第6話 小さな生徒会長

 

 誰かの声が聞こえてくる。


「アイリスプログラムは順調なのか?」

「はい。全ての数値で規定数以上を越えています」

「よし、作業に取りかかれ。それとあの女を絶対に逃がすなよ。我々の研究成果を示す大きな証拠になる」

「わかりました所長」


(なんだここは)


「タス……ケテ……」


 今度は女の子の声だ。


「タス……タス……」


 途切れ途切れに言うその言葉は、助けを求めている感じだった。


「どこだ? どこにいる?」


 俺はすぐに探し始めるも、周りの視界がどんどん白くなっていき……


「はっ……!?」


 目の前に映ったのは自分の部屋の天井だった。

 俺はすぐに起き上がり、周りを見るが至って変化はなかった。


 それに、声をスッパリと聞こえなくなった。


「なんだ夢か……」


 外を見てみたらいつの間にか朝になっていた。


「ああそうか。俺はあの後疲れて……」


 ゆっくりと身体を起こし、ベッドから出る。


「うっ、頭が痛い」


 頭を押さえながらも、俺はすぐに支度にとりかかる。

 

 すぐにシャワーを浴び、軽い朝ごはんを食べて……


「よし、行くか」


 家を出た。


「あの夢はなんだったんだろうか」


 そう思っていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


「おはよう。金山くん」


 後ろを振り向くと白峰さんの姿があった。


「おはよう! 白峰さん」


 俺は昨日の夢のせいであまり熟睡できなかったせいか顔色が悪かった。


「どうしたの? 顔色悪そうだけど……」


 彼女は心配そうな顔で見る。


「いや、なんでもないよ。ちょっと疲れているみたい」


 苦し紛れに俺が言う。


「そう? 一人暮らしだから健康には注意しないといけないわね」


 こうして白峰さんと話しながら登校しているとあっという間に学校に着いた。


 寮からは割と距離がないため、中学の時と比べると登校に苦はなかった。


 そして俺はいつものようにエリート学園の門を潜っていく。


 ここでもう一度、この学園について説明しておこう。


 ここは月花学園。特別な才能を持つ者のみが入学できる超エリート学校だ。


 ただし、俺に関しては例外だ。

 自分でもなぜこの学園に入ったのかは分かっていない。


 この学園では全ての事象がアイリスプログラムというコンピュータで管理されており、ここにいるものは全てAPというポイントを用いて生活する。


 地下に学園があり、学園創立のために作られた一つの都市みたいな感じになっている。


 また月花学園の学則でこの地下都市内から出ることは一切許されないため、都市内には地上にある都市並みに様々なお店が揃っている。


 ショッピングモール、コンビニ、遊園地などのテーマ―パーク、大きな病院。地下にあるとは思えないくらいだ。


 と、まあこんな感じで学校の説明はここまでにしよう。


 学校に着いた途端、俺たちは人だかりができているのを見つけた。


「なにがあったんだ?」


 取り囲んでいる観衆をかき分けて覗いてみるとなにやら揉め事が起こっているようだった。


「俺たちはなにもやってねえって! こいつが最初に手を出してきやがったんだ!」


 数人の男子生徒が訴える。


「証拠はあるの? あんたたちがやっていないという証拠がね。私には一方的にしかみえなかったのだが」


 こう話すのは、とても小柄な女の子だった。


「え? 子ども? なぜこんなところに子どもが」

「金山くん! その言葉を言っちゃ……」


 白峰さんが止めに入ったのも空しく、その女の子が近寄ってきた。


「あんた、今私のことをなんて?」

「え? いやそのなんでこんなところに小さい子が……なんて」


 白峰さんが止めたことによって言ってはいけないことを言ってしまったことに気付いた。


 が、しかしそれはもう時すでに遅しだった。


「私は向郷こうごう つばさ。この学園の生徒会長だ。あんたいい度胸ね私の事を知っていての発言だったら容赦しないが」

「いえ、すみません! 本当に知らなかったんです。まさか生徒会長さんだったなんて」


 見るからに子供だ。

 ぶっちゃけ小学生くらいにしか見えないが、声や喋り方は大人びている。


「あんた新入生だな? 私は入学式に出席できなかったから会ったのは今回が初めてだし、今日のところは許してやる。次はないと思いなさい。ただし、ポイントは減らしておく。規則だからな」

