第2話 再会 -1

暗い


ここは一体どこだ?

暗くて湿っぽくて、血の匂いがする。

目の前にそびえたつあの階段。

あの階段は見覚えがある。

そうだ、ここはあの日アルベルトと出会ったお屋敷にあった立派な階段だ。

という事はここは昨日のお屋敷?

俺はいつの間にそんな所に来てしまったのだろう。

ラルフが訳もわかずに屋敷内を徘徊していると突然、二階から人の話し声が聞こえてきた。


「こんな事が許されるというのか、シャルロッテ!」


そう咆哮する声には聞き覚えがあった。

ラルフは慌てて二階に上がる。

そこは大広間になっていて、そこでアルベルトと見知らぬ少女が対峙していた。


「許されるとは思っていないわ。けれど、沢山の命を奪ったという点では、貴方と彼は同罪なのよ」

「では、僕は同胞が悪戯に殺されるのを黙って見ていればよかったのですか?」

「そう言っていないわ。けれど他に方法があったはずよ」

「そうですか。それでは貴方は自分が同じ立場に立たされたとしても、そう言って悠長に構えているのですね。」

「……そうね。そうかもしれないわ。」

「だとすれば貴方の同胞は哀れですね。」

「……これ以上は話しても無駄の様ね。貴方にはしばらくこの中で眠って居て貰うわ」


少女は袖口から手の平サイズのクリスタルを取り出した。

「いいでしょう。返り討ちにしてくれますよ」


アルベルトも蒼く輝く炎からシュバルツ・シュペーアを取り出す。

二人の空気は一触即発である。


「行くわよ」


少女がそう言うとクリスタルが白く光った

その瞬間


「ちょっと待って」


ラルフは思わず声を出していた。




「いいえ、待てませんね」

ベッドで寝ているラルフの上からアルベルトが顔を出す。


「うわあぁ」


ラルフは驚いてベッドから転がり落ちた。


「な、な、何うしてるんだよ。人の部屋で」

「何をしているとは心外ですね。僕が折角学校に遅刻しそうな君を起こしてあげたと言うのに。まあ。僕は別に君が遅刻しようがしまいが、どちらでもいいんですが、エミさんの頼みとあれば断れないでしょう」


エミとはラルフの母親の名前である。

昨日、出会った途端に意気投合し、マイはラルフの意志など関係なくアルベルトをラルフ

の家に居候させる事を決めてしまった。

彼女曰く


「ご両親が海外でお仕事なんて大変ね。一人じゃ何かと不便でしょうから、うちの空いてる部屋に住みなさいな」


という事らしい。

アルベルトがその場で適当に言った出まかせをすっかり信じているらしい。

確かにラルフの家では船乗りで年に数回しか返ってこない父親の部屋が空きっぱなしになっていた。

アルベルトは今その部屋で寝起きしている。

アルベルトは顔が良いだけではなく、家事は一通りこなせるうえ、女性の扱いにも長けているので、今ではすっかりエミのお気に入りをなってしまった。


「うちの息子もアルベルト君みたいに何でもできる子だったらねぇ」


とため息を吐くあいまつである。

しかし、この男。

エミの前ではすっかり紳士を演じている癖に、ラルフと二人きりになると嫌味ばかり言ってくる。


「どうせ起こすなら美しい女性が良いんですがね」


もそもそと学校に行く準備を整えているラルフの背後でアルベルトが呟く。


「俺だってどうせなら可愛い幼馴染に起して貰いたいよ」

「そんな幼馴染がいるんすか?」

「いや、いないけどさ。」

「なんだ。可愛い子なら紹介してもらおうと思ったのに」

(こいつ!)


とラルフは心の中で舌打ちする。

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