エピローグ
あの一件から早四年が経過した。
二十歳となった俺は大学生になっていた。
あの一連の事件は後に『地下研究施設大量虐殺事件』と言われ、日本の黒歴史の一ページとなった。
俺たち学園生はその後、この事件の被害者として政府に保護される形となった。
月花学園は解体され、この事件に関与した者は皆、逮捕され、有名校の衝撃的な新事実に当時の世間はかなり揺らいだ。
社会的問題にまで発展し、しばらくの間はこの話題で持ち切りになったくらいだ。
プログラムは今世紀最大の災厄として完全破壊され、地下都市は閉鎖となった。
この事件によって政府の一部が研究所に関与していたことが明らかとなり、国会は大混乱に陥った。
ほとぼりが冷めた頃、俺たち学園生は政府が運営する支援学校へ送られた。
そこで二年間、普通の学校生活を送り、月花学園の行事にはなかった文化祭や体育祭といった行事も初めて行った。
最初はショックで無気力な生徒が多かったが、時間と共に徐々に活気が戻ってきた。
処刑被害にあった生徒も半年ぐらいで身体が回復し、精神面で問題がない人は普通に学校生活が送れるくらいまでになった。
しかし、精神面に深い傷を負ったものは四年経った今でも深刻な状態が続いている。
生徒会長であった向郷先輩と生徒会役員だった香恋先輩はこの事件をより多くの人に知ってもらうべく全国を飛びまわり、今ではとある協会の会長と副会長という立場になっている。
俺の友人の一人、時宗 正は家業を継ぐべく高校卒業後はヨーロッパへと渡り、修行をしているようだ。
星宮さんは密かに隠していたアイドル歌手の夢を実現するため、大学に行きながら下積みの日々を送っているらしい。
そして白峰さん。彼女は父が社長を務める質屋の次期跡取りとしてより自分を磨くために海外の超一流大学へと進学し、猛勉強を重ねているとのこと。
高校卒業後は皆、バラバラになってしまったがSNSなどを通じて今でも連絡を取っており、時間が合う日は年に一度か二度、顔を合わせる時もあった。
そして俺はというと――
「よっ! 未来の総理大臣さん!」
「うおっ!」
いきなり叩かれたので俺は驚きのあまり声が出てしまった。
「ん? なんだ瀬戸か。脅かすなよ」
「別に脅かしたつもりはねぇよ。なんか元気なさそうだったから気合いを入れてやっただけ。次の時限の教授は厳しいからな」
「俺はいつもこんな顔だよ。元気がないわけじゃない」
「そうか? ならいいんだけどよ」
彼の名前は瀬戸。
大学に入学してからの友人だ。気さくな奴で入学当初ボッチだった俺に話をかけてきてくれた男だ。
今では一人の友人としてよく一緒にいる。
「あ、そういえばこの前のお前の演説聞いたよ。剣人はホントすげぇな!」
「そ、そうかな……?」
「ああ! 引き込まれるような熱い演説ですっかり聞き入ってしまったよ」
「別に大したことは言ってないよ」
「そんなことはないさ。同級生とは思えないくらいだぜ」
「持ち上げすぎだって……」
俺は政治家を目指すべく議員秘書について猛勉強をする日々を送っていた。
とはいっても最初は政治家関連でコネクションなど全くと言っていいほどなかったため、自分を必死に売り込み、半年の期間を経てようやく秘書となったという感じだ。
俺が政治家を目指すことになった理由、その答えは単純でこの世の中を変えたかったからだ。
事件から四年経ち、修復しつつある政界だが、今でも闇に包まれている部分は多い。
俺の夢は政治家となり、そのような闇を徹底的に根絶して三年前のような過ちを繰り返さない国造りを目指すのが今での生きがいの一つとなっている。
その原動力となっているのは三年前に亡くなった有巣亜理紗の笑顔だった。
最後に見せたあの笑顔をもう一度見たい。叶うはずもない夢を抱いてどんなに苦しいことでも乗り越えられるようになった。
俺は積極的に政治活動に参加し、今では大学生という身でありながら政党の推薦を受け、町の中心部で大々的に演説をするなど知っている人はその名を知っているという所まで来ていた。両親もこのことには賛成してくれて特に父の大助は資金援助までしてくれていた。
父はあの事件の後、政府の方へ今回起きた事件の細かな説明をして再び実業家としての活動をするべく 日本を去った。
右手に持ったペンで今後のスケジュールを書きながら言う。
「でも今の所は順調なのは間違いない」
「ああ、勝負まであと五年だな」
「うん、被選挙権の年齢に達するまではひたすら下積み活動だ。俺は理念を日本中に広めたい」
「俺も応援するぜ友よ。友人が政治家なんてカッコいいからな!」
「ふっ……雑な理由だな」
「はっはっは! まぁそういうなって」
