第13話 前期末テスト
数日あけて、前期末テスト当日。
俺たちは最初の運命を決める戦いに臨もうとしていた。
この学園の方針は一年間の最後に行われるポイント決算で規定数以上を越えていなければ即死刑という残忍なものだ。
卒業条件は合計APが300AP以上だ。つまり一年間で100AP稼ぐ必要がある。
一年生はあらかじめ100AP支給されるため維持すれば余裕じゃないかと思われがちだが、維持するだけでも相当大変だということを今まで過ごしてきて気づいた。
実際に同級生でもう既にマイナスになりそうな人もいる。APはマイナスになるのも規則として即死刑の対象になる。
普段でも中々ポイントが増えないため、結果をだせば大量のポイントをもらえるテストは生徒にとって生き延びる大きなチャンスだった。
現に生徒会に所属している俺でもあれからポイントが増えていない。
テスト期間は誰しもが命を懸けて勉学に励んでいた。
「いよいよだね。すごく緊張するよ~」
星宮さんが心配そうな顔で言う。
「あれだけ頑張ったのよ。結果が出ないはずがないわ」
自信満々に言うのは白峰さんだ。
その彼女の目には炎のごとく闘争心が芽生えていた。
彼女には×組から◎組に昇格するという大きな目標がある。
それはなぜだが知らないが、そのことになるととてつもない闘志を燃やす。
確かに×組の待遇は周りのクラスと比べて酷い。
設備から何まで◎組と比べれば天と地の差があった。
そういうこともあり、実際に実力やAP保持数もそれに比例していた。
俺の目的もクラスを移さなければ叶わないことだと薄々感じていた。
しかも俺の卒業条件が学園主席という時点でこのクラスにいる限り死を選ぶしか選択肢がなくなる。
俺も密かながら昇格を目指していた。
「おう、金山! 大丈夫そうか?」
テスト直前にも関わらず悠々としているのは時宗正という男子生徒。
運命のテストが近づいているというのに相も変わらずヘラヘラとしていた。
「お前は大丈夫なのかよ。なんか余裕そうだけど」
「ま、なんとかなるっしょ! あのクラス美女二人から手取足取り教えてもらったんだぜ?」
「変な言い方するなよ……」
大丈夫なのか? と思いつつも俺は自分のことに集中する。
そうこうしている内にテストの時間になり、死へのカウントダウンが始まった。
高らかなチャイムが鳴り響き、それはまるで地獄の世界に招待されているかのような圧迫感を感じた。
「……」
学園内が静寂に包まれる。普段みたいに誰かの話し声が一切聞こえない。それに対して少し恐怖を感じたくらいだ。
テストは一週間かけて行われた。一人一部屋が与えられ、カンニングなどの不正対策にもぬかりがない。
そして最終日には結果がその場でわかるという仕組みだ。
こうしてテストは予定どおり進められた。
各教科30点から1点につき1APという基準で評価が行われる。
ただ、このテストで7割を超える生徒は歴代でもわずかしかいないというのは有名な話でほとんどの人が半分もいかない。
その他の人は30点未満、いわゆる赤点がついてしまう。赤点がつけばAPが加算されず持ち点からマイナス10AP減らされる。
教科は10科目あるため、全部赤点をとれば一気に100APを失ってしまう。
まさにサバイバルだ。
で、そんな前期末試験も気がつけば最終日となっており、自らの運命を決めるテストが全て終了した。
「金山君、お疲れ~」
星宮さんがこっちに手を振る。
「お疲れさま~」
「どうだった?」
「正直、怖い。できた感覚があまりしなかったよ」
「私も……勉強したのに」
星宮さんがため息をつく。
「二人ともお疲れさま」
「お疲れ!」
白峰さんと正もテストを終えて帰ってきた。
「白峰さんはテストどうだった?」
「問題ないわ。あのくらいの問題」
「さすが夕ちゃんだね~」
テストが終わっても正はどこか余裕な所を見せていた。
「一体その余裕はどこからくるんだよ」
「さあな~どこから来るんだろうな」
「自分でも分からないのかよ」
正はこういう時でも常に笑顔を絶やさなかった。
その姿を見てテストへの不安が少し和らいだ。
そして運命の結果が告示された。
テスト結果は一人ひとり渡される。
「俺の結果は……」
恐る恐る成績表を開いた。
(――よかった。無い)
結果は赤点こそなかったが、合計APは50APほどしか稼ぐことができなかった。
でも俺からしたら十分すぎる程の結果だ。
かなり努力した甲斐があった。恐らく人生で最も勉強したと言っても過言じゃない。
正直、生徒会の仕事との両立が凄まじく辛かったが、勉強会でみんなが教え込んでくれたこともあって成果をきっちりと出すことが出来た。
(後でしっかりとみんなにお礼を言わなきゃな……)
と、その時だ。
「よかった……なんとか余裕が持てそうだよ」
星宮さんがほっとした顔で帰ってきた。合計APは150APだったらしい。
「さすが星宮さん! すごいAP取ってるね」
「さすがにここまで取れるなんて思わなかったよ。みんなに感謝だね」
「いやいやむしろ俺が感謝したいよ。みんなのおかげでなんとか赤点は免れたんだから」
「そう? でもよかった、金山君の力になれて」
こう言うと彼女はにっこりと笑った。
俺はこの笑顔を見てドキッとしてしまった。無垢な顔から放たれる笑顔は破壊力抜群だった。
「やっとおわったぜ~」
こう言いながら正が帰ってきた。
俺は正に結果を聞いたら驚くべき答えが返ってきた。
「俺は200AP勝ち取ったぜ」
「時宗君すごいね!
