第8話 まさかの誘い
時は流れて一週間後の放課後。
俺は帰る支度を済ませ、人を待っていた。
最近、俺は白峰さんや星宮さんと一緒に帰るようになり、今日も約束をしていた。
非モテだった中学の頃に比べたら圧倒的な進歩だが、あまり実感はない。
どちらかというと友人としての認識の方が強く、仲の良い女友達といった感覚だった。
(ま、それでも俺にとっては大進歩なんだけど)
今日は白峰さんは用事があるとのことで星宮さんと二人だけで帰ることになっていた。
特に深い意味はないが、二人きりってのは変える前から少し緊張する。
「勉強も厳しいイメージがあったけど結構普通だね」
荷物を纏めながらこういうのは星宮さんだ。
「そうだね。俺も普通で少し安心したよ」
確かに勉強は至って普通で俺でもまあまあついていける感じだった。
エリート集団に合わせた学習をするわけでなく基礎からしっかりと教えてくれる。
そこは本当に助かったと思えることだった。
「そういえばもうすぐ部活動の勧誘会があるね。金山君は部活どうするの?」
星宮さんが突然部活のことについて聞いてくる。
俺は少し苦笑いをしながら、質問に答える。
「実はまだ全然決めていないんだ。星宮さんはもう決まったの?」
「私は、テニス部かな。小学生の頃からやっているから」
「へぇ~そうなんだ。俺は特にスポーツはやったことないから運動部はきついかな」
「でも金山君、身体は結構がっちりしている方だよね」
「毎日筋トレは欠かさずやっていたからね。スポーツやっていなかった代わりに」
「そうなんだ。体を鍛えるの好きなんだね」
こう話しているうちに星宮さんも帰る準備ができていた。
「お待たせ、金山君。帰ろうか」
「うん。帰ろう」
こうして俺が教室を出た瞬間、
「きゃっっ!」
ドンっという音がして俺は弾き飛ばされた。誰かとぶつかったようだ。
「金山君! 大丈夫?」
「いてて……うん、大丈夫だよ」
こう言いながら目を開けたら目の前には――
(こ、この人……)
忘れもしない。前に俺がタブーをかまして、小さいながらにとんでもない威圧を放ってきたこの学園の
通称ちびっこ生徒会長の姿が目に入ったのだ。
(や、やばい……謝らないと!)
俺は慌てて頭を下げ、
「こ、向郷会長! す、すみません。よく見てなかったもので」
すると彼女は、
「大丈夫。私こそ悪かった」
こう言うと彼女は続けて、
「ん? お前は確かあの時の……」
完全に覚えられていた。
まぁ当然といえば当然である。
俺は改めて謝罪をした。
「あ、あの時は本当にすみませんでした! 気に障った発言をしてしまって」
「まあいい。あの時が初めてだったんだ。仕方ないだろう」
彼女はさらっと許してくれた。意外と向郷会長って寛大な人のようだ。
すると彼女は何かを思いつくように、
「お前、ちょっと話があるんだが、時間はあるか?」
「え、まあ今から帰るとこだったんですけど。時間はあります」
「ならちょっとこい」
「え……でも……」
こういって星宮さんの方を見た。
すると星宮さんは、
「大丈夫だよ金山君。私は先に帰っているね」
「ごめんね。星宮さん。お疲れさま」
「お疲れさま!」
星宮さんは笑顔で言葉を返してその場を去った。
「悪いな。恋人と一緒に帰る所を邪魔して」
「い、いや……恋人とか俺と星宮さんはそんな関係じゃ……」
慌てふためく俺。
彼女はそんな俺の姿を見て「ふっ」と笑い、
「お前、なかなか面白い奴だな。気に入った」
「え……」
なぜか知らないが会長に気に入られてしまった。
こっちはなんの話をされるのか不安だらけだというのに……。
♦
連れてこられたのはこの学園の生徒会室であった。
俺はこの生徒会室を見て普通じゃないということをものすごく感じた。
何が普通じゃないかといえば、生徒会室が学園の地階にあるということだ。
いかにも生徒がよりつかないような場所に生徒会室がある。それもあってかこの場所を知っているのは生徒会役員とごく一部の教師のみらしい。
(そんな秘密裏な場所に俺を連れてきて一体なんの話をするつもりなんだ?)
