第26話 極秘プロジェクト


「と、父さん、海外にいたはずじゃ……」

「ああ、だが仕事の都合で日本に帰ってくることになった」

「母さんは?」

「母さんは残してきた」


 俺の父は海外で実業家をしている。

 そこそこ順調らしく、その国では結構な実業家として有名らしい。


「それで? 仕事の都合って何?」

「ああ、そのことなんだが」


 父は俺に一枚の資料を手渡してくる。


「こ、これって……」

「そうだ。ここの、この地下施設を作った理由と裏で行われている真相だ」

「馬鹿な、そんな……」


 ♦


 ――同時刻、月花学園一年×組。


「金山君、来ていないね……」

「そりゃあそうだろうよ。あと二日後に死刑宣告されりゃあな」

「この学園の不思議なことはそこよ。なぜわざわざ殺さなければならないのかしら」

「入学時の映像は脅しで、本当は殺されていないのかもな」


 三人が学園の制度について話していると、担任の福園が教室に入ってきた。


「お前ら席につけ」


 半分ガラリと空いた教室で福園が話す。


「残念ながら今年の一年で我がクラスから半分以上の生徒がリタイアした。しかしこれは例年より良い結果だ。去年の×組は一年で全員いなくなったからな」


 福園が淡々と話していると、白峰さんがいきなり挙手をした。


「先生。ちょっとお聞きしたことがあります」

「なんだ、白峰。言ってみろ」

「なぜわざわざ生徒を殺す必要があるのですか? 成績が悪いのなら他に方法はあるはずです」

「この学園の方針は、次世代の社会を担う人材を作るための場だとして存在している。このやり方も国が決めたことなのだ」

「完璧な人間を強制的に作り出すためなら何百人もの命を無駄にしていいとお考えなのですか?」

「そうだ。我々はそれを承諾した上でお前たちに指導を行っている」


 すると怒りを抑えられなくなったのか星宮さんがいきなり立ち上がった。


「あなたそれでも同じ人間ですか?」

「時を待つくらいなら強制的に作り出した方が早いだろ?」

「私たちはあなた方にとってはただの実験台にすぎないというわけですね」


 福園は一向に表情を変えない。


「なにをいまさら言っているのだ? なぜここに研究所が隣接してあると思っている? 学園なんて付属品みたいなものだ」

「おいおい俺たちはそんなこと聞いてねえぞ」


 正も応戦するように立ち上がった。


「これ以上、学園の方針に口出しをするようなら例え成績優秀者のお前たちでも不要物質としてリタイア組と同じ運命を辿ってもらうが?」

「くっ……」


 こういうと三人は引き下がった。


 ♦


 ――再度、病室にて。


「こんなことを国が許したのか?」

「いや実際国が許したのはほんの一部だけだ。残りは誰かの陰謀で秘密裏に行われている」

「こんなの……同じ人間がしているとは思えない」

「私の見解だが、これは『月徒の民』の仕業であると踏んでいる」

「なんなんだよ、そいつら」

「世間でいう宗教団体みたいなものだ。公には出てないから知名度は低いが、政府とのパイプは誰も入る余地のないくらいに固いものを持っている」

「そいつらがテロを起こしているってことか?」

「それに近いことだな」

「そもそもなんでこんな実験を行う必要があるんだよ」


 食いつくように俺は父に聞く。

 すると父は少し言葉を詰まらせながらも、


「『移民化計画だ』」

「『移民化計画』って他の地球型惑星に増えすぎた人々を移民させるっていう国家プロジェクトのことだよね、実験に成功して海外に絶大な評価を得ているのは有名な話だよ」

「表向きはな」


 父の表情が次第に深刻になっていく。


「ただこの実験はあまりに過酷だった。政府は明確にはしていないが身体への負荷で沢山の有能な研究者が命を落としている。実験の成功と引き換えにな」


 父は続ける。


「この地下施設も国が第二段階の実験成功を目指して作られたものだった。だが抜擢された研究者は大いに反発した。彼らに実験の成功を強いたからだ」

「もしかして……」


 父は頷く。


「ああ、その実験を主導した政府機関に対抗するべく作った組織が『月徒の民』だ。」

「公に実験されているのはあくまで表向きな物で真の目的は兵器開発だ。そのために開発を進めているのは人の生命エネルギーを利用したヒューマンレティクルという新たなエネルギーだ」


 俺はその話を聞いて、過去にたまたま実験施設に潜り込んで施設の全貌を見たことを伝えた。


「そうか、お前はそこまで辿り着いていたんだな」

「父さんはこうなることが分かっていたの?」

「ああ、なぜなら私がお前をモルモットとしてこの地に呼んだからな」

「モルモット……? ということはまさか」

「ああ、意図的に私がここに連れてきたのだ。この陰謀を止めてもらうためにな……」

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