第5話 兄妹 -2
大量の人を虐殺している悪魔だからどんな恐ろしい形相をしているかと思いきや、モニカはカールした金の髪をなびかせた美しい女性だった。
ラルフはほっと胸を撫で降ろす。
そんな彼の隣にいたアルベルトはラルフが一瞬にして油断したのを見透かし
「見た目騙されてはいけませんよ。サキュパスはその姿の麗しさで異性を騙し、魂を屠る凶悪な悪魔なのです」
と釘を刺してきた。
「その通り。そこに転がっている無残な姿になった男たちも皆私が殺してやったのさ」
モニカは甲高い笑い声をあげた。
それを聞いて、ラルフは再び身を引き締める。
「それであんた達は何をしに来たんだい?もしかして私を倒しに来たのかい?」
「そうだと言ったらどうする」
アルベルトが答えるとモニカはまた面白そうに笑った。
「なかなか面白い事をいうね。半端者の悪魔アルベルトとオッドアイ持ちとは言え、何の力も感じないただの人間。そんな二人だけでこの私に勝てると思うのかい?」
「やってみなければ分かりませんよ」
そういうとアルベルトはラルフの腰を引き寄せると、いつもの様にキスをした。
するとアルベルトの体が青白く光りだす。
それを見たモニカは途端に警戒して唸った。
「なるほどその少年は、お前の魔力ブースターというわけだ。面白い。その少年、私が勝って、貰ってやろう」
「出来るものならやってみてください」
アルベルトは不敵に笑う。
するとモニカの体から光が放たれ、それが収まった時にはモニカに似た青年がそこに立っていた。
ラルフは訳が分からず茫然としてしまう。
突如現れた青年は黒く輝く剣から、黒い光を
ラルフ達に向かって放ってきた。
アルベルトは咄嗟にラルフを抱え、長椅子の後ろに隠れる。
「なに、あの人。モニカはどこに行ったの?」
「あれがモニカの本当の姿ですよ」
「えっ、どういう事」
意味が分からず、首を傾げるラルフをアルベルトは抱え上げると、翼を広げ一気に教
会の外へ飛び出した。
そうして、教会の裏にある薔薇の咲き誇っている墓地に二人して身を隠す。
「サキュパスとインキュパスはもともと同一個体なんですよ。サキュパスになり男たちから魂を奪い。それをインキュパスになって魔力に変換する。サキュパスになった時に奪った魂の分だけ、インキュパスになった時の魔力は強くなります」
「そうなのか。じゃあお前もサキュパスになれるって事?」
「それが無理なんです。僕は生まれた時からずっとインキュパスです。だからサキュパスになって魂を回収できない代わりに、女性から生気を少しずつ貰い魔力に変換していました。リリィも同じで。あの子も生まれた時からずっとサキュパスです。しかも、彼女は人間から魂を奪う力を持たず、僕が回収した魔力を少しずつ分け与えていました」
「そうだったんだな。そういえばそんな詳しい話は聞いた事がなかったよな。双子の悪魔ってみんなそんな感じなの?」
「どうでしょうね。双子の悪魔自体、生まれる事はほとんどありませんから。」
「貴重な存在なんだな」
「貴重どころか双子は忌み嫌われる存在です」
「そうなの?」
「君も僕たちが半端者と呼ばれて嫌われているのを知っているでしょう。確かに僕はサキュパスになって魂を回収できない故に魔力が弱い。しかもインキュパスになって魔力を作り出せないリリィに魔力を分けていたため、他の悪魔に勝てる事はほとんどありませんでした。リリィはその事を気に病んでいて、いつも自分は僕の足手惑いになっていると嘆いていました。しかし」
アルベルトは立ち上がり、薔薇の花をひとつ手に取った。
「リリィが足手惑いだなんて、僕は考えたことなどありません。むしろ彼女が居なかったら、僕はどうなっていたか。もし、完全なインキュパスとして生まれていたならきっと、僕は目的などないままただ無意味に人の命を屠り生きていたでしょう。彼女が居たから、僕は」
アルベルトは薔薇の花をひとつ丁寧に手折った。
「僕は誰かのためにここまで生きる事が出来たんです。」
そこまで言い終わるとアルベルトは手折った薔薇の花をラルフに差し出す。
「すみません、つまらない話をしてしまいまいたね」
するとラルフは立ち上がり真っ直ぐにアルベルトを見ると、そっと薔薇の花を受け取った。
「アルベルトとリリィはお互いを必要として生きているんだな。それってすごい事だと思う。俺にもそんな大切な人が何人かいない訳じゃないけど、一人は一方通行だし」
ラルフはそういって肩を落とすと、足元をみた。
「でも、俺は片思いでいいんだ。それでも守りたいって気持ちに変わりはないからさ」
ラルフの片思いの相手が誰なのか、アルベルトは知っていた。
それは金の髪のユリアという美少女だ。
人一倍怖がりなラルフが彼女を守りたい気持ちで、成り行きとは言え、協会の退魔師となって戦う決意をしていたとは知らなかった。
「ラルフ」
アルベルトが何かを言いかけた時、黒いブラックホールに様な黒い塊が、上空から二人を目掛けて飛んできた。
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