第22話 勉強会2


 時はさらに進み、気が付けば学年末テストが一週間前まで迫っていた。

 俺は今、自室に友人を迎えている。


 ちなみに今日は休日だ。


「……って、なんでまた会場が俺の部屋なんだよ」

「まぁいいじゃねぇか。他に場所がないんだよ」

「いや、それならお前の部屋を――」

「それはダメだ。断じて」


 速攻で俺の言葉は遮られ、否定される。

 俺はなぜだ? と聞きたいところであったが一瞬だけ正の声色が低くなったことを察するに何か部屋に他人を入れたくない理由があるのだろう。


 俺はこれ以上、詮索せず仕方なく「分かった」と頷いた。


「じゃ、これより第二回試験勉強会を始めるぞ。みんなコップ持って~」

「え、なぜ?」

「それじゃあ……」


「「かんぱ~い」」


 正が勢いよく音頭を取る。


「か、かんぱい?」


 白峰さんも俺と同様に困惑していた。

 みんなコップを高々と上げる。


 星宮さんはノリノリだったが、俺と白峰さんは乗り気ではなかった。


「おい、正。今日はパーティーじゃなくて勉強会なんだが?」

「そう固いこと言うなって。楽しみながら勉強しようぜ」

「はぁ……」


 まあ相変わらずといえば相変わらずだ。


「金山君、私たちはもう始めましょう」

「そうだね」

「え、なになに? 二人とも何するの?」

「白峰さんにマンツーマンで教えてもらう約束してて。俺わからない所多いから」

「それなら私も教えるよ~」


 星宮さんが近づいてきた所を白峰さんがすぐさまシャットアウトした。


「芽久はいいのよ。私だけで十分だから時宗君とパーティーしていて」

「ええ~? 夕ばっかりずるい。私も金山君に教えたい」

「え、いや教えてくれるなら二人でも全然俺はいいけど」


 すると白峰さんの顔が少し不機嫌になったような気がした。


「わ、わかったわ。金山君がそういうなら」

「やったあ! 頑張ろうね金山君」

「え? ああうん。宜しくお願いします」

「そういえば二人ともいつから名前で呼ぶようになったんだ?」

「確かに考えてみればお互い苗字で呼んでいたね」


 二人は少し恥ずかしがるような素振りを見せた。


「いや、ゆ……白峰さんはいつも仲良くしてくれるしここまで親しい友達はいないから。そのいつの間にかって感じで」

「ま、まあ私も同意見ね」


 正は次なる質問をぶつけた。


「で、二人で金山に勉強を教えるのに取り合っているのは?」

「べ、別に取り合ってはいないよ」

「え、ええ。たまたま私が教えることになっていてなんかこう……横取りされる気がしたからっというか」


 話を聞くと正はニコッと笑った。


「ほう、そうかそうか」


 すると二人はなぜか慌ただしくなった。


「と、時宗君なに笑ってるの!?」

「なにかおかしいことでもあるのかしら?」


 正が二人に迫られている。


「いや、特に深い意味は……おい金山!」


 正は俺の方を振り向くが、俺は目をそらした。


「なんで目をそらすんだよ!」

「いや、巻き込まれたくないし」

「巻き込まれているのは俺なんだけどな……」


 正はボソッと愚痴をこぼした。


「ん? なんかいった?」

「いやなにも」

「こ、こほん。それはおいといて早く試験勉強始めるわよ」

「そ、そうだな。遊びに来たわけじゃないしな」


 わざとらしい咳払いで勉強することに誘導する白峰さん。

 そして正が咄嗟に白峰さんに賛同する。


「さっきまでエンジョイする気だったやつがよく言うな」


 俺はジト目で正の方を見た。


「なんだよ、その顔は」

「何でもない」


 俺は先ほど自分にされたことをそのまま返すように言った。

 テスト勉強は問題なく進んだ。

 だが、女性陣二人が俺に勉強を教えるのに普段の倍以上の時間がかかった。

 なぜならことあるごとに教える場所で取り合っていたからだ。


「いいのよ、芽久。あなたここ分野は苦手じゃなかった?」

「夕こそ、この前の試験でこの部分は点数が芳しくなかったっていってなかったっけ?」


 その現場を見ていた正が俺にそっと近づき、肩を叩いた。


「がんばれよ、け・ん・と君」

「は? なんのことだ。しかもなぜいきなり下の名前で」

「別にいいじゃないか。やっぱり苗字じゃしっくりこないんだよ」

「まあ俺だって名前で呼んでるし」

「じゃあ決まりな!」


 彼の笑顔をみると必然的に自分も笑顔になってしまう。なんだか魔法にかかったような感じがするのだ。

 俺は今まで笑うことがほとんどなかったが、高校に入ってから笑うことが増えた気がする。

 その後も和気藹々とした時間を過ごし、テストを迎えたのであった。


 ――某研究所会議室にて。


「本日の学園訪問ご苦労であった。報告書はこちらで受け取っている」


 こう話すのは研究所を管理する白髪の老人だ。


「それで結局の所、例の案件については解明できたのですか?」


 中年の研究員が少し強い口調で言及する。


「報告書には一人の男子生徒の氏名が書いてあるが、誠なのか?」

「私が調べた限りではまず間違いないかと。学園側の書類などの基にした情報と研究所に残っていた形跡とを重ね合わせた結果、彼の氏名が出てきました」


 研究所長が自信に満ちた顔でこう話す。


「我々の計画が成就するためにもいたしかたない」

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