第3話 現実と焦燥
周りはどうやら今起こっている現実が理解できていないようだ。
そりゃそうだ。
謎に包まれた月花学園の正体が人間を強制的に教育する殺人施設であったからなのだから。
「こんなことを国が許していいのかよ」
俺は今になって恐怖を感じ始めた。
するといきなり一人の女子生徒が立ち上がり話し始めた。
「みんな落ち着いて聞いて! 凄い現実を見せられて色々思うところがあると思う。けど、もう引き返せない。この学園から卒業するにはみんなで協力しながら過ごしていかなければならないと思うの」
「ふざけるな! なにが協力しながら過ごすだ!」
こう言うのは金髪ロン毛の赤城だ。
「そうだ! お前らとはクラスメートだろうが蹴落とす敵だ。俺はなにがなんでも卒業してやる」
名もまだ知らぬ眼鏡の男がこう言う。
クラスがだんだんヒートアップしてきた。
そんな時だ。
突然教室の扉がガバッと開き、
「おいお前ら席につけ! 1限目を始めるぞ」
こう言いながら担任教師の福園が教室に入ってきた。
言い争っていた連中も急いで席に着く。
「これからクラスのリーダーを決めてもらう。だれか立候補するやつはいないか?」
すると、
「私にやらせてください!」
と、ものすごいスピードで手を挙げた人物が一人。
先ほどクラスメート全員に協力を持ちかけた女子生徒だ。
「彼女が立候補しているが、他にはいないか?」
例のごとく誰も手をあげる者はいない。クラス委員長なんて結局最後は選挙みたいに決まることなんか学生あるあるだ。立候補で決まるケースなんてたまにあるかないかだろう。それかそういうことを好き好んでやるような少し変わった奴だけだ。
ちなみに俺は目立つことが嫌いなのでそういった類のものには一切関与してこなかった。
「それではクラスリーダーを彼女に任せる。前に出て自己紹介をしろ」
そう言われると、その女子生徒は静かに教壇の前に立った。
そして静かに話し始める。
「皆さん、初めまして。このたびクラス委員長になった
『ピロリロリン』
彼女の持っていた学生端末から着信音が鳴った。
「APが増えたようだな」
福園が言う。
「ホントだ、5ポイント増えています! でもどうして……?」
「アイリスポイントがお前の行動力を評価したのだ。アイリスプログラムは人の行動や言動に左右し評価を下した上でポイントの増減を決める。今行った行動は社会に出ても通用するような能力だと判定を下したのだろう」
(あんな単純なことでも5ポイントも増えるのか)
こう思っていると、
「てめえまさかこのことを知っていて立候補したのか!」
またも赤城が今度は星宮さんに向かって怒号を飛ばす。
「ご、誤解しないでください! 知らなかったんです! 私はただ……」
こういうと福園が割って入った。
「おい赤城、それ以上言ったらどうなるかわかっているんだろうな? そんなに貴様は死に急ぎたいのか?」
「ちっ……!」
こう言われると赤城は黙り始めた。
「クラスリーダーが決まったことでお前たちに話すことを忘れていた事項がある。このAPはただ単にお前たちの評価を決めるためのポイントではない」
福園は話しを続ける。
「このポイントは現実の紙幣のような役割を果たすこともできる。1APにつき1円の価値だ。この学園都市はお前たちが持っている金銭や紙幣は一切使えない。あらゆる物全てがAPによって取り扱われている。学園都市内であればアルバイトも可能だ。だが給料はAPで支払われる」
これを聞いて眼鏡の男が口を開いた。
「先生! ひょっとするとこのポイントは人にあげたり、トレードできたりするんですか?」
福園が答える。
「相手の同意で学生端末内での取引事項に署名をすれば可能だ」
(自分の生命線であるAPを他人に挙げる奴がいるのか)
「それと学年末のポイント決算によってポイントが高ければ、それに応じたクラスに編入できる。落ちこぼれクラスから抜け出したいのなら頑張るのだな」
さらに福園が続ける。
「言っておくが、この学園は個人戦ではない。個人が優秀であればAPを大量に稼げると思ったら大間違いだ。クラスメートとの調和が一人ひとりの評価に関わってくる」
「それはクラス全員で言えることですか? それとも一部のクラスメートでも評価が変わってくるのですか?」
星宮さんだ。
「どちらでも評価は変わる。誰かと共存しながら学園生活を送ることに意味があるのだ。社会というのはいわば一つのチームだ。一人がどんなに優秀でも周りがついてこなかったら仕事も効率よくいかない。個人的な仕事ははかどってもチームとして動くときにはなにも意味をなさないのだ」
どうやら、この学園ではかなり要領よく立ち回らないといけないらしい。
クラスの調和を考えつつ、個人のポイントをあげていくことがこの学園を攻略する一つの手であろう。
それはそうとさっきから白峰さんが黙ったまま動かない。
俺はそっと声をかけた。
「白峰さん? 大丈夫?」
彼女は『はっ!』と驚いた感じで俺に言葉を返した。
「ええ、大丈夫」
彼女の顔はなにやら納得のいかないような表情だった。
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