第10話 夏休みに向けて
気がつけば入学してもう数か月が経とうとしていた。
8月に入り、季節は一気に夏モードだ。
地下なのに地上の気温とそこまで大差がなかった。忠実に季節まで再現していて改めてこの地下都市の技術の凄さに驚いた。
俺は生徒会に入り、懸命に働いていたためか、APが20ポイントほど増えていた。
ちなみに卒業に必要な最低ポイントは300APだ。
要するに一年間で100AP取らなければならない計算になる。
しかし一年次は入学時に100APが支給されるため、いかにこの一年でポイントを稼げるかが肝になる。
だが俺には関係のない話だった。
あのKDとかいう男が言っていたことが本当であれば、俺は卒業時に誰よりもポイントを持っていないとそのままゲームオーバーだ。
その真実を知るために生徒会に入ったのだが、未だに有益な情報は手に入っていなかった。
そうこうしている内に、前期末試験が近づいていた。
「もうすぐ夏休みだね!」
こういうのはクラス委員長の星宮芽久だ。
「そうだね! でも俺はそれよりまず前期末試験が心配で仕方ないよ」
「大丈夫! 分からない所があったら私に言って!」
「ありがとう! 助かるよ」
あの一件から星宮さんとはすごく仲良くなり、昼にはお弁当を用意してくれるくらいだ。なんでそこまでしてくれているのか未だに不明だが。
二人は付き合っているんじゃないかという変な噂も流れていて、たびたび男衆から嫉妬の嵐を受けていた。
そりゃ嫉妬も受けるだろう。
天真爛漫で優しくて、責任感が強く、頼りがいがあり、何より可愛いしスタイルもいい。人気がないわけがない。
「おはよう。金山くん、星宮さん」
クラスの二大美女、白峰夕が教室に入ってきた。
「おはよう! 白峰さん」
周りの男からすれば二人の美女を掌握している女たらし野郎とでも思われているのだろう。今でも嫉妬の視線が熱い。
(はぁ~そういう関係じゃないんだけどな)
「生徒会の仕事の方はどう?」
「大変だけどそれなりに充実しているよ」
「そうなんだ~何か手伝えることがあれば言ってね」
「ありがとう。星宮さん」
俺に向けてくれた彼女の笑顔はとても眩しかった。
思わず見とれてしまっていると横で白峰さんが不満そうな顔で見つめている。
「どうしたの……? 白峰さん」
「いえ、別に何でもないわ」
いつも冷静沈着な白峰さんだが、こういう時に少し分からない所がある。
「ねえねえ今日みんなで勉強会しない?」
星宮さんが言う。
「俺は構わないよ。逆に教えてもらいたいし」
「私も大丈夫よ」
「それじゃあ俺の部屋を使うといいよ。広いし」
「ホント? じゃあ金山くんの家に放課後集合で!」
「なにか面白そうなことやってるね~」
一人の男子生徒が声をかけてきた。
「あ、時宗君」
星宮さんが応対する。
彼の名前は
一年×組の副クラス委員長的存在の知勇兼備な男子生徒だ。彼も責任感が強くクラス委員長の星宮さんと協力しながらクラスをまとめてきたため、周りからの人望も厚い。
おかげで×組は今のところ問題もなく学園生活を送ることができている。その甲斐もあってかAPも減ることがほとんどなかった。
初めてのホームルームの時に彼は家の諸事情で学園に来れず、皆より遅くクラス入りをした。
俺たちがなぜ仲良くなったと言えば、それは入学して二か月くらい経ったときのことである。
まあ、最初は俺のミスで巻き起こしてしまったことなんだが。
♦
二か月前。
俺は教室で生徒会の書類を整理していた。
書類整理の期限に追われていてとても大変な時だった。
(暑いな~窓を開けるか)
そう思い、窓を開けた瞬間、かなりの強風が教室内を駆け巡った。
「やばい!」
そう思ったのも遅く、書類の一部が風で外に飛ばされてしまった。
しかも書類の中でも重要なもので無くしてはいけないものだった。
そして急いで教室を出たそのときだった。
背後から誰かに声をかけられ、
「あの~」
「え、なに?」
俺は書類の事で頭がいっぱいで少々荒い返答になってしまった。
「あ、すみません。お忙しかった所ですか?」
「え、まあはい。ちょっとやらかしてしまって」
「その、よかったらお手伝いしましょうか? 俺、この学園に来たばっかりで何も分からないですが」
「え! 本当ですか? ぜひお願いします!」
これが彼と初めて会った時だった。
その後、一緒に書類を探しに行き、無事に全部の書類を回収することができた。
「すみません。手伝っていただいて」
「いえいえ、お安い御用です」
彼は笑顔でそう答えた。そして彼は俺にこう話してきた。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。俺は時宗正。今日から一年×組のクラスに入ることになりました。よろしく!」
「俺は金山剣人。同じく一年×組。同じクラスだったんだね! 転校生とか?」
「いや、元々入学式からクラス入りするつもりだったんだけど家庭の事情で遅くなっちゃって」
「そうなんだ! よろしくね時宗君」
「正でいいよ。もっと砕けた感じで」
「わかった。よろしく正!」
この出来事以降、彼と俺は仲良くなり、自然と俺と交流のあった白峰さんや星宮さんとも仲良くなっていって現在に至るわけである。
そして話は現在に戻る。
「時宗君も来る? 勉強会」
「行く行く! 俺も勉強しないとまずいからさ」
正は前に初めて会った時よりも凄くフレンドリーな関係になっていた。
「お前、勉強しなくてもいいだろ?」
「いや、むしろその逆だ。しないとマズイんだよ!」
少々慌てながら彼は言う。
(んなことないだろ……実際頭いいしこいつ)
「剣人、お前もやばいんだろ? やばい同士がんばろうぜ!」
「やばい同士って……」
初めて会った時の礼儀正しさはどこに行ったのかというくらい正はおちゃらけキャラと化していた。
俺は、はいはいと正に適当に返す。
「じゃあ今日何時頃集合にしよっか?」
「私は何時でも大丈夫よ」
「俺も~」
白峰さんと正がすぐに答えた。
「俺は放課後に生徒会の仕事で書類運びがあるからちょっと遅くなるかも。でも今日の仕事はそれだけだからいつもみたいに遅くなることはないよ」
「じゃあ18時くらいでいいかな?」
「「「「「OK!」」」」」
全員が口をそろえて言った。
♦
現状所持AP
金山剣人のAP 118
白峰夕のAP 135
星宮芽久のAP 140
國松彰吾のAP 不明
向郷翼のAP 不明
時宗正のAP 105
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