第20話 謀略者
連れてこられたのは最近新しくできたというカフェだった。
なんでも地上ではこのカフェが今大人気だそうでテレビでも放映されていたらしいのだ。
で、最近この地下都市にも店ができたとのことで部活帰りに友人と行こうとしたらしいのだが、予定が合わなかったようで代わりに俺を誘ったとのことだった。
(……相手が俺なんかで本当にいいのだろうか?)
俺はそう思いながらも、星宮さんと店内へ入る。
「一度来てみたかったんだよね。地上には出られないからテレビの映像だけで我慢しようと思っていたんだけど、まさかこんなとこにお店ができるなんて思わなかったよ」
「確かにここだとここに住んでいる人しか来れないもんね」
「そう! だから地上の店と比べて混まないから最高だよ」
だが割と店内は人が多く、主に若者を中心として賑わいを見せていた。
「結構いるな……さすがは人気店」
「まぁ、ほとんどが学園生とここで働いている人だけどね。あ、あとテスト生も入るかな」
「テスト生?」
「うん。この地下都市の調査を仕事とする外部者のことだよ。前に友達が言ってた」
「へぇ~」
そう、この地下都市では学園生と研究者、労働者の他にテスト生という人たちもいる。
期限付きで地下都市に住んでみてどう感じたかチェックする人たちの事だ。
調査の対象は色々でもちろん、俺たち学園生も例外ではない。
要はシステムの他にも人の目でも見られているということだ。
国が直接に関与しているとは言っても正直、気持ちいいものではない。
と、そんなこんなで星宮さんと世間話をしながら席で待っていると、ウエイターが豪勢なパフェを持ってきた。
すると星宮さんはすぐさまスマホを取り出し、写真を撮り始めた。
「これ凄くインスタ映えするって有名なんだ~」
「そ、そうなんだ……」
インスタ映えとは何かの造語なのだろうか?
SNSのことだということなのは分かるのだが、俺は今まで生きてきた人生で友人と呼べる者があまり多くいなかったため、SNSとかそう言った類のものはかなり疎く、彼女が何を言っているのかよく分からなかった。
それより俺は今日起きた出来事が色々ありすぎてそれどころではなかったのだ。
(あの少女は一体何だったのだろうか。それにあの施設は……)
俺はそのことだけで頭がいっぱいで他のことなど考える余裕すらなかった。
だがさすが星宮さんというべきか、彼女はすぐに俺の異変に気づいた。
「金山君、なにかあったの? 元気なさそうだけど……」
「え? そう?」
「うん……何かいつもより暗い感じがする」
(いつもよりって……俺って普段から暗い印象を持たれているのか?)
確かによくパーカーフェイスだねと言われていた身ではあるけど……
「だ、大丈夫だよ。気にしないで」
「そ、そう?」
俺はぎこちない笑みを浮かべながらそう返答する。
だが星宮さんは何か悪いと思ったのか、
「ご、ごめんね。なんか大変な時に付き合ってもらっちゃって」
「いやいやむしろ嬉しかったよ。ちょっとこの頃色々あってね……」
「そうだったんだ。もしよかったら相談乗るよ?」
「うん……ありがとう。でも俺なら大丈夫だから」
嬉しいことを言ってくれたのだがさすがに相談することはできなかった。
俺はおそらく触れてはいけない物に触れてしまったのだと思う。
だからこそ関係のない人を巻き込むことだけは絶対にしたくなかった。
それに俺はあの時を思い返すと、何となく思った。
あの出来事は偶然ではなく、必然だったんじゃないかと……。
お店を出た後、星宮さんと一緒に帰った。
綺麗な夜空とは裏腹に冬の寒波が俺たちを襲う。
「さむっ! ここまで忠実に再現しなくてもいいのにね」
俺は身体を擦りながらこう言う。
「冬は寒いものだから仕方ないよ。私は嫌いじゃないかな」
「星宮さんは寒さに強いんだね。夏派の俺からすれば地獄だよ……」
「ああ~でもそうかもしれない。私も夏の暑さはどうしても耐えられないもん」
「やっぱそうだよね」
彼女と笑いながら話していると悩んでいたこともすぐに吹き飛びそうだった。
こういう何気ないことが今の俺にとっては癒しだったのである。
「今日は付き合ってくれてありがとう、金山君」
「こちらこそ。俺も星宮さんと話せて良かったよ、ありがとう」
俺たちは互いに礼をすると星宮さんは女子側、俺は男子側のマンションへと方向を変える。
そしてその帰途で俺は色々なことを感じた。彼女の笑顔を見ていたら不思議と気持ちが軽くなっていく感覚や心配してくれたことの嬉しさ。
俺が今まで感じたことのない感情だった。
だがそれと同時に高校に入ってから新しい発見の連続で今まで相当中身のない人生を送ってきたんだなと痛感した。
「ただいま……って言っても誰もいないか」
家に帰ると俺は早々にベッドに倒れ込み、ふと時計を見てみると既に21時をまわっていた。
「あぁ……疲れた」
正直、高校に入ってここまで充実するとは思わなかった。中学の頃は授業が終われば当たり前のように誰とも話さず直帰。生徒会はおろか部活すらしたことがなかった。
1年前の俺ならまさか自分が生徒会の仕事をするなんて想像もつかなかったことだろう。
「会長のことも気になるし、明日は早めに生徒会室へ行って掃除してなかったことを謝ろう……」
俺はベッドに倒れ込んだまま疲れ果てて寝てしまった。
♦
――同時刻、某地下研究所。
「なんだと!? それは本当なのか?」
「はい、間違いありません。何者かが入った形跡がありました」
「一体どうやって……警備は万全だったはず!」
「おそらく予備通路でしょう。あそこは確か学園とつながるようプログラムされていたはずです。極秘であるため監視カメラも設置しておらず、入り込むならあそこ以外考えられないと」
「まさか兵器倉庫からの迂回ルートか? しかしあそここそプログラムで厳重に管理されていたはずだ! 普通なら私とプログラムに携わる者しか通れない。どうなっている!」
研究所内に強く太い怒号が響く。
「わ、私もそこまでは存じ上げておりません。しかし……」
「しかし、何だ?」
肉食獣みたいな鋭い眼差しである男は研究員を睨みつける。
「プログラムがその者を許容し、中に入れたとなると可能性は低いですがあり得ます」
「プログラムが許容するだと?」
「はい。それにプログラムは正常に稼働していたことが確認されています。誤作動が起きたということも一応は考えられますが、可能性としては非常に低いかと」
「と、ということはまさか……」
「はい。その可能性は十分にあるかと。学園側の入り口から入ったとなると学園生に混じっていると推測できます」
「今すぐ調査しろ。見つけ次第拘束、尋問する。それと政府関係者と一般人には見つからないようにしろ。ここで公になれば我々の計画はお終いだ」
「はい、承知いたしました」
研究員は足早に去っていく。
「まさか……こんなにも早く現れるはな」
男は煙草を口にくわえ、火を点ける。
そしてそっと吸い、静かに煙を吐くと、
「モルモットめ……必ずあぶりだしてやる。この私という名にかけてな」
彼の高笑いが研究所内に響き渡った。
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