第28話 協力者


 ――作戦決行まであと一週間


「絶対おかしいわ。何か裏があるとしか思えない」


 月花学園一年×組の教室にて三人は学園の方針に不信感を抱いていた。


「私もおかしいと思う。いくら厳しい方針とは言っても殺害する必要はなんじゃないかって思う」

「これを国が決めていることならなおさら問題だな。全く物騒な世になったぜ」

「ん? 国が……?」

「白峰さん……?」


 思いついたように白峰夕が推論を持ちかける。


「もしもこの学園の方針が国からの指示じゃないとしたら……」

「そりゃどういうことだ? 夕ちゃん」

「この施設は地上に住む人との関係を著しく切っているわ。だから情報も開示しない限り漏れることもない」


 すると星宮さんもこの話の意味に気づく。


「この施設の人たちが協力して悪いことをしている……ってことかな」

「厳密には犯罪レベルのことをしている可能性があるわ。実験施設とは名ばかりのね」

「なっ! だとしたらここは一体……」

「まだ推論に過ぎないわ。でもこれは調べる必要があるみたいね」

「調べるって言ってもどうするつもりだ?」

「まずはここにある研究所。ラグーンズラボの真相を暴かないと」


 三人はラグーンズの真相を解明すべく、行動を開始するのであった。


 ――同時刻、生徒会室。


「おい、國松。それは本当なのか?」

「はい、会長……やはりあの男は危険です」

「城岩め……とうとう手を打ってきたか」

「『成績落ちると殺される』という制度が現実になるなんて……」

「國松、外部との連絡は?」

「ここ最近の外部連絡の権利はラグーンズにあります。私たちではどうしようも」

「ちっ! この地下都市での権力を要領よく利用しているわけか。実に不愉快だ」


 生徒会長席の机を思いっきり叩く。


 すると『パサッ』という音を立てながら一個のカードキーが地面に落ちた。


「ん? これは……」

「何の鍵ですかそれ」

「おそらく研究所のスペアカードキーみたいだ。……ん? 待てよ……」


 向郷会長はその場で黙り込む。


「おい國松。確か研究所にはコピー防止のためスペアは作っていないんだよな?」

「言われて見ればそうですね。鍵を持っているのは管理者だけです」

「ならこれはなんだ……?」

「ちょっと見せてください」


 國松はそのカードキーをじっと見つめる。

 そして一言。


「このカードキーは研究所の物とは形状だけでなく型番も違いますね」

「違うのか?」

「ええ、しかもかなりの旧式です。いつ作られたのかは定かではないですが最近作られた物ではないようです」

「そのカードキー調べてはくれないか? 何か分かるかもしれない」

「了解です。すぐ結果を報告しますね」

「ああ、頼む……」


 生徒会室を去る國松の背後を向郷会長はじっと見つめる。


「國松……まさかお前も……」


 会長はもう一つのカードキーを制服のポケットから取り出す。


「どうやら解析が必要なようだな……」

 

 ――作戦決行まであと六日


 俺は病院を半日で退院し、自室のベッドに横たわっていた。

 明日には研究所の使いの連中が家に来る。

 それまでに逃げなければならない。


 六日後には此処で行われている全てのことが丸裸になる。

 だが、俺の心中には不安と死への恐怖があった。

 作戦が失敗に終われば今度こそ命はない。


 俺は此処にいる天才どもに反逆の狼煙を挙げる。

 それに伴うリスクは相当なものだ。


「はぁ……まさかこんなことになるなんて」


 俺の描いていた高校生活とはかけ離れていた。

 高校に入学し、学園のサイコパス制度に惑わされ、おまけによく分からない組織の連中に銃で射抜かれ、死の一歩手前まで足を踏み入れた。


 そして現在に至るわけだ。ものすごく濃い人生を送っている気がする。


 だが、ただ一つだけ此処に来てよかったと思えるのは親しい友人ができたことだ。

 初めて出来た親しい友人……ずっとぼっち道を貫いてきた俺にとってはそれだけで意味のある学園生活だった。


 美しい銀髪の髪に魅了され、学園に入って最初に出会った美少女、白峰 夕。

 クラスの委員長でいつも明るく優しく包まれるような安心感があったブロンド髪の美少女、星宮 芽久。


 そしていつもお調子者で四人の中での盛り上げ役だった、時宗 正。

 そして向郷会長や生徒会役員の人たち。


 みんな俺にとっては人生の分岐点になった出会いと言っても過言ではないだろう。鏡を見ると前まで死にかけていた眼が今では潤って見える。


 これは大きな成長だ。


「さて、早朝まで仮眠するか……」


 過去の思い出に浸ったところで睡眠に入ろうとした時、家の玄関を叩く大きな音がした。


「な、なんだなんだ? こんな夜遅くに」


 部屋のモニターで外を見てみると、白峰さんたちが玄関前に立っていた。

 俺はそっと玄関の扉を開ける。


「よっ! 剣人」

「あ、金山君。よかった無事だ……音信不通で心配したんだよ?」


 そういえば当分誰とも連絡を取っていなかった。


「心配かけてごめん。でもみんなどうして此処に……」

「あなたを助けるためよ」

「俺を助ける……?」


 とりあえず三人を家に入れることにした。


「ここに来るのも久しぶりだな。勉強会以来か」

「時宗君。今は過去の思い出話に浸っている場合ではないわ」

「おっと、そうだった」


 冷静な白峰さんにお調子者の正。会わなくなってそんなに経っていないというのにどこか新鮮な感じがした。


「みんなどうしたの急に……」

「金山君。この学園の秘密を暴いてみたいと思わない?」

「えっ、秘密?」

「ああ、そうだ。この学園と地下都市は何かあるんじゃねぇかって俺たちは考え始めたんだ。だってどこかおかしいと思わないか?」

「ま、まあ確かに……疑問に感じる点はいくつか」

「私たちはそれを暴こうって思ったんだ。人を殺してまでこの学園が運営できる理由を」

「それで、どうして俺に家に?」

「確か処刑の執行日は明日よね? まずは金山君を救出することから始めようと思ったの。ここまで来て殺されるなんてあなたも嫌でしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「なんだ、剣人。お前は生きたいとは思わないのか? マンションのセキュリティを潜り抜けてきた俺たちの身にもなってくれよ」

「よく来れたな……」


 このエリート集団はよくわからない所で真価を発揮する。

 普段は頼りない感じの正もこういう時にはなぜか存在感が増して見えてくる。


「で? お前はどうするんだ?」


 ……俺は。


 みんながここまでしてくれるのは非常に嬉しい。

 だが、それと同時に白峰さんたちを巻き込むことになるのではないかという心配もあった。

 彼女たちは優秀だ。このままいけば何もなかったかのように卒業することなんて容易いことだろう。

 今の俺には正直自信がなかった。


 六日後の『ジャイアント・キリング』作戦も上手くいく補償なんてない。

 KDこと金山大助も言っていたことだが、成功率はかなり低い。

 俺だってこんな所でくたばりたくはない。でも自分の頭の中ではまだ上手く整理できていないでいた。


「み、みんなはそれでいいのか?」

「それはどういうことかしら?」

「いや、だってどうなるか分からないんだよ? もしかしたらみんな殺されてしまうかもしれないし」

「そんなことは俺たちも承知の上だぜ?」

「えっ……?」

「命が惜しければこんなバカなことはしねぇよ」

「その通りだわ。これは私たちの意志でやっていることなのよ」

「私たちも金山君と同じように処刑対象になっちゃったらしいから」

「え、それって……」


 俺がまさかと思い聞いてみると、白峰さんたちは今までの経緯をざっと話してくれた。

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