第25話「諜報作戦」
リトルリトルの見舞いにトシアキが行くと、そこにはミアも来ていた。
ミアは、リトルリトルが入院してからすぐにギズモの街に行ってしまった。そのため部下をないがしろにするところもあるかと思われたが、そうでもなかったようだ。
トシアキはミアと共に儚げながらも元気なリトルリトルの様子を見て安心した後、治療棟を出たのであった。
「訓練の方はどうだ? トシアキ」
「順調と言っておこう。戦闘に関しては素人でも、やはりミュータントの能力は十分戦力になる。戦闘員並みの銃の扱い、戦闘知識を叩きこめば、後は怪人としての振舞い方を教えてやれるだろうな」
「ふむ、ならばよい。ともなれば怪人たちが十分に育つには時間もかかろう。トシアキは、しばらく暇だな」
「何が言いたい」
「トシアキには新しい任務に就いてもらおうと思っていたところだ。できるな」
「統領の命令ならば、聞くまでもないな」
トシアキがそうのたまうと、ミアはちょっと驚いた顔をした。
「今、統領って言った!」
意外な反応に、トシアキもちょっと反応に困る。
「ああ、言ったが?」
「ついに私の偉大さを認めるようになったか。フハハハハ」
そんなことで喜ぶのか、と思いつつも。トシアキは、ふんぞり返るミアを見やる。
「ごほっごほっ。話を戻そう。トシアキにはギズモの街に向かってもらいたい。周知かもしれないが、現在アマンダの街と敵対している我々は必要な物資の補給をほとんどギズモの街で補っている。そこの買い付けの警備もしてもらいたい」
「了解した。しかし、今更な話だな。警備が必要ならもっと前から頼んでも良かっただろうし、戦闘員も付いているのだろう? 何か別の理由があるように思えるが」
「うむ。実のところ、最近ギズモの街でアマンダの街のボランティアが見かけられるようになった。おそらく、私の策が講じてアマンダの街は供給不足となっているからだろう」
「そんなことしてたのか? まさか、ブギーに任せていたアマンダの街から出る商隊の襲撃か?」
「そうだ。アマンダの街の動脈は水と電力、そしてそこから生まれる輸出入だ。水は重要だが、畑を造る耕作地帯はアマンダの街にはない。そのために、水をギズモの街に売ってその代価に食料や弾薬を買い付ける。水が売れ無くなれば、他に奴隷なども売る。その両方が供給できなくなれば?」
「食料も弾薬も買えなくなるってことか」
「それでもアマンダの街を牛耳っているヒーロー協会と下部組織のボランティアにある程度の貯蓄は残されているはず。そのために行われるのは大規模な警備状態での買い付けだ。すなわち、ボランティアによる直接の買い付け。できれば、これをトシアキに阻止してもらいたい。ただし、できるだけギズモの街の皆に迷惑かけぬよう。穏便にな」
「理解した。人員は?」
「戦闘員を増員し、ミュータント… …いや、怪人の卵達から何人か引き抜いて実行してくれ。この作戦はトシアキに一任する」
「分かった。人員の選出なら任しておけ。ある程度見当は付けてある」
トシアキはそう言うと、直ぐに準備に取り掛かることにした。
ギズモの街は主に外周に様々な畑が多く、そこから生まれる生産物は街の中心部である市場で売られていた。
街の中心地は旧都市の大通りをそのまま使い、ビルは住居に改装し、大通りには布地のテントを張った生鮮食品や銃弾薬、その他雑貨を売るマーケット通りに様変わりしていた。
また、話によれば更に下流には鉱山があり、そこから出る鉄や硝石は麓の工場で武器に変えられているそうだ。
アマンダの街が行楽的活気があるとすれば、ここは商業的な活気にあふれている場所だった。
トシアキはそんな市場の傍ら、オープンカフェのような場所のパラソルの下で飲みもしないホットコーヒーを頼み、ただひたすらに待つ。
ボランティアに見つかってもいいようにフードを目深にかぶり、トシアキは情報を欲していた。
ボランティアの目撃情報から、彼らの買い付け情報、それがいつどこで行われ、規模はどの程度なのか。動くにしても、それらが必要なのだ。
現在動いているのはトシアキが訓練した三人のミュータント達だ。もっと大規模に諜報を行えばいいかもしれないが、あまり大きく動いては気取られる危険性もある。
諜報の素人である彼らには慣れないなりにも、しっかり働いてもらうには少数の方がいいのだ。
そうしてしばらく待っていると、触手の能力を持つ青年がトシアキに報告へ走ってきた。
他にも、組手を行った電撃能力の少女、硬化能力の青年を連れてきてある。
「リク、情報は?」
触手の青年、リクがトシアキに報告する。
「はいっ。ボランティアの一団は川沿いの倉庫に集結中です。相手は武器商、先の戦闘で消費した弾薬の購入を行うようです」
川沿い、といってもダムは水をせき止め船を動かせるほど川底は深くない。そのため、陸上で弾薬を運ぶことになるだろう。
「ボランティアの規模は約三十人、荷台は五つ、どれも馬を使っています」
「オウガの姿は?」
「ありません。おそらくですが、アマンダの街に待機しているようです」
トシアキは内心ホッとしていた。今の戦力でオウガに見つかれば、勝敗は分からない。奴と戦うにはもっと戦力を集結してことにあたるべきだ。
とはいえ、安心している場合ではない。
「交渉の様子はどうだ?」
「はいっ。既に弾薬の積み込みを行い、ボランティアの主要なメンバーが出立する準備をしているところから、まもなく終わるかと」
「想定より早いな。分かった。すぐに動く。チエとケンジにも集まるように言え」
リクが伝達に走ると、トシアキはテーブルに会計のお金を置く。深くかぶったフードを注意深く、再度被りなおすと、道を歩き始めた。
「さて、お仕事といくか」
トシアキはフードを掴みながらも、隠せない闘志をにじませる。何故なら、先の戦闘ではリトルリトルを庇えず、怪我を負わせるという失態を演じたのだ。リベンジをするならこの機会を逃す他はない。
この戦いは負けられない。トシアキは決意を胸に、市場の大通りを急ぐのであった。
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