第1話 邂逅 -5
「アルベルト」
ラルフは慌ててアルベルトの飛ばされた方向へ駆け出していた。
アルベルトは爆風でへし折れた木々の間に倒れていた。
「大丈夫か、アルベルト」
ラルフが声を掛けるとアルベルトがうっすらと目を開ける。
「何をしているんですか。君は早く逃げなさい」
「でも……」
「別に君の身を案じているのではありませんよ。ただ君が殺されるとおそらく僕も死んでしまうでしょうから」
「だったら尚更ほっとけないよ」
その言葉にアルベルトが顔を上げる。
「それって俺たちが一心同体になったって事だろ?そんな相手を残して自分だけ逃げるなんて俺にはできない。」
「ならどうするんです?」
「俺も一緒に戦う。」
「戦うといっても君に何が出来るんです?出来るとしても精々囮くらいの物でしょう」
「確かにそうだけど、でも囮でも居ないよりはマシかも知れないし」
そんな会話をしている頭上からパトリックの笑い声が聞こえてくる。
「あははっ。どこだぁ。どこに行った半人前のアルベルト」
その声は霧の中、徐々に近づいて来ている様だった。
アルベルトは木々を支えに立ち上がり、頭上を見上げた。
「立ち上がって大丈夫なのか?」
ラルフは心配そうにアルベルトに声を掛ける。
「ええ、大丈夫ですよ。そもそも本来なら僕ほどの力を持つ悪魔が小物のパトリックなどにここまで押されるはずはないのです。ですが、封印を解かれたばかりで、どうやら魔力が足りないようですね」
そう言ってアルベルトは隣に立つラルフを見つめる。
「一心同体ですか。いいでしょう。ならば少しは役に立ってもらいましょうか」
そう囁くと同時にラルフの体を木の幹の押し付け、強引に唇を奪う。
ラルフは奪われた唇から生気が吸い取られていく感覚を覚えた。
「な、何するんだよ!」
そう叫んでアルベルトの体を強く押しにけると同時にラルフは全身の力が抜けるのを感じ、その場にへたり込んだ。
「君の生気を少し頂いただけですよ。僕だって頂くなら美女の生気の方がいいですが。まあ、これであの鬱陶しいパトリックを消し炭に出来るなら、我慢しましょう」
「何だよ、その言い方!さっきのは一応俺の」
その先の言葉を察したかの様に、アルベルトは「ふふふ」と笑った。
「成程、それは悪いことをしました。ですが、奪われた甲斐はあったようですよ。」
そう言って不敵に笑うアルベルトの全身を青い炎が覆っていく。
全身に漲っていく力にアルベルト本人も驚いている様だった。
「これはすごい。オッドアイ持ちの人間の魂はここまで魔力を供給できる物だとは。これでは悪魔に狙われ続けるもの仕方がないですね。」
「なに?俺ってそんなにすごいの?」
「君自身の力がすごい訳ではないですけどね。」
「何だよ、それ!」
「まあ、いいでしょう。これならあの調子に
乗ったパトリックに一泡噴かせられそうだ。」
アルベルトはそう意気込み、大きな翼を広げた。
「君はそこの茂みに隠れていなさい。足で惑いだ」
「そんな言い方しなくてもいいだろ!」
文句を言いながら、ラルフは言われた通り茂みに身を隠す。
頭上では、アルベルトとパトリックが対峙していた。
「やっと見つけたぞ、アルベルト。勝てる見込みがないからって逃げるとは卑怯な奴」
「僕は別に逃げも隠れもしませんよ」
「嘘をつけ、この臆病者め」
パトリックが大きな口を開けると、そこから巨大な水の塊が吐き出される。
自分を飲み込もうと向かってくるそれをアルベルトはシュバルツ・シュペーアの切っ先で軽く弾いた。
「何!?」
パトリックは驚いて目を見開く。
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