第3話 協会-2

リリィの言う通り、シャルロッテはアルベルトが監禁されている地下室にいた。


「怪我の具合はどうかしら」

「これが良好に見えますか?」

牢屋の中ではアルベルトが壁に固定された鎖に両手を繋がれ動きを制限されていた。


「そういえばあなたは今魔力を極端に消費して、自己回復力が落ちていたのよね。どうかしら、私に協力すると約束してくれたら、すぐに傷が回復するアイテムを上げるけど」

シャルロッテは袖口から手の平サイズの青い石を取り出した。


「それが噂のリヒト・クライノートですね。」

「そう。悪魔や魔獣に魔力を与え、法力や神力を撥ね退ける効果のある石よ。数十年

前に私が作りだしたの。そして協会に協力すると約束してくれた悪魔達に友好の証として渡している物。」

「それが分からないのです。貴女はどうして悪魔達を教会に引き入れたがるのですか」

「それは私が無暗に悪魔達を祓う事を望んでいないからよ。リヒト・クライノートを渡せば悪魔達は魔力を回収する為に、人間の魂を

奪わなくてもよくなる。そうすれば、私たちも人間を守る為に悪魔を払わなくてもよくなるでしょ?私たちとっても貴方たち悪魔とっても悪い話ではないと思うんだけど。」

「貴女は何故悪魔達を払いたくないのですか?天使である貴女の使命は悪魔や悪魔的な心を持った人間を祓うか、或いは封印する事でしょう。」


そこでシャルロッテは困った様に笑った。


「これを言うと堕天使扱いされるから内緒よ。」


そう言ってシャルロッテは格子に近付くとそっと囁いた。


「私は少しでも多くの悪魔達とお友達になりたいの」


それを聞いてアルベルトは忌々し気に眉を顰める。


「それが詭弁だというのです。一体何を企んでいるのです」

「何も企んでないわよ。けれど、そう言われると思ったわ。でもそれが私の本音なの。その証拠に年に一度悪魔祓いを行うこの街には人に大きな害を成さないほど魔力の力の弱い悪魔が入れないように予め微弱な結界を張っているし」

「それでも悪魔である限り人間の魂を奪う存在ですよ」

「自分が生きるために魂を取るのは仕方がない事だというのが神王のご意思よ。私たちが祓うのは、必要以上に命を狩る邪悪なる存在なの。ところで」


シャルロッテは格子から少し離れて腕組みをした。


「私が貴方に掛けた封印を解いたのはあの茶髪の少年なのかしら。」

「おそらくそうだと思いますよ。」

「やはりそうなのね。驚いたわ。50年ぶりにまた貴方を説得しようと思ってあの屋敷を訪れたら封印が解かれていたんですもの。でも、それがオッドアイ持ちの人間の仕業だったのなら納得はできるわ。そして、奇しくも貴方は数千年に一度生まれるかどうかと言われている珍しいオッドアイ持ちの悪魔」


シャルロッテは面白そうに両手を口に当てて笑った。


「我々の間に結ばれた契約について貴女は何か知っていそうですね。」

「契約ではないわ。貴方たちの間に在るのはレゾナンツ。つまり共鳴。オッドアイ持ちの人間と悪魔互いには魅かれ合う性質があるの。その前例が数千年前。妖精と人間との間に生まれた英雄アルバンの側には一人のオッドアイ持ちの悪魔が仕えていたというわ。」

「それは哀れな事ですね。彼も貴女の言う共鳴とやらにさぞや苦しんだ事でしょう。」

「そうかも知れないわね。現に彼は共鳴から逃れる為に自らの左目を焼いた事があるそうよ。」

「それで共鳴は解けたのですか?」

「それが無理だったみたい。彼の左目は激しい炎に焼かれたのにも関わらず、僅か数秒で再生してしまったそうよ」

「ならばアルバンの右目を焼けばよかったのでは?」

「それでも同じ結果だったようよ」

「それでは共鳴を解く手立てはないという事ですね」

「そうね。しかも最初は共鳴から逃れようと足掻いていたオッドアイの悪魔は最期、アルバンを敵の攻撃から守って無くなっているわ」


「それはアルバンによる命令でしょうか。それとも情?どちらにしても共鳴による弊害で在る事は確かでしょうね」

「弊害なのかしら。私には共鳴が彼に幸せをもたらしたとしか思えないわ。」

「僕にはそうは思えませんね」

「今の貴方にはそうでしょうね」

「多分僕にはずっと分からないままでしょう。それで一向に構いません」

「可哀想な人ね」

「憐れんでもらわなくても結構。それより貴女」

「えっ?」

「何をさっきからソワソワしているのです?」


するとシャルロッテ赤面しながら慌てて両手を左右に振る。


「別にソワソワなんてしてないわよ」

「そうですか?さっきから何か落ち着かない様子」

「そんな事ないわよ。別にトイレに行きたいとかそんな事ちっともこれっぽっちも考えてないんだから」


そう言って弁明するシャルロッテは涙目である。


「ああ、もう。我慢できないならさっさと行ってらっしゃい」

「でも、その間に逃げたりしない?」

「しませんよ。どう見ても逃げられないでしょう。この状況」

「本当ね?約束だからね」


そう言い残すとシャルロッテは急いで地下牢

の廊下を走り去っていった。

それを見送り、アルベルトは地下牢の中を見渡す。


「さて、どうやってここを抜け出しましょうか」

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