第15話「第二回幹部会議」



 デュラハンの仮本部、その会議室はいつのまにか清潔になっていた。


 埃の積もっていた椅子や会議机はきれいに拭かれ、剥がれたタイルや瓦礫は床から取り除かれている。長い年月で灰になってしまった観葉植物も、そこらへんの代用の植物が植えられている。


「さすが私の見立て通り。リトルリトルはメイドの鑑だ!」


「… …ラクーン家に勤めていた頃から清掃も担当していましたので、メイドは関係ありませんよ」


 リトルリトルの小さな反抗にミアはまったく耳を貸していない。


 会議室の椅子にはミア、ゼノ、トシアキ、ブギーが座り。リトルリトルはその間で忙しく飲み物を運んでいる。


 飲み物やお手拭きを配り終えた後、リトルリトルも席に座り、会議が始まる。


 ミアは席から立ち上がり、号令を出した。


「第二回幹部会議を開始する。皆、忌憚なき意見をくれ! まずはゼノ、現状を説明してくれ」


「はい、わかりましたなワケ」


 ミアと入れ替わりにゼノが立ち上がり話を続けた。


「ブギー率いるストーマ―を吸収したことでブギー以外に戦闘員が三十三人、非戦闘員が五十六人増えたワケ。非戦闘員はほぼ女性や子供、老人だけど簡単な作業なら手伝えそうなワケ。金銭面はストーマ―からの融通があって五十万バタまで増えたワケ。感謝してもしきれないワケ」


「問題ないぞ。元々、リーダー協会を打倒すべく集めた資金だぞ。有効に使ってくれ」


 ブギーがそう言うと、ミアは頷く。


「うむ。ありがたく頂く。とはいえデュラハンの全盛期にはまだまだ遠い。戦力も資金もどんどん蓄えていくぞ。そこで私から提案がある」


 ミアはブギーを指さした。


「戦闘員長ブギー、貴様にはこれからストーマ―の頃と同じく略奪による資金確保を厳命とする。その点で条件がある」


「条件とは何だぞ?」


「略奪の対象は主に商人だったな。それを更に厳選し、アマンダの街からギズモの街に行く商人だけを限定にする。盗品はギズモの街で適正価格で売ってくれ。稼ぎが少なくなっても構わん」


「分かったぞ。水売買で儲かっているのはアマンダの街の商人だから言うほど減らないはずだぞ。がんばってやる」


 ブギーは胸を張り、その命令を受けた。


 その後、トシアキが手を挙げた。


「俺からは新しく入ったストーマ―とリトルリトルを訓練したい。ストーマ―は動きは悪くないが、地形を活かした戦い方を叩きこんで来るべきヒーロー協会とボランティアとの戦いに備えたい。いいな?」


「うむ、許可する。待機しているストーマ―はトシアキに訓練させる。いいな、ブギー」


「分かったぞ。俺の部下たちを任したぞ」


 三人が納得したところで、ゼノがゆっくりと手を挙げた。


「私からは治療棟での手伝いに非戦闘員から何人か手伝いを要請したいワケ。他にも別の棟の片付けに何人か。できる限り手を貸してほしいワケ」


「非戦闘員も働いてもらわなければな。ブギー、手の空いてる者はいるか」


「了解したぞ。何人か声を掛けてみる」


「助かるワケ」


 やり取りをある程度終えて、ミアは満足そうな顔をした。


「こうして皆が意見を言い、情報交換や協力要請をすると、まさに幹部会議という感じだな」


「第一回目はあくまでも希望的観測による妄想のやり取りだったからな」


 トシアキが口を押えて笑う。


 その様子を、ミアはぶすっとした顔をして睨んだ。


「悪の組織が夢を見て何が悪い。夢を願うなら果てまで追いかけろ。その程度では手に届く希望でさえ手放してしまうぞ」


「もっともらしく言うが、巨大ロボット? 無理難題なんだよな」


 トシアキの言葉に、若干二名がざわついた。


 それはリトルリトルとブギーだ。


「巨大ロボットですか―――」


「巨大ロボットだと―――」


 二人は深刻な顔をして息をのむ。


 トシアキは二人の顔色を見てそれみたことかと、ミアに注意する。


「これに懲りて部下の手前でそんな荒唐無稽は」


 と言い切ろうとしたトシアキの言葉を、リトルリトルとブギーの言葉が遮った。


「素晴らしいじゃないですか!」


「凄いことだぞ!」


 何のことはない。ただ二人はミアの計画に驚愕と憧れの念を抱いていただけだった。


「巨大ロボットはやっぱり腕が飛ぶんですか。それとも、肘にジェットを積んでターボパンチができるのですか」


「いや、ジェットは足の裏にこそ付けるべきだぞ。重質量が空を翔ける姿はどんな兵器にも勝る。勝利を追求するならまずはロマンからだぞ」


 こう、何だろう。どうして悪の組織にはロマンだと言って重要な議題をすっぽかす奴らばかりなんだろうか。


 トシアキは唯一の味方であるゼノを見やった。


「何を言ってるの皆。ジェットを付けるなら背中に決まってるワケ」


 前言撤回である。この戦場は既に四面楚歌となっていた。


「背中だけじゃない。現実的には巨大なロボットの姿勢制御のためにあらゆる場所にジェットノズルが必要なワケ。私の設計によると―――」


 ゼノは携帯端末からロボットらしき三次元設計図をホログラムで映し出す。そして誰にも促される必要もなく、解説を始める。


 それをミア、リトルリトル、ブギーは熱心に講義を聞いていた。


「ここには」


 トシアキは独りさびしく咆哮を上げる。


「まともに会議を終わらせようとする奴はいないのか」


 トシアキは心の声を吐き出し終えると、後学のために皆と一緒にゼノの講釈を傾注することにした。



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