第5話 兄妹 -1
その日、ラルフとアルベルトは古びた大きな教会の前に立っていた。
この教会は悪魔の結界の中にあって、普通の人間には見えない。
二人の初任務の舞台はこの教会だった。
ちなみに、現在ラルフの家の屋根裏部屋で居候しているリリィは、一緒に来るのは危険だというアルベルトの判断で、今回はお留守番だ。リリィを見るなりすっかり彼女を気に入ってしまったエミと一緒にラルフの家でパンケーキを焼きながら二人の帰りを待っている。
「それでは行きましょうか」
そういってアルベルトはさっさと教会に中に入って行こうとする。
「ちょっと待てって。お前、怖くないの?」
「怖いって何が?」
「だってこの教会で何人もの男たちが行方不明になってるって、シャルロッテが言ってたじゃないか。迂闊に足を踏み入れて、もし帰ってこれなくなったら」
「日頃、悪魔である僕と一緒に居ながら、今更何が怖いって言うんですか」
「それとこれとはちょっと話が違うような」
「何が違うって言うんです。ほら、さっさとついて来ないと、置いていきますよ」
「っちょ、ちょっと待てって」
ラルフは慌ててアルベルトの後をついて行った。
『街はずれの森の中に張られた結界内に置いて、行方不明者が続出。結界の主を捕
縛、ないしは、退治されたし』
アルベルトはシャルロッテから送られてきた書簡を声に出して読み上げた。
「それが今回の俺たちの任務?」
「その様ですね」
「初任務にしては難しすぎない?」
「僕にとってはそれほどでもありませんけどね」
「そうかなぁ」
ラルフは足元に転がっている人骨の山を見ながら、もうすでに帰りたい気持ちでいっぱいだった。
こんなに沢山の人を殺しているなんて。
奥にはどんな悪魔が潜んでいるんだろう。
果たして二人だけで勝てるのだろうか。
ラルフはアルベルトの後ろに隠れながらそんな事ばかり考えていた。
すると二人の歩いている通路の両脇には長椅子が並んでいたのだが、その一番前の席に白いヴェールを被った女性らしき人が座っていた。
「あらあら、貴方の様な方がこんな所に迷い込むなんて、珍しい。」
女性は教壇の方を向いたまま「ふふふ」と笑う。
「別に迷い込んだのではありません。我々は貴方に会いに来たのですよ。サキュパスのモニカ」
「そう、丁度良かったわ。私も貴方に会ってみたいと思っていたのよ。オッドアイの悪魔、アルベルト」
モニカはそう言って白いヴェールを脱ぎ捨てると、こちらを振り返った。
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