そんなことを考えている内にいつの間にか生徒会室の前に立っていた。
両側開くタイプの大きなドアが目の前にあった。その横にコードを入力するような機械があり、会長はその機械に何かを打ち込み始めた。
すると、扉が手前に開き始めた。完全オートロック式の生徒会室なんて聞いたことがない。
そして俺は緊張しながら生徒会室へ入った。
「お、お邪魔します……」
「その辺に腰を掛けていてくれ。今お茶を入れる」
俺は言われるままに高そうなソファに腰を掛けた。
生徒会室の中は同じ学校内かと思うくらい豪華で暖炉やシャンデリアがあり、豪邸を思わせるようなレイアウトだった。
「どれも高そうなものばかりだ……」
「そうだな。ここは元々学園長室だった所をそのまま使っているから生徒会室という感じはしないな」
彼女がお茶を運んできた。
「そうだったんですか。どうりで」
俺はその話を聞いて納得した表情を見せた。
「あ、お茶ありがとうございます」
俺がこう言うと彼女も腰を掛けて口を開いた。
「それで本題に移るが、お前生徒会に入ってみないか?」
「はい?」
俺は一瞬自分の耳を疑った。
そしてもう一度聞き直しを要求してみることに。
「すみません。もう一度言ってもらっていいですか?」
すると彼女がため息をついて、
「しっかり一度で聞け。お前をこの生徒会に入らないかと誘っているのだ。書記の席が一つ空いているからな」
間違いではなかった。
紛れもなく生徒会へのお誘いだった。
俺は慌てて向郷会長に、
「な、なんで俺なんですか? 生徒会ってこの学園でも特に優秀な人しか入れさせてくれないと聞きましたし、俺はこの学園でも能力は周りの人より劣っているというのに……」
すると彼女は、
「私が個人的に気にいって勧誘しただけだ。もちろん無理にとは言わない。生徒会の仕事はハードなものばかりだからな」
俺は彼女になぜ気に入れられたのか心当たりが全くない。あの時初めて会った以来、たまに廊下ですれ違うくらいだ。
(俺みたいな平凡な人間がエリート集団の先頭に立って行動するなんて……)
こう思い彼女の誘いを断ろうとした瞬間、あの男の言葉が脳裏を駆け巡った。
そう、KDだ。
最近の学校生活が意外と楽しくて忘れそうになっていた。
もしかしたら生徒会に入ればKDに言われたモルモットの意味や、この学園の秘密が分かるかもしれないと思った。
こんなことを考えていると彼女が不思議な表情でこっちを見つめていた。
「おい。大丈夫か? 迷っているなら今すぐ返事をしなくてもいいぞ。三日待ってやる」
「本当ですか? じゃあ少し考えさせていただきます」
とりあえず後日伝えるという形で俺はその場を去った。
家に帰ると、頭の中は生徒会の事で頭がいっぱいだった。
「せっかくこの学園を知るチャンスなんだ。無駄にはできないよな」
それでも俺の心の中には迷いがあった。
真実を知るということが少し怖かったのだ。
でも一番気にしているのは、こんな理由で生徒会に入ってしまってもいいのかということだった。エリート学園と呼ばれるところの生徒会はより高度な能力を求められるだろう。俺はそれについていける自信がなかった。
確かに何かしら情報は手に入ると思う。しかし何より生徒会の足を引っ張ってしまうのではないかという思いが強くあった。
「どうすればいいんだ……」
俺はこのことについて考えすぎて二日寝ることができなかった。
♦
現状所持AP
金山剣人のAP 増減なし。
白峰夕のAP 増減なし。
星宮芽久のAP 増減なし。
向郷 翼のAP 不明
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