第25話 衝撃の事実


 学年末試験がひと段落し、一週間後。


「これより学年末ポイント決算を開会する」


 学園長が声を張り上げ、開催宣言をする。

 ポイント決算は学年の大講堂にて行われる。

 

 決算は学年ごとで日付が違い、俺たち一年生は初日に行われた。


「早速だが、これより次年度進級確定者を開示する」


 その声と共に大きなスクリーンが目の前に現れた。


「まず本年度成績優秀者を発表する」


 スクリーンに名前が映し出される。今年度に成績優秀者は三人だ。

 その中にはなんと白峰さんの名前があった。


「続いて点数ごとに進級者の名前を開示する」


 次々と点数分けで進級者が発表される。

 500、400、300……。


 星宮さんと正の名前も挙がっていた。

 残るは俺だけだ。


 250、230、210。

 まだ名前が出てこない。


「最後に、進級最低ラインの点数取得者を発表する」


 俺の脈がどんどん速くなる。心臓の音も早く、鋭い。

 

 そして全ての番号が告げられ、スクリーン画面が消えた。


「そ、そんなバカな……」


 名前が載っていない?


「これにてポイント決算を閉会する」


 学園長の話を続き、ポイント決算は終わった。


「金山君……」


 皆、俺の方を向くが誰も話しかけてこなかった。

 だが唯一、話しかけてきた奴が一人だけいた。

 そう、正だ。


「お、おい剣人! どういうことだよ!」

「……」


 俺は放心状態で言葉すら発することができなかった。

 正の言いたいことは分かる。だって俺も同じ気持ちだからだ。


(ポイントは十分だったはず。なのに……)

 

 なぜだ? 何がダメだった!?


 確かに決算は学年末までに上下したあらゆるポイントを集計して最終的な結果を出すものだ。

 当然、数値上では表すことができない評価だって加味される。


 だがそれらを総合してまとめてみても俺は十分にやったはずだ。

 生徒会の仕事、前期と学年末テストも……


(ポイント上では十分に合格ラインだったはずなのに……)


「ごめん、みんな。どうやら俺はここまでのようだ」

「「「「「……」」」」」


 みんな一斉に黙ってしまい、俺も何を言えばいいか分からなかった。


 その時だ。

 福園が俺たちの前に出て、話を始めた。


「進級確定者はこの場に残れ。残念だったやつは覚悟を持ってから研究所入り口に向かえ」


 福園はこれだけ言うとそのまま去っていく。

 だが去る寸前、俺は福園と目が合った。


 そしてこの時、俺はなにかを感じ取った。


(俺になにかを伝えようとしている?)


 その後、進級できなかった生徒は研究所入り口に集められた。


「お前たちは我が学園の最低基準点にも達しなかった落ちこぼれだ。よって学則に基づき、処刑の儀を行う」


 周りの人の目にはもう潤いなんてなかった。


「――終わったのか俺たち」

「――ああ、でももういいかな」


 ひどい雰囲気だ。いるだけで苦しくなる。


「と、言いたいところだが、お前たちにも別れの準備が必要な事だろう。よって三日間の猶予を与える。その期間の間、お前たちは何をしてもいい。ただし、法に触れるような真似や非人道的行動をした者はその場で処刑とする」


