第2話 再会 -5

「そんな事、僕がさせませんよ。」


アルベルトが粉塵の中立ち上がる。


その左手には一本の鉄パイプが握られていた。


「まだ立ち上がる気力が残っているのか。しぶとい奴め。」

「確かに僕は他の悪魔比べて魔力は低いが、しぶとさでは負けませんよ。」


他の悪魔に比べて魔力が低い?

そんな話をラルフは初めて聞いた。

だってアルベルトはいつも自身に溢れていて、強い印象があった。

けれど、そう言われれば他の悪魔はいつもアルベルトの事を『半端者』と呼ぶ。

あれはどういう意味なんだろうか。

そんなことを考えこんでいたラルフが気が付くと、インゼクトがまさに今アルベルトを飲み込もうと、大きな口を開けていた。

そのまま勢いよく口を閉じるが、アルベルトはその攻撃をスルリと交わし、再び空へ飛びあがり身を翻す。


「ちょこまかと鬱陶しい奴。このまま吸い込んでくれる」


インゼクトは空を仰ぐとまたしても大きな口を開けて、アルベルトの体を吸引機の様に吸い込もうとする。

すると、その瞬間を待っていたようにアルベルトはニヤリと笑った。


「僕の作戦通りの行動をしてくれて本当に

助かりますよ、インゼクト。さすが脳みそが小さいだけの事はある」


アルベルトはいつもの彼らしい嫌味を言うと、

左手に持っていた鉄パイプをインゼクトの大きな口の中に突き刺す。それからパイプの先にシュバルツ・シュペーアから噴き出した稲妻のような蒼い炎を命中させた。

「ぐわっぁあ」


インゼクトが気味の悪い断末魔を上げて燃え尽きていく。

それを見てアルベルトはまた「ふふふ」と笑った。


「芋虫ごときがこの僕に喧嘩を売るから、そ

うなるんですよ。」


しかし、口では強気な発言をしているアルベルトだったが、体に受けたダメージはそれなりに大きなものだったらしく、不意にふらついてラルフに寄り掛かる。


「大丈夫か?」


ラルフが訊くとアルベルトはまた不敵に笑って見せた。


「ええ、これくらい何ともありませんよ。」


と答えてラルフから離れる。


「それならいいけど。お前。インゼクトに聞きた事があったんじゃないのか?」

「ああ、そうでした。」


アルベルトは慌てて、倒れているインゼクトのもとに駆け寄ると、その体を揺さぶり始めた。


「さあ、早く起きなさい、インゼクト。僕が勝ったんですから、知っている事を全て話して貰いますよ。」


しかし、インゼクトの体は間もなく灰になりさらさらと消えてしまった。


「何て事だ。頭に来てついやりすぎてしまった」


アルベルトが頭を抱えてしゃがみ込む。


「兄さま、私」


リリィが何か言いいかけけたが、アルベルトは片手を軽く上げてそれを遮る。


「いいんですよ、リリィ。きっとそれはお前にとって言いにくい事でしょうから、無理にお前から聞き出そうとは思っていません」


「でも」

「いいと言っているでしょう」


アルベルトは彼にしては珍しく、大きな声を張り上げた。

それから慌ててリリィの頭を優しく撫でる。


「大声を出して悪かった。でも、僕はお前の口から協会に入った理由を聞きたくはないのです。それはあの白い悪魔から直接聞き出し出ますよ。」


そう言ってリリィの肩を抱いた。

ラルフはその様子を黙ってみているしかなかった。ラルフには悪魔の事も協会と呼ばれる組織の事も何も分からないからだ。


「なら、僕が君の言う白い悪魔に再び会わせてあげるよ」


聞き覚えのない青年の声が三人のすぐ側に在る建物の屋根の上から聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る