「い、意外……ですか」
星宮さんなりに祝福しているみたいだが、どこか棘のある言い回しだった。
こういう天然な所も星宮さんが人気の理由の一つらしい。
「芽久ちゃん、意外は余計だぜ~。俺もやるときはやる男なんだよ」
ノリのいい正はすぐさま指摘した。
どうやらあの余裕だった顔は伊達ではなかったみたいだ。
(あれ? もしかしたら俺が圧倒的にできてないやつ?)
俺が不安に駆られていたその時、男子生徒の叫び声が聞こえてきた。
「おい、離せ! 俺はまだ死にたくない! やめ、やめてくれ!」
悲痛な叫びも空しく、その男子生徒は処刑所へ連行されていった。
おそらくポイントを大量に落としたのだろう。
「こ、怖い……」
星宮さんはそういいながら震えていた。
他の生徒もその光景を目の当たりにして動きが固まる。
中には、恐怖で泣き出してしまう生徒もいた。
普段はあまりそういう感じではないが、こういう時はこの学園がサバイバル学園であるという真実を突きつけられる。
俺もその瞬間、言葉に表せない恐怖を感じた。次にあのようになるのは自分かもしれないからだ。
「お、俺たちはしっかり勉強したんだからそんなに暗い顔する必要ないって!」
落ち込む俺たちを元気づけているのは正だ。確かにその通りである。俺たちはこの時のために勉学に励んできた。
俺も正直あそこまで勉強したのは生まれて初めてかもしれない。
「そ、そうだよね! 私たち頑張ったもんね」
さっきまで暗い顔を見せていた星宮さんもこの言葉で元気を取り戻した。
「そうね。私たちは頑張ったのだから今ここにいるのよ」
白峰さんがテストを終えて帰ってきた。
「おお、夕ちゃんお疲れ!」
「白峰さんお疲れさま」
「白峰さんお疲れ~」
「夕ちゃんはどうだった? 結果」
「私的にはまずまずのスタートだったわ」
「どれくらいAP取れたの?」
白峰さんは冷静な態度で答える。
「600は取れたわね」
「6、600!?」
思わず全員の声が被ってしまった。
「6、600って白峰さん。一体どれくらいテストで点数取ったの?」
「満点がいくつかあったけど、よく覚えていないわ」
この学園の噂では今まで1教科で満点を取った生徒は5本の指に数えるほどしかいないという。
しかも600オーバーは歴代でも現旧生徒会長と生徒会役員の他には存在しないらしい。
彼女は紛れもなくこのエリート学園でトップレベルの知能を有していた。
「さすが夕ちゃんだね~もしかしたら生徒会にお誘いとか来るんじゃない?」
生徒会というワードが出てくる度に俺は恥ずかしくて仕方がなかった。
ここまで歴然とした差がある人物がいる中でこんな学園の底辺レベルの人間が生徒会という名前を掲げているのだから。
「生徒会に入ることができれば、金山君と一緒に活動することができるわね」
白峰さんが俺の方を向いて笑みを浮かべた。
その笑みの理由が俺には分からなかったが、白峰さんがとてつもない人物だということが今回のテストで分かった。
しかし俺の卒業条件が学年主席である以上、俺はこの人に勝たなければならないと思うと自分に自信が持てなくなってきた。
こうして波乱の前期末テストが終了を迎えたのだった。
♦
現状所持AP
金山剣人のAP合計 168AP
白峰夕のAP合計 755AP
星宮芽久のAP合計 290AP
國松彰吾のAP合計 3000AP以上
向郷会長のAP合計 3500AP以上
早乙女香恋のAP合計 2500AP以上
時宗正のAP合計 305AP
赤城の合計AP 5AP
眼鏡の男の合計AP マイナス60AP(処刑確定)
学年全体の平均取得AP 20AP
学年全体のAP合計平均 60AP
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