俺の肩をバシバシ叩きながら大声で笑う。
まったく毎度毎度疲れる奴だ。
でも本気で応援してくれているのは本当にありがたい。政治活動も人手が足りない時は自分から名乗り出て積極的に手伝ってくれたしな。
だからこそ、期待を裏切らないためにも政治家にならなければならない。
何が何でもだ。
今思えば、俺は昔と変わったなと思う。
高校入学前、まさか自分が政治家を目指すことになるなんて思いもしなかった。
中学までは何もせず、友人もいるわけでもなくただ普通に生きているだけだった。
俺はあの学園に入って人生が変わったのだ。
昔の俺では考えられないことを今の俺は成し遂げようとしている。
でも今送っている日常も悪くはなかった。
こうやって支える人がいてくれて、演説をすれば自分の理念に賛同してくれた人もいた。
大変な毎日だが、自分的にはとても充実していると思う。
「じゃあ俺はこの辺で失礼するわ」
「え? お前授業は?」
「これからやらなきゃいけないことが山積みなんだ。授業なんて出ている暇ないよ」
「そうか、分かった。何かあったらまた言ってくれよ」
「いつもサンキューな瀬戸」
「いいってことよ!」
俺はキャンパスの外に出て深く深呼吸をする。
「こんな美しい自然があるのに人は自分たちのために破壊し、それを見て見ぬ振りをする。政治も同じだな」
ゆっくりと歩き始め、キャンパス内にある紅葉の道へと入っていく。
ずらーっと並んだ紅葉の木は秋の今頃は見どころ満載だ。
満開の紅葉に囲まれ、まるで別の世界に迷い込んだような感じがする。
「相変わらず此処の紅葉は最高だな」
最高の景色に一人感動していると後ろから女性の声がした。
「金山剣人くん」
この声は聞いたことのある声……いや忘れることはない。
衝撃を強すぎたのか後ろを振り向く勇気がなかった。
それでも彼女は俺の名前を呼び続ける。
震えた手を握りしめ、俺は恐る恐る振り向く。
「……はっ!」
陽光が差し込み、眩しくて見えづらい。でもすぐに分かった。
「久しぶりだね。四年振り……かな?」
そこにいたのは死んだはずの有巣亜理紗だった。間違いない、本人だ。
「……どうして君がここに……」
「奇跡……かな? 私は一度死んだ。けど病院に運ばれて検査を受けている最中にいきなり心臓が動きだしたんだって。原因は分かってないらしいけど」
「う、嘘だろ……」
衝撃的過ぎて腰が抜ける。
「け、剣人くん!? 大丈夫?」
彼女はさっ手を差し出す。
「あ、ああ。うん」
その手を握り、身体を起こす。
「ずっと君に会いたかった……私を救ってくれた人に」
「俺も……君に会いたかった。この四年間、君を救えなかったことを後悔していたんだ」
「そっか……よかった……」
風が吹き、紅葉が空高く舞う。
俺はこの幻想的空間で運命的な再会を果たした。
「改めて言うね。剣人くん」
風で舞った紅葉が彼女を包むようにして飛んでいく。
そして少し微笑み……一言。
”救ってくれて……ありがとう……”
俺の周りには風で散った紅葉でいっぱいだった。
(そうか……解放されたんだな。やっと……)
俺は生涯、あの時に経験した全てを忘れることはないだろう。
有巣亜理紗は何十年もプログラムとして生きてきた人生に終止符を打ち、そして今、新たな道を歩もうとしている。
でも何より俺が嬉しかったのが、彼女のその無垢な笑顔を見せてくれたことだった。
一時はどうなることかと思ったけど、最後の最後で報われて良かった。
この笑顔は恐らく俺の心の中で一生残り続けると思う。
だって彼女のその嘘偽りない笑顔の先には希望があり、そして……眩しすぎるほど、煌めていたのだから。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!
恋愛ものは慣れていないので、至らない点は多々あったかと思いますが、たくさんの方々に読んでいただき、とても嬉しかったです。
また機会があれば完全新作として現実恋愛ものを書いてみようかなと思います。
新作『俺の冴えない幼馴染がSランク勇者になっていた件~組織から追い出されて鍛冶職人になった俺、久々に幼馴染に再会。でも何だか様子がおかしいんだが?~』を投稿致しましたので是非ともそちらもよろしくお願いします。
下記にリンクを貼っておきます。
エリート学園に入学させられしただの凡人の成り上がり~天才美少女たちと解決する難攻不落の学園黙示録~ 詩葉 豊庸@『俺冴え』コミカライズ連載中 @banrai_shirogane
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