「えっ、そんな……」


 俺に言い訳をする暇も与えず、彼女はその言葉通りの行動を敢行する。

 金山剣人のAPが2下がった。残りAP98。


「あんたたちも今回はAPの減少で勘弁してあげるわ。本当はもっと厳しい処罰が下るのだけどね」

「ちっ……」


 男子生徒たちはその場を去っていった。


「大丈夫? 怪我はない?」


 向郷会長が言う。


「あ、はい! ありがとうございます。会長!」


 いじめられていた男子生徒がお礼を言い、教室の方へ走っていった。

 俺たちも教室の方へ向かった。


「朝から凄かったね白峰さん」

「ええ、本当に恐ろしい人だわ」

「生徒会長ってああいう感じの人なんだね。ちょっと意外性のある人だったよ」

「本当に。見た目からは想像もできないあの人だけは敵に回したくないわ」


(あの白峰さんがここまで言うなんてあの人はそんなに凄い人なのか?)


 俺は疑問を白峰さんにぶつけてみた。


「白峰さん。生徒会長ってそんなにすごい人なの?」


 すると白峰さんは驚いた顔をして、


「あなたまさか知らないの? 現にあなたAP減らされたじゃない」


 そういえばAPが2減らされていたことに気づいた。

 白峰さんはため息をつきながら、


「この学園に入ってくる人はあらかじめ情報を手に入れて入学してくる人がほとんどなのよ。あなたは下調べとかしなかったわけ?」

「ま、まあ面倒くさくて……」


 俺は真実を隠そうと少し動揺した感じで返答した。

 実際は無理矢理入学させられたんですオレ……。


「あなた本当に色々な意味で面白い人ね」


 彼女が少し微笑み、そう話す。


 やっぱ、この人笑うと普通に可愛いんだよな。


 と、そんなことを思っていると、白峰さんが説明をし始めた。


「この学園の生徒会長という立場は物凄い権限を持っているの。ただそれに見合った能力を持つ者じゃなければプログラムが認めてくれない」

「生徒会長もプログラムで決めるのか?」

「生徒会長だけじゃないわ。生徒会役員などの学園を運営する立場にあるグループはみんなプログラムによって決められる」

「なんでもかんでもプログラムだな」

「プログラムが学園で生徒会長にふさわしい人を選ばなかった場合、生徒会長不在ということも過去にはあったらしいわ」

「プログラムが認めなければ、その役職が空いていても就けないってわけか」


 俺はさらに質問をした。


「具体的に生徒会長ってどんな権限を持っているの?」


 白峰さんは答える。


「生徒会長になったものはこの学園都市である一定の支配権を得ることができるの。例えばさっきのAPを減らした時みたいにプログラムにアクセスして学生の管理や問題を起こした生徒の処罰などプログラムが管理している一部の機能が操作可能になるの。ただし自分の利益にこの権限を使うことは決して許されないけどね」

「なるほど。プログラムだけでなく、人そのものを監視役にすることによってプログラムには判別のつかない事象を解決するためってとこか」

「まあ、そういう意味合いもあるわね」

「ちなみにこの権限を持つのは生徒会長だけなのか?」

「プログラムを自由自在に使えるのは生徒会長のみよ。でも生徒会長が許可すればその他の生徒会役員も限定はされるけどプログラムにアクセスすることができるわ」

「生徒会長、か……」


 確かにこのくらいの地位になればこの学園のことをもっと知ることができるかもしれないと思った。

 あのKDとかいう男が言いたかった真実に近づけるかもしれないと。


 ただ、問題となるのが、どうやって生徒会長になるかだ。

 プログラムに認められるとは一体どういうことなのか。そもそもまだプログラム自体を理解していないのに。


「金山くん? 大丈夫?」


 こういうのは白峰さんだ。


「あ、ご、ごめん白峰さん。ちょっと考え事してた」


 そういうと白峰さんは、


「私もこの学園に入って悩みも増えたし、目標も増えたから仕方ないわよ」

「白峰さんも悩むことあるんだね」

「人間なら誰にでもあることよ」

「俺でよかったら相談に乗るよ?」

「ありがとう。気持ちは嬉しいけど自分で解決しなきゃいけないことだから」

「そっか……なにかあったら言ってね。できる限り力になるから」


 すると白峰さんは少し口元を歪ませて、


「ありがとう、金山くん。優しいのね」

「いやいやそんなことないよ」


 俺は初めて異性の子に優しいなんて言われたので少しドキッとした。

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