@nINe

 蓮宮はすみやが部屋に戻り、コーヒーとケーキの後片付けを終えると、先ほど連絡した電話会議の時間まで15分ほどとなった。

「蓮宮くん、ありがとう」

「いや別に。いつものことだよ」

「いつものことが続くことも、奇跡に近いからだよ」

「またそういうことを言う」

「ははは」

 言いながら蓮宮がテーブルの席に着く。杜乃もりのは相変わらずMeTISメティスによる資料が表示されたディスプレイを眺めていた。

「蓮宮くん、どう思う?」

「どの部分についてだい?」

「傍観者としての観点から、首を、頭部を持ち去る、と言う施行に関してさ」

「うーんそうだなぁ」

 携帯端末を手元に置いて、蓮宮は腕を組んで見せた。眼は目の前の机を見ているようでいて、思考に集中しているのか、虚空を見つめている。

 杜乃は少し楽しみそうに、足を組んで肘掛に頬杖をついた体勢で椅子をくるりと回して、その蓮宮の横顔を眺めた。

「…同じ状態の遺体が出たら、頭部、顔になにかしらのしゅうちゃくがあるんじゃないかなとは思う。で、多分それ以外はどうでもいい感じだよね。手とか足とか」

「だろうね。しかし、そうか。私は頭部、と考えたけど、顔か」

 杜乃がほう、と感心新た様子で応答した。

「もしくはそこに付随するパーツ?かな。目とか耳とか口とか歯とか髪とか」

「ふむ」

 杜乃は一旦口を挟むのをやめて返事だけして続きを待つ。

「でも、言ってから思ったけど、それらに固執してるなら、そこだけ持っていった方が作業としては楽だよね。hじゃあ、やっぱりセットとしての顔、頭部が欲しかったのかな。誰かに似ている人を狙っているとか。パターンが少なくてわからないけど」

 蓮宮の方向に迷っていた思考が流れ始めたように話し出した。

「ふむ…誰かに似ている、か」

「それか単純に好みの顔を狙ってるか」

 蓮宮の目の色がやや変化を持つ。

「だろうね。その可能性も出てくる」

「人間の顔や脳っていうのはもともと人間が設計したものじゃないからね、基本的に似ていても、結局ワンオフだから、一つを失えば、同じものは難しい。クローンやコピーだって同じことが言える」

「それはその通り。だから執着が発生する」

「そう。人間の脳は、それに好感とか嫌悪感とか恐怖とか不快感とか、顔に対して一定の感情を抱く修正が備わっているから、それが高じれば、あるいは執着になりうるかもしれない。化粧だってそうとも言えるしね」

「その通りだな。ふむ。やはり傍観者としての視点は面白いね。外側から見ればそういうパターンが生まれる」

「僕は杜乃みたいに潜ることはできないからね。当事者にはなれない」

「私だって、当事者になっているつもりはないよ」

 まるで杜乃そのものが殺人犯になっているような言い方に、怒ってもいいようなものだったが、杜乃の思考は、その殺人を働くとしたら、という観点から紡がれることが大半だ。そのことを蓮宮は当事者という言葉を使って言ってのけたという解釈は、杜乃の中で即成立する。蓮宮がむやみやたらに人を貶めた物言いをしないということを、彼女は嫌という程知っている。その逆も、また然りだった。

「でもまぁ、私の視点はそちらだからね。あ、そろそろ時間かな。また聞かせてくれ」

「うん。いつでも」

 先ほど蓮宮がアポを取った電話会議の時間が迫っていた。

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