第27話 暗躍と全貌
――月徒の民本部 某所
「なにをしているか! このまま計画が公になれば我々は終わりなんだぞ!」
「申し訳ありません本部長。彼の協力者らしき人物たちに少しこずっていまして……」
「ガキ一人捕まえられないようでどうする! 早急に探し、捕獲しろ!」
「承知いたしました」
ラグーンズの所長、城岩は足早に本部室を去る。
「金山剣人……次こそは貴様を……」
♦
場面は戻って、病室。
「俺にこの陰謀を止めろっていうのか?」
「お前しかできない。私はそう思ってお前をここに連れてきた」
「俺には……できないよ。特に秀でているものはないし、自慢できる要素もない。こんな俺に天才どもの計画を止めろだなんて」
「一つ言っておこう。モルモットとしてここに連れてきたのは私だがモルモットを選んだのは私ではない」
「どういうこと?」
「モルモットとして選んだのは亜理紗だ」
「……亜理紗?」
「アイリスプログラムの母体となった少女だ」
俺はあの時、カプセル中に閉じ込められていた少女のことを思い出した。俺の心の中に声をかけてきた少女だ。
――五年前
「月花学園……今日からここに入学するのね」
彼女の名前は、
今日から月花学園に入学する高校一年生。
容姿端麗、成績優秀でスポーツ万能、なにをやらしても大抵できてしまう高スペック美少女だ。
この時はまだ歪んでいなかった。だがこの一年後にこの地下施設で歪みが生じてくるようになった。
「きゃっ! 離して! 私をどうするつもり!?」
「うるさい! このモルモット風情が」
モルモット、それは生贄。
当時、ここラグーンズでは人を強制的に教育できるプログラムの開発に取り組んでいた。
国の全体的な学習能力低下により、今後国を背負う人間の質の低下が危惧されたからである。移民技術は高水準と世界中から評価を貰っているだけあって次代の教育計画への意識は高かった。
そういうこともあり、『移民化計画』の時に使用した学習型AIの派生として開発に取り組んでいたわけだが、開発は難航を喫していた。
「所長、このままでは要請期間中に開発するのは絶望的かと……」
「これは国からの特務だ! なんとしても完成させねばならん!」
「ですが……」
この後、研究所長である城岩がとんでもないことを言い出す。
「なぜAIに頼る必要がある?」
「そ、それはどういう……」
「ロボットなど今の時代では人間には及ばん。ならば生身の人間を機械と同化させればどうなる?」
この発想がアイリスプログラム誕生の始まりだった。
その後、人物と能力共に優秀な人材を見つけるべく、研究所側は調査に乗り込んだ。
その時に全てにおいて高水準を誇ると言う結果が出たのが有巣 亜理紗だった。
彼女の知能指数、処理能力は人の域を超えており、とてつもないポテンシャルを秘めていた。
だからこそ彼女は次世代に繋ぐ大きな教育改革として生贄という形で人生を奪われたのだ。
――時は戻る。
「こいつらはこの技術を使って何かを企んでいる。しかもこの地下都市の人間だけじゃなく外部にも手を伸ばし始めた」
「地上の人たちにまでモルモットを探しにか?」
「ま、ばれないようになっているらしいがな」
「そんな奴ら野放しにしてたら……」
「被害が増える一方だな」
「何を呑気に……」
だが、ここで疑問点が浮上した。
「なぜ俺は最初狙われなかったんだ? モルモットだって分かっていたんだろ?」
「亜理紗は奴らにばれる前に工作活動を施したんだ。始めから亜理紗はお前に託していた。私はその護衛役としてお前をここに連れてきた」
聞くところによると父はその有巣亜理紗という人の父親と古い友人らしく、その縁もあって護衛役として依頼を受けたのだそうだ。
「事情は分かったよ。俺は何をすればいいのさ」
「やってくれるのか?」
「ここまで言われて断れるかよ」
「まあ、そうだな」
俺は
「計画実行は一週間後の夜に決行する。いいな?」
「一週間後!? そんなに早くて成功するのか?」
「彼女の身体がもう限界なんだ」
「限界……?」
「彼女は生かされ続けながらずっと教育プログラムとして利用されていたんだ。しかも五年もな」
「そんな……そんなことしたら身体が……」
「彼女は自分の限界を予言したからこそ、お前に全てを託したんだ」
「くそっ! 助ける方法はないのかよ」
「方法はある……だが成功率はかぎりなく低いが……」
「それはどういう方法なんだ?」
「プログラムとの神経伝達を遮断するんだ。今、彼女は言ってしまえば機械と融合しているような物。それによって身体に影響を及ぼしている」
「それならぶっ壊して終わりじゃないか!」
「いや、それだと意味はない。考えてみろ、もし彼女が生きている要因が機械との融合だったらどうなると思う?」
「そ、それは……」
「実際の所、亜理紗の寿命はとっくに尽きている。今彼女が息をしていられるのはプログラムと同化しているからと言っても過言ではない」
「それなら助けるなんて無理じゃないか!」
ない命を機械で繋いでいるのなら助ける余地なんてない。
だが、父はそれでも救えるかもしれないというのだ。
「私が言いたいのは無理矢理、遮断するということじゃない。命を繋いでいる部分のみを残して他の有害物を処分するんだ」
「そんなことできるわけ……」
「だからこそお前の力が必要なんだ」
「……俺の力……?」
俺はその一言を聞くと、ただただ黙り続けることしかできなかった。
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