第34話 プログラムの少女


「だいじょ……だいじょう…」


(誰かの声が聞こえる。聞いたことのある声だ)


「ねぇ大丈夫!?」


(女の子の声……? これは……)


「ねぇ!」

「はっ!」


 その大きな声と共に俺は飛び上がる。


「やっと気がついた……」

「此処は……それに君は……」

「ここはプログラムの作動システムの中よ」

「作動システム……? ということは君が?」

「そう、私が有巣 亜理紗よ」

「やっぱり君だったのか」

「でも驚いたわ。まさかシステムの中に入り込んでくるなんて……普通の人ならその時の衝撃でペチャンコよ」

「そ、そうなのか……はっ! そうだ。ねぇ亜理紗、ここから逃げよう。もう君の身体は……」


 すると彼女は横に首を振った。


「どうしてなんだよ、君は助かるかもしれないんだぞ?」

「私は罪を犯しすぎた……この五年間、私の判断で人が死んでいった。それを償わないといけないわ」

「君は被害者だ! そんなこと……!」


 俺は汗にまみれた拳をぎゅっと握る。


「でも事実だわ。だから私は決めた。最後は自らのエネルギーを使って死んでしまった人を復活させると」

「そんなことができるわけ……」

「できるわ。被害者の入ったカプセルに私の持っている全ての生命エネルギーを注入すればね」

「でもそんなことをしたら君は……」

 彼女は俺の目をみてニッコリと笑う。

「もういいのよ、剣人くん。あなたはよく頑張ったわ」

「ふざけるなよ、俺は許さないぞそんなの!」

「ふふっ、あなたはおかしな人なのね。こうやって顔を合わせたのは初めてなのに」


 確かに不思議なことだ。でも俺は彼女のこの笑顔は望んでいるものではないと思った。だからこそ彼女を心の底から守りたいと思えたのだ。


「もう限界みたいね……」

「おい、どういうことだよ!」


 亜理紗の身体は次第に薄くなっていく。


「剣人くん、最後に君に出会えてよかった……だから止めて。此処の人たちを……そしてこの素晴らしい日本という国を」

「おい嘘だろ! 亜理紗!」


 目の前が真っ白になる。

 そして気がつけば装置の前に戻ってきていた。そして俺の腕の中には亜理紗の姿が。


「そんな……バカな。そんなはずは……」

「剣人! 大丈夫か!?」

「金山君、死んだはずのみんなが突然起き上がって……」


 白峰さんたちも合流した。


「あり得ん! システムと亜理紗を完全分離するなんて……」

「しょ、所長! システムの中に入っていた生徒たちが目を覚まし始めました!」

「なんだと!? そんなことがあるはずは……」

「金山! 生きているか!?」


 向郷会長と香恋先輩が大多数の自衛隊員と警察官を連れてやってきた。


「警察だと……?」

「――あなた方を不当な兵器保持及び大量殺害の罪により逮捕します」


 そしてその場で國松、城岩、そして首謀者の男は拘束された。

 まさかの出来事に言葉を失う城岩。


「……私は間違っていたというのか? 金山剣人……貴様は一体、何者なんだ……」


 連行される城岩たちを俺は見ることはなく視線は亜理紗の方にしかなかった。


「……亜理紗……本当に君は……」


 亜理紗の屍をぎゅっと抱える俺に皆はかける言葉もない。


「そういうことか……亜理紗は自らの手で……」


 亜理紗の眠った姿は少し笑っているかのようにも見えた。

 俺は生まれて初めて、人の為に涙を流した。それと同時にたった一人の少女すら守れなかった自分の無力さに怒りを感じた。


 こうして長きに渡った地下学園都市の謎に終止符が打たれた。

 沢山の犠牲と共に絶対領域で外部の人間には知ることができなかった悪魔的所業が世間に初めて明るみに出た瞬間である。


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次回で最終回になります。

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