林で糸切り鋏を使うことはなかなかに考えにくい。そもそも雑木林に自生しているような植物に対しては園芸用品などに代表されるさらに適した道具があるからだ。であれば、そう行った園芸的な作業を行うためにぞ現場の林に立ち入った者の所持品ではなかったのではないか、と考えた。
例えば仕事や趣味の域で、日常的にそれを持ち歩くなりしていて、例えばポケットに入っていても違和感を覚えない人間が、何かの拍子に落としたのではないかと考えた。
となれば、それらが使われるのは裁縫関連の作業か、もしくは稀に料理にも使われることがあるという。あとは創作活動だ、これに関しては、創作者個々のスタイルによってしまうために今回の件からは一旦除外した。
結果、これらの条件を揃えた上で帝智教授に資料に上がってきた人物をソートしたところ、一名がまず浮かび上がった。他の二人は、まあ、可能性があるか程度のことだ」
「それが、この、中村さんか」
「ああ。他の二人が機械工業の工場やIT企業の事務に従事していることから考えて、仕事でこの道具を使うということは考えにくい。もちろん趣味までは与り知らないので候補に入れているのだけれど。10年前から服飾関連の仕事をし、その上小さいながら会社化していることを考えれば、現場から見つかったような糸切り鋏にも縁が浅くはないだろう」
「でも、裁縫とかそういう作業をしない経営陣だったら?会社になっているならそういうことも考えられるだろう?」
「もちろん、その通りだね。しかし、この個人企業の従業員は基本おらず、リストに上がっている中村修二とその妻で運営されていることが明記されていた。リクルート情報もない。となれば、男性であっても再訪作業するのは一切不思議ではないし、可能性が上がっても致し方ないと思ったのだ」
「うん」
「さらに、だ。腐敗が進んでしまっている最初の遺体に関してはまだ身元確認中だが、第二の被害者については所持品も共にあったため確認が取れた。せっかくなのでこれを」
高説を続ける杜乃が蓮宮に一枚の資料を渡した。
「右が第二の被害者と目されている、鈴木えいみ。左が最初に見つかった被害者だ。どう思う?」
差し出された資料を受け取った蓮宮がその二枚を見比べ、特段時間を要すことなく一言放った。
「…似てる」
「だろう。では、私
「被害者のモデルになった人物を求めている?もともといて、何らかの理由で失ってしまった?」
「おそらく正解。ピースは揃ったかもしれないな」
「この二人、そして最初の被害者に似ている人物が、何らかの理由で施行者の側を離れてしまって、その人間的造形を求めているってことか」
「ああ。おそらくね。そして蓮宮 叶世は、その理由を何と推測する?」
「……死んでる。人を殺してまで追い求めなきゃいけないなら。そのオリジナルが生きているなら、他人を殺す前に、そちらに固執するんじゃないかな」
「あいかわらず、ドストライクを突いてくるね。さすが蓮宮」
「決まりですね?」
杜乃の笑顔の賞賛があってその続きを引き受けたのは朝霧。
「ああ。中村氏が今回の殺人行為施工者だろう。もちろん、物的証拠は今の所ない。うまくやってくれよ、朝霧くん」
「もちろんです。ここまで敷いてくれたレールを、あたしが踏み外したりは絶対にしません。行くよ、昼々蕗」
「了解」
車はもう数分で、中村の経営するショップの近くというところまで迫っていた。
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