第1話 美少女と地下学園
入学式当日。俺は誰もいないこの静かな家で朝食を済ませた。
俺の両親は海外で実業家をしているのでたまにしか家に帰ってこない。姉弟で社会人の姉がいるが家を出て一人暮らしをしているので基本家には俺以外に誰もいない。
向こうでは寮生活が強制されるので当分この家ともお別れだ。
新しい制服に袖を通し、様々な不安や期待を胸に家を出た。
「あれ? おかしいな……この辺のはずなんだが……」
早々に道に迷った。やばい。入学式まであと30分なのに。
「あら――その制服……あなた月花学園の新入生かしら」
その透き通るような声に反応し、振り向いた瞬間俺は目を奪われた。
美しくも凛々しさを感じられる銀色に輝く髪。何か遠く未来を見通すことができるのではと思うくらい綺麗で奥ゆかしさのあるライトブルーに輝く瞳。
そしてなんといってもスタイルが抜群に良かった。
(なんなんだこの天使のような生き物は!)
いつの間にか俺は完全にその人の容姿に引き込まれてしまっていた。
「あなた聞いてる? さっきから私を見てぼーっとしているみたいだけど」
美少女が不思議そうに尋ねる。
「あ……すみません。ええっと……あなたも月花学園の新入生の方なんですか?」
俺はおどおどしながらも彼女に問いかけた。
(仕方ないだろ! 俺は中学の頃もまともに女子と会話したことないんだから。ましてやこんな美少女と会話する日が来るなんて思わないだろ?)
そう……俺はいわゆるコミュ障ってやつだった。
美少女は透き通った声でこう話した。
「ええ、そうよ。私は
「俺は金山剣人って言います。今日から月花学園の一年になります。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
(なんだろ最初は綺麗な容姿に見とれていたけど、冷静に見てみると凄まじいオーラを感じる。こう……なんだろうカリスマ性というか……)
とりあえず彼女を見て確信したのは俺みたいに平凡な人間ではないということだった。
すると白峰さんが、
「早く行くわよ。入学式まで時間がないんだから。あなた、道に迷っていたんでしょ?」
「え? あ……はい……お恥ずかしながら」
「ならさっさと行くわよ」
こういうと白峰さんは俺の行っていた方向と逆の方向に足を動かした。
(あと15分しかない。いったいどこにあるんだ?)
すると彼女は、俺たちの立っていた所のすぐ近くにあったマンホールの中に体を入れ始めた。
「白峰さん? いったい何を……」
驚いた顔で見つめる俺に彼女はこう答えた。
「あなた、学園が地下にあること知らないで道に迷っていたの?」
「――え? どういうこと? 地下に学校?」
地下に学校なんて漫画みたいな世界があるわけないだろ……みたいな表情に思わずなってしまった。
「あなた、早く来なさい」
またもぼーっとしてしまった俺に透き通った声が耳に響く。
マンホールの中を奥へ進んでいくと、一筋の光が見えた。
(ここ地下だよな……なんでこんなに明るいんだ……?)
閃光の先に進むとこの世のものとは思えない驚くべき光景が広がっていた。
なんと地下に都市部が存在したのだ。
広さはどれくらいあるのだろう。でもとにかく広い。
一言で言えば、果てしなく続く地下空間に大きな未来都市があるという感じ。
それは地上の世界とはまた別の世界なのではないかと思うくらいだった。
白峰さんの案内でなんとか学校に着くことができた。
残り5分……危なかった。
そのまま流れるように入学式が行われる大きなドーム型の会場に足を運んだ。
「どこからどこまでが学校なんだ?」
思わず自分の口から疑問が漏れた。
それを聞いた白峰さんが、口を開いた。
「全部よ」
「全部!? この地下都市全部が学園の敷地なんですか?」
「そうよ。正確に言えば都市というより、国が作らせた研究施設みたいなものかしら。」
「研究施設……?」
(研究施設にしてはやけに広い。国が人目につかない場所で研究することっていったいなんなのだろうか)
そこで俺は、もう一つ彼女に質問をしてみた。
「白峰さん。なぜこんな人目につかない場所に学園を作る必要があったんですか?」
白峰さんはゆっくりと答えた。
「それは私にもわからないわ。ただ国が極秘裏に研究することがあるからこういう施設を作ったことは間違いないと思う。実際にこの国の政治や各業界の権力者はこの学園の卒業生だもの。ただそれ以外は完全に情報網が遮断されていて外部には一切漏れることはないみたい」
「だから名前だけしか知らなかったのか……」
白峰さんの見解からすると、この学園は国が作った研究施設であり、政界や財界など各業界のトップの人たちのほとんどがこの学園の出身者であるという。
しかもこの学園では国が極秘裏に進めている研究が行われているとのことだ。
「なんかすごいところに来てしまったな……」
俺の心に不安が積もる。
だが白峰さんは至って冷静だ。なんかこう――堂々としていて自分にはないものを感じた。
こうしてこの先の学園生活に不安を感じるも入学式が始まるのであった。
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