第4話 協定 -2
その翌日。
アルベルトとラルフは薔薇の咲き誇る豪邸の前に立っていた。
広い庭を抜けて玄関にたどり着くと黒いメイド服を着た若い女性が、二人を客間へと案内してくれる。
「それではシャルロッテ様がいらっしゃるまで、今少しお待ちください」
メイドは二人に恭しく頭を下げると客間を出て行った。
その姿が見えなくなるのを確認してから、ラルフはアルベルトに囁く。
「いいのか。こんな所にのこのこ来ちゃって
「リリィの事で相談が在ると言われると、来ない訳にはいかないでしょう」
そう言いながら、アルベルトは苛立ちを隠せない様子で腕組みをし、眉根を寄せている。
「俺が言ってるのは、お前がシャルロッテを前にして怒りを抑えられるのかって事なんだけど」
「それは話の内容次第でしょうね」
「心配だなぁ」
ラルフは呟いた。
それからしばらくすると、客間の扉が開いて、シャルロッテがリリィを引き連れて現れた。
「よく来てくれたわね、二人とも」
シャルロッテは以前とは印象の違う、ピンクのフリルドレスを身に纏っていた。
リリィはその後ろにおとなしく控えている。
「ええ、貴女が寄越した手紙に従ってまんまと来てやりましたよ。さぁ、早くリリィ返して貰いましょうか。」
「まあ、そう。焦らないで。まずはお茶でもいかが?」
シャルロッテがそういうと給仕の青年が4人にいい香りのする紅茶を淹れてくれた。
「このお茶の名前はスノードロップ。爽やかで涼し気な香りの紅茶で私のお気に入りなの。アルベルト、貴方の次にね」
シャルロッテがアルベルトを上目遣いに見つめる。
「分かりませんねぇ」
アルベルトが紅茶を一口飲み呟く。
「どうして貴女が僕の様な半端な悪魔に執着するのか」
「だから、前にも言ったでしょ。貴方の力に興味があるのよ」
それを聞いて、素直じゃないなぁとラルフとリリィは思う。
まぁ、本当の理由をきいたところであのアルベルトがシャルロッテを許すとは思えないが。
「僕の力なんて大した事はありませんよ。なにせ見習い天使に簡単に封印されてしまうくらいですからね」
「でも、昨日はライナーに勝ったと聞いたわ」
「偶々調子が良かっただけです」
アルベルトはシャルロッテが現れてからずっと無表情だ。
それが逆にラルフは怖かった。
(どうか喧嘩になりませんように)
ラルフは心の中で祈っていた。
「それで、話は変わりますが」
「何かしら」
「とぼけないでください。リリィを協会から解放すると手紙に書いて寄越したのは貴女の方ですよ」
「そうね。」
「リリィを解放することは可能なのですか?」
「ええ。可能よ。私が解放の儀式を行えばね」
「解放の儀式?」
ラルフが訊き返した
「リヒト・クライノートは手にした者の魂を取りこむ。だからクライノートを無くしたり、勝手に壊したりした場合、持ち主は命を落としてしまうの」
「それであの時、リリィは必死で石を探してたのか」
ラルフが訊くとリリィはコクリと頷く。
「けれど儀式を行い私が石を壊せば、持ち主の魂を取り出し相手に返す事が出来るわ」
「前例はあるのですか?」
「ええ、もちろん。けれどみんな魂をクライノートから解放してあげても、数日後には死んでしまうの」
「えっ、それはどうして?」
ラルフは驚いて聞き返した。
「一度リヒト・クライノートに魂を預けた悪魔は解放さたれ後、自分で魔力を回収する力を失ってしまうの。だから魔力不足に陥って死んでしまうという訳」
「それじゃあリリィも解放されたところで死んでしまうんじゃ」
「それは大丈夫。アルベルトがリリィに魔力を分けてあげれば問題ないわ。それこそ昔みたいにね。双子の悪魔はそれが出来るから便利ね」
シャルロッテが再びアルベルトを見た。
しかし、アルベルトの方はさっきからシャルロッテを一度も見ない。
「それで、その儀式を言うのはすぐに行って貰えるんですか」
「それは無理な相談ね。」
あっさりとシャルロッテは答える。
「ならば条件は何です?」
するとシャルロッテは後ろに控えていた執事から一枚の紙を取り出して、アルベルトの前に差し出した。
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