第14話 高校最初の夏1
前期末テストから数日が過ぎ、俺たちは念願の夏休みを迎えようとしていた。
今回のテストでクラスの数人が消え、学年全体では約2割の生徒がこの学園から姿を消した。
学校全体で言えば4割弱が消されたことになる。
俺はそんな状況の中、何とか生き残ることが出来たのだ。
「前期末テストも終わり、お前達は
前期最後の授業を迎えた。
HRで担任の福園先生が話す厳しいお言葉は今になっては恒例行事だ。
確かに皆、夏休み気分でそわそわしている。だが、一部ではクラスの友人が処刑されて落ち込む姿もここ数日でよく目にする。
「やっと夏休みだね~。覚悟はしていたけど宿題が凄い量だね……」
星宮さんが苦笑いしながら顔に焦りを見せる。
「国が直々に教育を施している学校というだけでビビっちゃうよね」
「あら、そうかしら。私は結構楽しんでいるのだけど」
白峰さんの顔は自信に満ち溢れていた。
その自信に満ちたポジティブ感情を俺に分け与えてほしいくらいだ。
「やっほ~! やっと夏休みだぜ!」
で、そんな話をしている中、夏休みの訪れに歓喜の心を隠せない奴もいた。
名は時宗 正。彼もまた、生き残りをかけたサバイバルテストを生き抜いた男だ。
「お前は小学生か」
俺がすぐさまツッコミを入れる。
すると正は、
「小学生で悪いかよ。童心に帰るのはいいことなんだぜ?」
「そうですか」
いつものボケとツッコミの役割を果たした所で、星宮さんが話を切り出す。
「皆は夏休みなんか予定あるの~?」
「俺は生徒会の仕事が少しだけあるけど予定なら作れると思うよ」
「私は勉強すること以外特に無いわ」
「俺はいつでも暇だよ。なんなら今すぐにでもデートに行っちゃうかい? 芽久ちゃん」
冗談なのか本気なのか分からないナンパを星宮さんに振る。白峰さんはそれを見て「やれやれ」とため息をつく。
「時宗君は楽しむ気満々だね」
彼女は笑顔でナンパをスル―しつつ、相手の気を悪くさせないような言葉で返した。
それが逆にへこむのは男なら共感できる。
「じゃあ皆で遊びに行こうよ!」
彼女は目をキラキラ輝かせながらこう言った。
「遊びに行くってどこ行くの?」
「海とかどうかしら? 地下に海があるのは興味があるわ」
「お、海いいじゃん! どうせなら泊まりで行こうぜ!」
正が海と聞いた瞬間にすぐさま賛成した。
(ああ、どうせろくでもないこと考えているな?)
俺がそう察したその時、正が耳打ちをしてきた。
「おい、やったな! これは彼女たちの水着姿が拝めるかもしれないぞ」
「やっぱりそういうことだったのか」
俺は呆れた顔で正を見る。
だが彼はそんな蔑まれたような目で見られても決してブレないのだ。
「いや男なら誰でも思うだろ! 美少女の水着姿だぜ?」
「いや、確かにそうかもしれんが……」
正直、俺も興味がないわけではなかったので反論ができなかった。
「海……うん! いいね!」
星宮さんも賛成のようだ。
「じゃあ皆で海だぁ!」
こうして俺たちは皆で海に行くことになった。
青春という言葉で表される事を高校に入って経験することができるなんて今まで考えたことがなかった。
俺は密かに楽しみで前日の夜はあまり寝ることができなかったことは誰にも言えない。
♦
そして遂にその日がやってきた。
今日は天候にも恵まれて、絶好の海水日和だ。
集合場所のバス乗り場に着くともう全員が到着していた。どうやら俺が一番遅かったようだ。
だが、よく見ると人数が増えている。
恐る恐る近づいてみるとなんとそこに生徒会メンバーもいたのだ。
俺の気配に気づいた星宮さんが手を振る。
「あ、金山君! おはよ~」
「お、やっときたか」
「おはよう。金山君」
「皆、おはよう! ごめん遅くなっちゃって。それで聞きたいんだけどなぜ生徒会の皆さんがここに……?」
「なんだ金山、私たちがここにいてはまずいのか?」
向郷会長がむっとした顔でこちらを見る。言動こそ男前の会長だがこういう顔をみるとただの小さい女の子にしか見えない。
「いや、そういうわけではないんですけど……」
「俺が誘ったのさ」
「え? 正は生徒会のメンバーと顔見知りなの?」
すると國松副会長が爽やかな笑顔でそれに答える。
「僕と時宗は親戚同士なんだ。時宗が海に行く話をしていた時にたまたま会長が通りかかってね」
「それで会長が行きたいと……」
「金山も悪い奴だな。遠慮なく誘ってくれたらよかったのに」
会長がやれやれと言わんばかりの顔をしている。正直意外だった。会長はあまりこういうことは好きではないのだと思い込んでいたがそれは考えすぎだったようだ。
「すみません。会長が誰かと遊ぶ姿なんて想像つかなかったんで」
「私も仕事蟲じゃないからな。遊ぶ時は遊びたいさ」
「あ、あの私まで一緒に来てしまってもよかったのですか?」
生徒会会計の早乙女香恋先輩だ。
「もちろんですよ香恋先輩! むしろわざわざ来てくださってありがとうございます!」
正がすぐさま歓迎の念を入れる。裏では水着姿が目的なんて到底言えないだろう。
話が弾んでいると、俺たちが乗る予定のバスが着いた。
「さ~て皆いくぞ!」
正が一番乗りにバスに乗り込む。
ほんの少しだけだが、正の目の下にわずかなクマができていた。
おそらく楽しみで昨晩寝たのが遅かったのだろう。
(まぁ、俺も人の事言えないけどね……)
その後、みんなで和気あいあいとバスの中を過ごし、気がつけば俺たち一行は目的地に到着していた。
「よっしゃ~海だ海だ!」
正が一番にバスから降り、俺も後に続く。
「すごい……これが人工的に作られたものとは思えない」
「この技術は本当に凄いわね。まさかここまで再現できるなんて」
「この地下都市は国が精力をあげて作ったものだからな。実験施設とはいえここまでの技術を有せば宇宙への移民を現実になるだろうな」
この地下都市の技術の高さを改めて実感した一行はそれぞれの準備に取り掛かった。
「なあ金山。彼女たちの水着姿どんなものか楽しみだな!」
正がせっせとパラソルを立てている。
「そうだね」
正の欲が丸見えな所に不安を感じた。
「あまりジロジロみると怪しまれるぞ?」
「何言ってんだ! こんなチャンス今後あるかわからないんだぜ? しっかりと目に焼きつけておかなきゃ損だ」
正が熱く語る。今日はただでさえ暑いのに彼の情熱ですでに焼き消されそうだった。
と、その時だ。
「二人ともおまたせ~」
どこか遠くから聞こえてくる星宮さんの声に正がすぐさま反応する。
そしてその声は段々と大きくなっていき、背後から聞こえてくるのを感じ取る。
「お、ようやくお披露目か!」
正の興奮度はマックス! もう誰も止められない。
そして俺もまた、まるで何かに引き付けられるかのように速攻で背後に視線を向けた。
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