第14話「ストーマ―の選択」
ストーマ―のボス、ブギーの身体を背負いストーマ―達に投降を呼びかけると、思った以上に大人しく彼らは応じた。
投降を呼びかける中、ストーマ―に追われていたミア達とも合流し。念のため医療の知識のあるゼノにブギーを見てもらうと命に別状はないそうだ。
その後ミアの命令により、ストーマ―達は集められ、今後について話をすることとなった。
「連れて行かないのか? あまり時間を置くと、反逆してくる連中もいるんじゃないか」
「そう言うな、トシアキ。私には冴えた考えがあるのだ。任せておけ。とりあえず、拘束したストーマ―のボスを起こしてくれ」
トシアキは言われた通りにブギーの身体を揺すって起こそうとする。
そうすると、正座させて待たせていたストーマ―達から懇願の声が上がった。
「俺たちはどう処罰されてもいい。ボスの命だけは助けてくれ!」
「ボスは悪くない。俺たちが勝手にボスに持ち上げただけなんだ! 頼む」
「ヒーロー協会に逆らったのは悪かった。死刑だけは勘弁してやってくれ」
トシアキが手をかけたのを、処刑執行だと勘違いしたのか。ストーマ―達はボスの助命を請うた。
「黙れ、黙れ。これはただ起こしているだけだ。まだ何もしない!」
トシアキが誤解を解くと、やっとストーマ―達はおとなしくなる。
「慕われているようだな。ならば一層説得のし甲斐がある」
ミアはブギーに一歩近づくと、強烈なビンタを浴びせる。
ブギーの分厚い脂肪と手の平の衝突は空気の破裂するような音を鳴らし、ミアは想像以上の痛苦に悶えた。
ブギーの方はと言うと、痛痒感じえないような表情で目覚めたのだった。
「ぶひっ。ここは?」
「… …確か名前はブギーだったな。初めまして、私はトシアキの上司にしてデュラハンの統領、ミアだ」
ブギーは身動きを取ろうとするが、自分が拘束されているのに気づき、動きを止める。
「なるほど。俺は負けたんだな」
ブギーは養豚場から食肉加工場に送られる豚のような悲しい顔をしていた。
「案ずるな。私はまだ貴様らを豚箱送りにするとは言っていない。話によっては見逃しさえしてやってもいい」
「おいおい。賞金はどうするんだ」
「黙れ、トシアキ。私はまだ話している途中だ」
ミアはトシアキの言葉を制し、ブギーに発言を促した。
「ブギーに問いたい。貴様らはいかにして賊に身を落とした」
「んんむ。まさかこんな年若い少女に身の上話をすることになるとは… …」
ブギーは話すかどうか一瞬考えたようだが、すぐに口を開いた。
「話は聞いているかもしれないが、俺たちは元アマンダの街の自警団だったんだぞ。ヒーロー協会に負けて落ち延びた後、潜伏しながら再起を狙っていたんだ」
「本当か? 噂は聞いたこともないな」
トシアキが疑問を呈すると、意外なところから反論があった。
「ブギーさんの言っていることは本当です」
「リトルリトル?」
「ブギーさんはご主人様を助けてくださろうとしてくれました。ご主人様もブギーさんストーマ―に助力していたため、ヒーロー協会に目を付けられる一因になってしまったのです。ブギーさんはご主人様だけではなく、水売買の高利で困っている村々を奪った物資で助けていました。僕からも、助命をお願いします」
リトルリトルの言葉に、ブギーはリトルリトルを大きな眼で見つめた。
「お前、ラクーン家の者か」
「はい、ブギーさんのお話はご主人様から全て聞いています」
二人の話を聞き、ミアはふむふむと頷く。
「なるほど、リトルリトルと同じく。ブギーもまたヒーロー協会に虐げられた者、つまり同志ということか」
ミアはそう共感すると、ブギーを含めたストーマ―達に向かい合った。
「まず最初に、貴様らストーマ―のボスへの信頼に私は感激した。この世の中、中々自分の身を投げ出してまで人を庇うなどということはできない。その点は認めてやる」
ミアは偉そうにそうのたまう。
「しかしその一方で私は貴様らに失望している。それは何故か。ヒーロー協会に反逆しつつあるのに成果を挙げられていないからだ。それは貴様らが弱いわけではない。敵が強大だからだ。そこを考慮すれば我々も貴様らと変わらない」
ミアは、はたと立ち止まるとブギー達を指さした。
「戦うにはさらなる力がいる。そのためには貴様らも、我々も心をひとつにして立ち上がる必要がある! そしてここに選択肢がある。ここでただ怠慢な日々を送るか、それとも打倒ヒーロー協会のために我々と立ち上がるか。選択は二つに一つだ。貴様らの気概を私に教えてくれ」
ミアがずばりと言うと、その言葉にブギーが反応した。
「一つ訊かせてくれ。お前にはヒーロー協会を倒す秘策はあるのか?」
「既にある! ないのは力。必要なのは貴様らの意思と行動力だけだ。答えを聞かせてくれ」
ストーマ―達はざわめく、急に少女に自分の元に集まってくれと言われて決心がつくほど尻軽ではない。それでも笑い声を聞かないところを見ると、本気で悩んでいることが見てとれる。
彼らを悩ますのはミアへの期待を含んだ不安と、ボスのブギーへの信用問題なのだろう。
話の中心人物であるブギーが、拘束されたまま立ち上がる。
「話は分かった。本来ならこのまま処刑されても文句が言えない立場だ。俺はこの統領さんについていくぞ」
「ボ、ボス。いいんですか?」
ブギーのすぐ後ろにいるストーマ―が疑問を発した。
「確かに今は統領さんのとこは巨大な組織ではないかもしれないぞ。だが、この人は俺たちを信頼している。この世の中、無償で信頼することの難しさは統領さんもよく知っているはずだぞ。そして、信頼を裏切らないことの難しさも。だから俺は統領さんの手助けをしたいと思う。そんな理想を、俺は助けたいと思っているんだぞ」
ブギーの言葉にストーマ―達も胸を打たれたのだろう。
「なら俺もデュラハンに入れてくれ!」
「自分もだ! 自分も!」
「さっきの言葉、信じさせてくれよ。俺はあんたについていく。いや、行かせてくれ」
ストーマ―達が次々と立ち上がる。ミアと、ブギーの言葉の熱に動かされ、背中を押されていくのが分かる。
ミアはその光景を見て、嬉しそうに震える。
だがあくまでも冷静を努めようと、言葉を挟む。
「今ここで決定を強制するつもりはない。解放されたいものは後で教えてくれ。デュラハンは去るものに銃口を向けたりはしない。嫌になったらいつでも言ってくれ」
ミアの言葉の後でも、ストーマ―達の熱気は収まらない。
「ミア統領! ミア統領!」
「統領万歳! デュラハン万歳!」
「打倒ヒーロー協会! 絶対的支配なんてもうこりごりだ!」
さすがにここまで高揚してしまっては、ミアでも止められないし、止める必要もない。
そしてミア自身もその熱にあてられている。
「あい分かった。全て丸くわたしに任せておくがいい! 我々はやるぞ! 勝利するぞ!」
ミアは年相応にはしゃぎ、デュラハンの合言葉を放つのであった。
「我々の、デュラハンの野望の星に輝きあれ!」
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