第4話 協定 -1
それは初夏にも関わらず、真夏の様な暑い日
の夕方だった。
アルベルトとラルフは学校の帰り道をくたくたになって帰っていた。
「全くどうして僕が目に」
「しょうがないだろ。みんなに心配も迷惑もかけたんだから。まぁ、そのペナルティ
が休日に学校中の掃除を二人でしろって言うのは、厳しすぎると思うけどさ。」
そうなのだ。
インゼクト達に襲われ、シャルロッテの協会に連れていられたあの日。
二人が学校の皆のところに戻った頃には、
午後の9時を過ぎていた。
二人が戻ると皆は安心して、ユリアなどは涙を流して喜んでくれたが、その反面、教師たちにはひどく叱られた。
二人は慣れない街で迷子になったと言い訳したが、それだけでこんなに遅くなるわけがない。どこかで遊んで来たんだろうと言われ、罰として週末の休日に学校中の清掃を言い渡されたのだ。
「君がインゼクトなどに目を付けられるからややこしい事になったんですよ」
「それは仕方ないだろ。何でもかんでも俺のせいにするなよ」
「何でもかんでも君のせいにしてなければやっていられません」
シャルロッテと再会して以来、アルベルトは機嫌が悪い。
でも、それも仕方ないだろう。
自分を封印した相手シャルロッテに再び捕らわれた上に、気が付けば最愛の妹まで彼女の手中に収められてしまっていたのだ。
アルベルトがイライラするのも無理はないとは思う。
(でも、だからって俺に八つ当たりされても)
理不尽だ、とラルフは心の中で憤慨した。
ラルフはチラリとアルベルトを見る。
「何ですか」
ラルフの視線を感じて、アルベルトが不機嫌に問う。
「いえ、何でも」
ラルフはアルベルトから視線を逸らした。
するとアルベルトはラルフを壁際に追い詰めると、レンガの壁に右手を付いた。
「何でもない訳ないでしょう。君は僕に聞きたい事はないのですか?」
「あの、顔が近いんですが」
「黙りなさい。で、どうなんです?僕は君に聞きたいことが一つあります。」
「なに?」
「貴方はリリィが協定に入った理由をシャルロッテから聞きましたか?」
「お前はシャルロッテから聞かなかったのか?」
「色々あって聞きそびれました」
「そうなんだ。」
ラルフはアルベルトの視線から目を逸らし、足元をみた。
「俺にもよく分からないけど、別に騙されて入ったという訳でもないみたいだったよ。シャルロッテはリリィの意志だったって言ってた」
「その話を間に受けるのですか?」
「そうじゃないけど、お前を失った彼女の生きる道はそれしかなかったんじゃないかな?
って思うんだ。」
「そうでしょうね。全ては非力な僕のせいです。」
アルベルトは力なく肩を落とした。
もしかして、この数日。それを思ってアルベルトなりに落ち込んでいたのだろうか。
ラルフは慰めの言葉を探すがなかなか見つからない。
すると突如アルベルトは勢いよく顔を上げる。
「しかし、全ての元凶はあの天使シャルロッテです」
「やっぱりそこに行くんだな」
突っ込みながらラルフは内心ほっとした。
元気のないアルベルトの姿は見ていたくなかった。
どうしてそう思うのか、ラルフにもよく分からなかったが・・・・・・
「それで」
アルベルトがラルフを見つめる。
「君は僕に何か聞きたい事はないんですか?」
確かに聞きたい事がない訳ではなかった。
例えば、アルベルトはどうしてシャルロッテに封印されることになったのかとか。
でもそれはなかなか本人には聞きづらい。
「別に、特にないよ」
「本当に?」
「本当だって」
「では君は僕がシャルロッテに封印された理由に興味がないのですね」
「ええ?それ聞いちゃっていいの?」
驚いてラルフは思わす大声を上げる。
「いいですよ。簡単にならね」
アルベルトはあっさりと答える。
「えっ、でもそんな・・・・・・」
ラルフが訊きづらそうにしていると、突如二人の横から何者かが歩いてきた。
「それは僕も聞きたいな」
見るとそれは、白い制服姿ではなく、黒い私服に身を包んだライナーだった。
ライナーの姿を見るや否や、アルベルトはラルフから離れ臨海体制に入る。
「貴方に話すことは何もありませんよ。ライナー」
「そういうと思ったよ。なら、力づくで聞き出そうかな」
ライナーがすかさずツヴァイ・メッサ―を構える。
アルベルトも自らの武器を取り出した。
「ちょっと二人とも、こんな住宅街では駄目だって」
ラルフが慌てて止めるが、二人の殺気は収まりそうになかった。
「大丈夫。ちょっと追い払うだけですよ。君はそこで見ていなさい。」
そう言ってアルベルトはラルフにキスをひとつすると空高く舞い上がった。
それを追いライナーが屋根の上に飛び上がる。
アルベルトにキスをされ、体の力を奪われて立ち上がれなくなったラルフはそんな二人の様子を地上で見守る事しかできなかった。
「へぇ、すごいね。その魔力。この間戦った時とは比べ物にならない強さだ」
アルベルトと剣を交えながら言う。
「再びお褒め頂いて光栄ですよ。そのお礼に僕の本気をお見せしましょう」
アルベルトはシュバルツ・シュペーアで大きく弧を描くと、そこから生み出された巨大な蒼い炎をライナーにぶつけた。するとライナーはツヴァイ・メッサ―を構え、それを弾き飛ばそうとするが、火焰の勢いに押され、住宅街の中に飛ばされる。
ライナーが飛ばされた先は幸いにも公園で他に被害は出なかったが、彼が落ちた場所には大きなクレーターが出来てしまった。
それを見てラルフが慌ててアルベルトに声を掛ける。
「やっぱり住宅街での戦闘はまずいって」
「そうですね。ならば彼にはさっさと死んでもらいましょう」
「それはもっとまずいよ」
ラルフは急いでライナーに駆け寄ると、彼の体を揺さぶった。
「ライナーさん。今のうちに早く逃げてください。今のアルベルトは機嫌が悪いから、本当に殺されちゃいますよ。」
するとライナーはラルフを押しのけ立ち上がる。
「漸く彼の本気を引き出せたのに、ここで帰れと言うのかい。それはあまりにも勿体ないじゃないか。それに僕は負けるのがこの世で一番嫌いなんだ」
ライナーは再びツヴァイ・メッサ―を構えると、アルベルトの方へ駆け出そうとする。
すると、その胸のポケットから一枚の封筒が零れ落ちた。
ラルフはそれをそっと拾いあげる。
封筒の裏にはシャルロッテの名前が書いてあった。
「ライナーさん、これは」
ラルフが訊くとライナーは
「あっ」
と言って振り返る
「そういえばシャルロッテから君たちにその手紙を渡すように言われていたんだった」
今回ライナーが二人の所に来たのはそれが目的だった様だ。
(ライナーさん以外に頼む人はいなかったのかな)
ラルフは軽く眩暈を覚えた。
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