第4話 黒服の男


 放課後になり、生徒たちが次々と学園から寮へと帰っていく。


 今のところ俺のAPの増減はない。


「お疲れさま金山くん。また明日ね」

「お疲れさま!」


 そういうと白峰さんは教室から出ていった。

 俺も身支度を済ませ、これから住む寮へと向かう。


 しかしすごい所だ。地下のはずなのにまるで本当に外にいるようだった。

 どんな技術を使っているのか知らないが山があり、海があり、空があり、季節までもこの地下都市には存在する。


 夜の時間帯になれば、辺りが暗くなる。


 周りを観察しながら歩いていると後ろから図太い声が俺を呼んだ。


「そこの君ちょっといいかな」


 振り向いた先には黒いコートに黒いフェルトハット、顔は黒いマスクをしていてよく見えず、身長180以上はある大柄な男性だった。


 それはまるで冥府のごとく地獄からきた死神みたいな風貌であった。


(いかにも怪しい……)


「君が金山剣人くん、かな?」


 少し渋さの目立つ男の声だった。


(え……なんで俺の名前を?)


 驚く俺に黒い男はジリジリとこちらに近づいてくる。


「私は……そうだな、KDとでも呼んでくれ。まあ一種の情報屋という仕事をしている。君に話しておかなければならないことがあってね」

「情報屋さんが俺に何のようですか?」


 少し身を引き、警戒しつつも俺は質問する。

 するとKDは、


「まず君はこの学園都市のことをどこまで知っているんだい?」


 こう言われると、


「いえ、何も知りませんよ。ただこの学園都市は全てAPというポイントで管理されていてポイントを取ることができなければ殺されるというのは聞きましたけど」


 するとKDがふっとため息をついて、


「そうか。君はまだ知らないんだね」

「どういう意味だ?」


 少し喧嘩腰の口調になってしまった。驚きの連鎖で脳が理解するのに追いつけなかった。


 KDが答える。


「疑問に思わないのかい? なぜ自分のような平凡な人間がこんな施設に送られてきたのか。今日、周りにいたクラスメートたちはどんな人たちだった?」


 そう言われると俺は、周りにいた連中が話していたことを思い出した。


「大企業の息子、全国模試合計点数トップ、現役の小説作家、とあるスポーツの全国チャンピオン……」


 あの時の俺は、新しいクラスメートに馴染めるか不安だった。

 白峰さん以外の人と話せなかったが、このようなワードが飛び交っていたことを思い出した。


 KDはその図太い声で俺に、


「その通り。この学園では普通の人には持っていない能力を持ったものが入学を許されている」


 するとKDは立て続けにこう話した。


「実際この学園を志望する人は、ものすごくいる。だけど、その中でも優れた能力を持ったもののみが選ばれることになる。これは我々人間が決めたことではなく全てアイリスプログラムによって決められたことなんだ」

「プログラムが人を選ぶのか!? じゃあなぜ俺は選ばれた?」


 興奮した俺にKDは、


「それをこれから話すのさ。信じられないかもしれないけど冷静に聞いてほしい」


 KDは続けた。


「君はこの学園のに選ばれたんだ」

「どういうことだ……?」


 俺はその言葉を聞いてもピンとこなかった。

 KDは、静寂に包まれたこの空間でそっと話した。


「言葉通りさ。君は実験対象としてこの学園に入学させられたんだ」

「実験対象だって……?」


 俺はこの時分かったことが一つだけある。

 それはこの学園が俺をほしがって入学させたのではなく、何らかの目的によるものであるということを。


「実験ってなんの実験なんだ?」

「それはまだ言えない」

「なぜだ? なにか言えないことでもあるのか?」


 俺は真実を知りたくて仕方がなかった。


 俺がなぜここにいるのか、実験とはなんなのか。


 するとKDは黒いコートを揺さぶりながらこう話した。


「全てを知りたければこの学園を知ることだ。この学園の真意を探ることが君が真実へとたどり着く近道だろう」


 さらにKDは、


「もう一つ言い忘れていたことがあったよ。モルモットになった君はこの学園でトップのAP保持で卒業しないと間違いなくプログラムに殺される。それだけ覚えといてね」

「おい! それはどういうことだ!」


 俺が言葉を発した時にはもうKDの姿はなかった。


「なんだったんだよ! トップで卒業なんて俺にできるわけないだろ!」


 このモヤモヤする気持ちを何かにぶつけたかったが、それどころではないくらい疲労困憊だった。


(――帰るか)


 俺は一旦気持ちを落ち着かせると、寮の方へと静かに足を進めたのだった。

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