第1話 邂逅 -2

もっとよく見ようとクリスタルに近付くと急に右目が痛み出した

それと同時にクリスタルの中の青年が目を開く。

あまりの痛みにラルフがよろめいて、クリスタルに手を付いた。

その時、クリスタルが眩く光り出し、バリーンという大きな音と共に砕け散った。

クリスタルの欠片がキラキラとラルフの周りに舞い散る。

ラルフは両腕で顔を庇い、目を瞑った。

しばらくしてラルフが目を開けるとそこには全身黒ずくめの青年が長いコートを閃かせて立っていた。


「ふぅ……」


青年が大きな溜息を吐く。


「まさかこの僕があんな天使見習いに封印されるとは……」


この時の青年には彼の足元で腰を抜かしているラルフの姿は見えていない様だった。


「この借りは必ず返してやりますよ、シャルロッテ」


と拳を握りながら一人ごちている。


「あの……」


とラルフが声を掛けると青年は漸くラルフの方を見た。


「君は?」

「俺は、ええっと……」


ラルフが言い淀んでいると、彼の周りに砕け散ったクリスタルの欠片を見て、青年は全てを察した様だった。


「なるほど。君が封印を解いてくれたのですね。オッドアイ持ちとはいえ君の様な非力な人間に助けられるとは、少々複雑ですが……」


そう呟く青年も見事な赤と黒のオッドアイだった。


「あんたは人間なの?それとも……」

すると青年は「ふふふ」と笑って


「どちらだと思いますか?」


と聞き返してきた。

確かオッドアイ持ちは人間にしかいなかったはず。

それを思い出したラルフは


「俺は人間だと思うけど」


と答えると、青年に額を叩かれた。


「この僕が人間に間違われるとは、全く嘗められたものですね。」


青年は徐に右手を翻すと


「シュバルツ・シュペーア」


と呟いた。

すると、蒼く輝く炎と共に先が三又に分かれた黒い槍が青年の右手に召喚される。


「我が名はアルベルト。インキュパスと呼ばれる悪魔ですよ。立派なね」


そう言い終わると、アルベルトはシュバルツ・シュペーアと名の槍の切っ先をラルフに向けてきた。


「ひぃ……」

「封印を解いてくれたお礼です。5分だけ待ってあげましょう。その間に逃げなさい。

それが出来なければ、その時は……」

「その時は……?」

「僕の餌食になって貰います」

「そんなぁ」

「さあ、早く逃げないとカウントダウンを始めますよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ」


情けない声を出しながらラルフは立ち上がり再び走りだした。

ここに来て自分を追う悪魔が二人に増えてしまうとは。

自分の運の悪さにラルフは泣きたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る