第19話 目覚め
「ん、んん……」
目を覚ますとそこは見覚えのある生徒会室だった。
起き上がると少しだけ頭痛に苦しんだが、外傷とかはまったくなかった。
「夢……だったのか?」
だがそれはすぐに違うと判断することができた。
俺はいつの間にか右手に虹色に輝く小さな鍵を握っていたのだ。
「なんだ? これ」
あの場所に行く前にこんなものを持っていった記憶はなかった。
「やっぱりあれは夢じゃなかったのか……」
俺はすぐさま立ち上がり、生徒会室の奥の部屋に行き、例の扉を調べてみることに。
すると、
「そ、そんなバカな……」
だがそこにあったはずの扉がきれいさっぱりなくなっており、手掛かりとして残ったのは右手に握りしめていた虹色の鍵だけだった。
「なにがどうなっているんだよ」
とりあえず、他の場所にも似たような扉がないかと探す。
そうして部屋を物色していると会長と副会長の声が居間からしてくる。
どうやら用事から帰ってきたようだ。
「ふぅ~相変わらずしんどい仕事だな」
「僕もあの仕事はあまり好きじゃないですね」
「全くだ。お~い金山いるか~?」
会長の問いかけに俺はすぐに反応。
散らばっていた書籍や書類を早急に片付ける。
「あ、はい。ここにいますよ~」
「どうだ? 掃除はできたか?」
「いや、それがですね……」
そういえばまったくと言ってもいいほど掃除なんてできていないことに気がつく。
奥の部屋を見られでもしたらなにもやってないのがバレバレだった。
俺は自身の身体を使い、隠しながら会長の目を欺こうとしたが……無理だった。
会長はずんずんと奥の部屋へと入って行く。
すると、
「おい、金山」
「は、はい」
声のトーンも表情の変化も180°変わった。
(ヤバイ。確実に怒られる!)
脅える俺に会長はなにも言わずに部屋を出た。
「か、会長?」
特になにもいうわけではなく会長は生徒会室から去っていった。
(ど、どういうことだ?)
あまりの汚さに声も出なかったとかなのか?
いや……でも何かそれは違う。
何か、なにかを見て驚いていたような……そんな感じだった。
「國松先輩、俺何かしましたか? いや、その……掃除は確かにできてなかったんですけど」
「いや、気にしなくていいと思うよ。あ、今日はもう帰っていいよ」
「お疲れさま」と言って後に続くように國松先輩も生徒会室から出て行ってしまった。
彼もまた似たような表情を浮かべ、また俺は一人取り残されてしまった。
「な、なんなんだ……一体」
俺は心配になり、帰る支度をしないでひたすら掃除に徹すること。
だがこの時、俺はまだ知らなかった。
会長たちが何に驚き、そしてあの脅えるような表情が何を示していたのかを……。
♦
一方、剣人が掃除を再開していた頃、向郷と國松は……
「会長、どうかしましたか?」
後を追った國松がそっと聞く。
すると向郷はいきなり立ち止まった。
「なかった……」
「え、なかった?」
「ああ、扉が……例の扉がなくなっていたんだ」
「ま、まさか……。でもあの場所は」
「ああ、我々生徒会が関与してはいけない場所だ」
「彼が……入ったということですか?」
「分からん。だが可能性の一つとして考えられるだろう」
「で、ですが彼はどうやって入ったのでしょう? 僕たち生徒会メンバーですら入り方を知らないというのに」
「さぁな。だがまずいことになったのは確かだ。この学園、いや……この地下都市自体のトップシークレットを見られたとなると……」
「どうしますか?」
「いや、今は動かないでおこう。あとひと月で学年末だ。下手な混乱は避けたい」
「分かりました。ではこのことは内密にしておきます」
「頼む。彼にもそう言っておいてくれ」
「分かりました」
國松は礼をすると、再び生徒会室へと戻っていく。
で、場面はまた生徒会室へと移る。
俺は掃除がひと段落ついて休憩を取っている最中だった。
「ああ~やっと半分終わった~」
すると國松副会長が生徒会室に戻ってきた。
「金山君、まだ残っていたんだ」
「あ、國松先輩。会長、怒っていませんでした?」
「そのことは大丈夫だと思うよ。ただ……」
「ただ……?」
一瞬だが不穏な空気が走った。
國松副会長の顔もいつもより若干棘があり、緊張感が走る。
周りは静まり返り、自分の心臓の鼓動が明瞭に聞こえてるほどだった。
「金山君はその、あの扉に向こうに足を運んだのかい?」
「と、扉……?」
最初はいきなりそう言われて戸惑ったが、國松副会長も例の扉の存在を認知していると知った俺は正直に答えた。
「は、はい。いきなり扉が開いてその先に階段が見えたので気になってしまって」
「やはりそうだったんだね。ありがとう、正直に言ってくれて」
「先輩、あの施設は一体なにを研究しているんですか?」
「なにをって?」
「い、いえ……やっぱり何でもないです」
俺は咄嗟の判断で聞くのをためらってしまった。
正直に言うと、真実を聞くのが怖かったからだ。
あの時もそうだったが、知ってはならないことを知ってしまった気がして……
「それで、階段の先には何があったのかな? 僕もあの扉の先に何があるのか気になってたんだ」
どうやら國松副会長は扉の向こうに入ったことがないとのこと。
俺は真実を言おうがかなり迷ったが、結果的には「なにもなかった」と適当な返しをしてしまった。
すると國松先輩はうんうんと頷き、「わざわざごめんね」と一言謝罪を言って生徒会室から出て行った。
「謝りたいのは俺なんです……副会長」
俺は罪悪感でいっぱいだった。
善人的考えよりも悪人的考えを優先してしまった。
あんな物を見てしまったと言えば俺自身どうなるかも分からなかったからだ。
真実を知りたくないという気持ちの裏には自分を守るための言い訳も混じっていたのだ。
「最低だな……俺……」
その後、俺はなにも考えずに帰る支度をした。
時刻は既に19時をまわっていた。
外を見ると満天の夜空が輝いていた。
校門から出ようとするともう生徒たちの姿はなかった。
もう日も暮れているし、当然と言えば当然である
が、そんな中で後ろから俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「金山く~ん」
この声に反応し、俺は即座に後ろを向く。
するとそこには星宮さんの姿があった。
「あ、星宮さん」
「こんな時間まで生徒会の仕事? お疲れさま~」
「星宮さんは部活?」
「そうだよ~今日も練習きつかったよ」
「確かテニス部だよね。こんな時間までやってるんだ」
「そうだよ~。今日も練習きつかったけど、何とか乗り切れたよ~」
「そうなんだ。お疲れ様です」
俺はこの時、充実している彼女がうらやましいと思った。
自分と比較すると相当高校生しているからという単純な嫉妬だ。
それに比べて俺は……
「金山君はもう帰り?」
「あ、うん。もう帰るよ」
「じゃあ帰りに寄りたいとこあるんだけどよかったら一緒に行かない?」
「え? あ、うん。いいけど……」
「やったあ! じゃあ行こ!」
「え……ちょ、ちょっと!?」
突然の彼女からのお誘い。
あまりにも唐突すぎて驚きを隠せなかったが、場の勢いでOKをしてしまった。
(今日は何だか波乱な出来事ばっかりだな……)
俺はそのまま腕を引っ張られると、なすすべもなく彼女に付き合うことになったのだった。
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