第29話「企み」



 結局、紆余曲折はあったものの自警団のトシアキに対する誤解は騒動を見ていた商人達と周りの群衆の証言もあって解かれた。


 ミアに至っては終始、ごめんねごめんねテヘペロというふうにごまかそうとしていた。


 その後の自警団内の話では、今回の件を重く見て捕らえたボランティア達の身柄はアマンダの街に返さず一時預かることになった。


 そして身柄を預かる間、アマンダの街に使者を派遣し、事の解決にあたる予定のようだ。その前に、今回の問題については自警団の上役や街の議会で話し合われ、交渉の内容を検討するらしい。


「もし、俺が自警団に連れていかれるようならどうするつもりだったんだ?」


 解放されたトシアキはミアに、部下を見捨てるとはどういう了見なのか、詰め寄る。


 一方ミアは、後ろめたいことなど何一つないかのようにしている。


「これも計画の内だ。トシアキの誤解が解けるであろうことなどお見通しなのだよ」


 と、簡単にあしらわれた。


「それよりも、どうやら事は思惑通り言っているようだな」


 ミアは倉庫の件で集まった野次馬を見る。野次馬達はトシアキよりも、別の理由で怒りと興奮に冷めやらぬようだ。


 どこからか旗や横断幕を持ちだし、そこにはアマンダの街への不満、多くは水輸入に対する抗議、公平な取引の要求などが書かれていた。


 それに加え、アマンダの街の自警団が襲われた過去からギズモの街の自治独立を侵害しないことを保証せよとの声まで上がっている。


 中にはアマンダの街の議会制度の導入や関税の撤廃など、かなり踏み込んだ内容のものさえある。


「実はギズモの街にはデュラハンの工作員も紛れ込ませていてな。横断幕も旗も、シュプレヒコール要員も先に準備しておいた。これも計画の内よ」


 ミアは小声で、怪しくほくそ笑む。


「社会を裏からコントロールし、己の野望を実現させる。これぞまさに悪の組織、そのだいご味ではないか。十分に楽しめ、トシアキ」


 楽しむかはともかく、トシアキは素直に感心した。この大仕掛け、アマンダの街とギズモの街の確執があらかじめあったとはいえ、そうそう実行に移せるものではない。特に最初は裸一貫、その頃を考えれば悪の組織ここに極まりといったところだ。


「議会はおそらく、市民の声、を聞き。今回の件と確保したボランティアの身柄を利用して水利権の問題や公正な交易について話し合いの場を持とうとするはずだ。すると、どうなると思う」


「それは話し合いの場を持つことを承諾して、妥当な落としどころを―――」


 いや、そうはならないかもしれない。


 トシアキが言葉を止めたのを引き継ぐように、ミアが話す。


「あの街を牛耳るのはヒーロー協会だ。その唯一のヒーローにして支配者のオウガはどう考える。少なくとも過去の自警団を追い出した一件からすれば、交渉に乗らない可能性もあるのではないか」


 そうだ。あの男なら自分の意に逆らい不利益を被るくらいなら、いっそのことギズモの街を支配するために宣戦布告することもありうる。


「まあ、確定ではないのだがな。状況によってはデモ隊をアマンダの街まで誘導し、工作員を用いて突発的な衝突を起こす。そうなればすぐとは言わずとも、アマンダの街とギズモの街で争いを勃発させる。その闘争に我らデュラハンもギズモの街に加担し、ヒーローを打倒する。… …とはいえ私はギズモの街の自発的な行動に任せたいのだが、どうなるか」


「いや、確実にあの男はこの街を攻めてくる」


「―――トシアキ?」


 そう、トシアキにはわかるのだ。あの猜疑心に満ちた人間の観察の仕方。己の正義に固執し、自分の有利さえ捨て去る執着心。


 あの男、オウガなら己に従わない。正義を邪魔するものは排除してくる。


 たとえそれが、無関係な住民を巻き込むとしても、鉄火八八式重機関銃で同じように薙ぎ払うだろう。


 ならば、デュラハンが選択する行動は一つだ。


「我々デュラハンはこれより。第一級臨戦態勢に入る。デモ隊にデュラハンの全戦力を投入し。潜伏させてヒーローとボランティアを迎え撃つ。そしてこれを撃滅する」


「ああ、そうだな。今度の戦い。任せておいてくれ」


 これは今回の騒動の比ではない、リトルリトルの仇討ちを含めた重要な一戦となる。


 ならば、思う存分力を振るうほかないではないか。


 報復に燃え上がるトシアキの姿を見て、十分気をよくしたミアは号令を告げる。


「ではデュラハンの戦闘部隊に全集合をかける! 急ぎ伝令を飛ばせ!!」


 トシアキはミアの言葉に大きくうなづいた。



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