第26話「破壊工作」



 川沿いの倉庫を一望できる、人気のない廃墟にトシアキは陣取っていた。


 ボランティアはトシアキの眼前の下、たくさんの弾薬を馬車の荷台にせっせと運び。早く出発しようとしていた。


「チエとケンジを連れてきました」


 リクはそう言いながら後ろに二人を連れて戻ってきた。


「ああ、作戦を説明しよう。思った以上に時間がない」


 トシアキは埃の積もった床に、指で跡を付けて簡単な図を描き説明をする。


「これから行うのは隠密による破壊工作だ。戦闘があった場合、迅速に処理するか逃げろ。それは個々の判断に任せる。時間稼ぎのために既に電波系の通信妨害装置でバタの支払いを阻害してある。だが、ごまかせるのは短時間だ」


 トシアキ以外の三人は頷く。


「ここにゼノが用意してくれた発火装置がある。これで弾薬に引火させて爆破する。そのためにまず、川底の浅い川の方に待機し、倉庫側で出火させ注意を逸らす。その間に発火装置を荷台に付けて逃げる。これは速さが重要だ。質問はないな」


 再び、トシアキ以外の三人は頷く。話の飲み込みが早くて、トシアキにとってもそれは助かった。


「では作戦を開始する。まずは近づかないとな」


 そう言うと、トシアキは他の三人を連れて階下に急ぐのであった。



 トシアキ、リク、チエ、ケンジの四人は水量が少なくなり空堀のようになった川を沿って、ボランティアの一団にできるだけ近づいていた。


 上手いこと、川べりを塹壕のように身を隠して接近できたので、荷台からは百メートルも離れていない。ただし、その先には遮蔽となるようなものは何もない。


「行けるな。では発火する」


 トシアキが短く確認を取り、手元にある端末を操作する。


 すると、同時に三つ。倉庫の方から煙がもうもうと立ち込め始めた。煙は収まる気配はなく、そのまま蛇の舌のような赤い炎がチラチラと顔を覗かせ始めた。


 倉庫と荷台の距離は無視できないほど近い。ボランティアの皆々は大きくなる炎に慌て、消火に走り出した。


 そして、ほとんどの人間が炎に目をとられている間に、トシアキたちは動き出す。


「行って戻ってくるだけだ。失敗したら帰ってやけ酒でもしよう。では、作戦開始」


 トシアキの言葉と共に四人は動き出す。作戦内容は先ほどの通りだ。ゼノから頂戴した発火装置を荷台に取り付け、姿を見せずに逃げる。それだけだ。


 四人は皆、身を低くしながら走る。途中でチエが躓いたのを、近くにいたケンジがぶっきらぼうに助け起こした以外は問題なく荷台に近づけた。


 荷台の川側には見張りはいない。しかし、反対側にはそれぞれ見張りが一人立っている。


 急がねば。


 四人はそれぞれおもいおもいの方法で発火装置を荷台に取り付け始めた。操作は簡単だが、取り付ける場所は明確に指示していない。


 荷台の下に慎重に取り付ける者もいれば、荷台の横にそのままくっつける者もいた。


「ちゃんと教えておくべきだったかな… …」


 トシアキは他に悟られぬ程度の小声でぽろりとこぼした。


 そんな中、見張りに動きがあった。


 誰も大きな物音を立てたわけではない、ただなんとなしに移動しただけなのだろう。注意はまだ川側に向いておらず、足だけ川に向いている。


 トシアキは他の三人に「任せておけ」とハンドサインを送り、動く。


 フードを深めに被り、慎重に見張りの視界外から近づき、瞬時に後方を取る。


 そしてスライムを、使わず両の腕を見張りの首に羽交い絞めにして、その意識を狩り取りにかかった。


 意表を突かれた見張りは、トシアキの姿を確認することも助けを呼ぶこともできず、意識を失った。


「デュラハンが関わった証拠を残すのはまずいからな」


 もし、ここでスライムを使えば、その能力からトシアキの身元を残すことになる。例え露骨に妨害工作でも、ミアの事を大げさにしないためにはこの方法がいいのだ。


 四人は発火装置を取り付け、残り一つもトシアキが荷台に潜り込んで発火装置をセットした。


「よしっ! 退散」


 と、心の中でトシアキが号令をかけたのを聞き届けたかのように、四人は一目散に川べりに走った。


 帰りも無事、見つかることはなく。四人は川のフチを辿るようにその場を離れて行った。


「ここまで来れば十分だろ」


 トシアキが他三人の無事と、視線が切れたのを確認した。


「では、点火だ」


 トシアキが端末を操作し、発火装置の起爆を支持する。


 すると、倉庫の方から煙が上がったかと思うと、小規模な爆発が断続的に聞こえてきた。


 どうやら上手く銃弾や火薬に引火したようだ。


「任務完了だ」


 リク、チエ、ケンジも初の任務成功に小躍りし、喜んでいる。


 トシアキも自分の初任務が成功した時、先輩のファイアスケアクロウに施設で宴会を催したのを思い出した。


「さて、心ばかりの祝いだ。派手にとはいかないが、街で小さな席でも用意しよう」


 トシアキは自分が、このデュラハンという組織の最年長者になったことを実感しながら、今は優しく部下たちにねぎらいの言葉を与えた。



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