 とは言ってもどちらにせよ三日後には殺されるわけだ。

 誰もいい気持ちはしない。


「それでは解散!」


 皆、とぼとぼ死んだ魚のような目をしながら帰宅していく。

 ただ一人、そう、俺だけは何もあきらめてはいなかった。


「こんな所で死んでたまるか!」


 俺は一度研究所で行われていた非道な実験を目撃している。国が許していることなのか、それとも研究所が独断で行っている行為なのか。


 それを解明すれば皆を救えるかもしれない。

 俺は作戦を練るために早々に帰宅した。

 日がすっかり落ち、辺りは真っ暗になった。


 道端の街灯が一つ一つ点灯していく。

 俺はまた研究所に潜れる方法を考えていた。


「どうしたらあそこにまた入れるのか。生徒会室の扉はもうないし、かといって入り口から堂々となんてきっと無理だからな」


 するとすぐ真後ろから聞き覚えのある声がした。


「なにか名案をお探しのようですね」


 俺が立ち止まって振り向こうとした瞬間、胸ぐらを掴まれ、頭に銃口を突き付けられた。


「なっ……!」


 俺はすぐに両手を上げた。


「お久しぶりですね。金山さん」


 この男はこの前誘拐されて連れていかれた研究所で俺に尋問をしていた研究員の助手だった。


「この前は中々ひどい目に遭わせてくれましたねえ。いまだに脳天に刺さった麻酔弾がいまだに染みますよ」

「よかったじゃないですか。脳が活性化してより研究がはかどるんじゃないですか?」

「そうですね。そうかもしれませんね」


 彼は笑いながら俺に銃口を向けたままだ。


「ふざけるなよ! このガキが! 貴様にせいで俺は所長直々の助手を下ろされる羽目になったんだぞ。これが所長に言われた最後の仕事ってことだ。ここで成果を出すことが出来なければ俺は厄払いされる。そんなことがあってたまるか!」

「そんなの知るか。お前が勝手にやられただけだろうが」

「ふざけるな! 全て計算されていたことなんだろ! このモルモット風情が!」


 俺は最後の言葉にピンと来た。


「おい、お前今なんて……」

「金山剣人! ここで終わらせてやる! 死ねーーーーーー!」


 彼が銃口のトリガーを引こうとした瞬間、後ろから大きな銃声が聞こえた。


「え、なにこれ」


 腹部辺りを触ると大量の血が手についた。


「う、うそだろ。まじかよ」


 撃たれた助手は胸を銃弾に貫通させられていた。


「しょ、所長……なぜ……」


「勝手な行動は絶対にするなといったはずだが。貴様は守れなかったようだな」

「い、いやち、違うんです。しょ、ちょう……」


 彼はその場に倒れ込んだ。


「ふん、使えない奴め」


 そいつはこの前俺を尋問しようとした城岩という男だった。


「久しいな。金山君」


 俺はそれどころじゃなかった。

 その貫通した銃弾は俺にも被弾し、助手ほどではないが腹部を過ったのである。


(うっ……めちゃくちゃ痛い。こんなことならもう死にたい。血が止まらない)


「君まで撃つつもりはなかったのだ。手当はするから一緒に来てもらおうか」


 男に手を引かれた時、後ろから大きなバイク音が聞こえた。


「気を保て! 剣人!」


 バイクに乗った人は俺を乗せ、そのまま全力疾走で去った。


「大丈夫か! あともう少しの辛抱だ。気合い入れろよ」

「こ……んなの気合いで、どうに……か……」


 俺はそのまま意識を失った。


 ♦



 時間は次の日へと移る。

 目が覚めた時には俺は病室のベッドに横たわっていた。


「お、目が覚めたか。どうだ具合は」


 すぐ横にはこの前も俺を助けてくれたローブの男が座っていた。


「あなただったんですね。助けてくれたの」

「あなただったんですねって呼んだのお前だろ」

「えっ?」


(そういえば銃口突きつけられた時に胸ぐらを掴まれたな)


 あの時、この男からもらった呼び出しボタンは制服の胸ポケットに入れていた。

 その時の衝撃でたまたまスイッチが押されてのだろう。


「でもまあ無事で何よりだ。あのままだったら死んでたぞ」

「さすがにやばいと思いましたよ」

「それに今お前に死んでもらったら困るんでね」

「それはどういうことです?」

「お前はこの前に俺に何者かっていう質問をしたよな?」

「それがどうしたんです?」

「今日はお前にそれを教えようと思う」


 確かに俺はこの男が何者か知りたかった。

 だが、この男はなぜか危険な人間ではないという感じがしたのだ。


 なぜだかはわからない。

 ただ俺の直感がそう言っていたのだ。

 彼は自分の羽織っているローブを脱ぎだし、マスクをとった。


「お、お前は……」


 俺は見覚えのある姿に驚愕した。

 彼はたびたび俺の前に表す神出鬼没の男、KDだった。


「お前だったのか! 何故俺を……うっ……!」


 傷口がひどく痛む。


「じっとしていろ。まだこの姿は仮の姿だ」

「な、んだと?」


 彼はなんと顔の皮膚をいきなり剥がし始めた。


「へ、変装……?」


 顔が剥ぎ取られ、彼の本当の姿が露わになった。


「これが俺の本当の姿だ。久しぶりだな、剣人」


 俺は一瞬固まった。

 そう、この人物は最も身近にいた人物だったからだ。


「と、父さん……!?」

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