第11話「囮作戦」
トシアキは荒野の上で赤いぬめりのある液体を流し、倒れ伏していた。
服には穴が開き、身ぐるみは衣服以外は盗られて何も持っていなかった。
「この作戦、俺の負担が多くないか」
トシアキは独りごとを言いつつ、赤い水たまりから立ち上がった。
身体は赤く濡れ、衣服に穴は開いているが、肌に傷はないように見える。
代わりに、露わになった肌には黒く内出血した痣がある。
「よくぞ任務を全うした! トシアキ」
すぐそばの建物の陰から、ミアとゼノとリトルリトルが顔を出す。こんな馬鹿げた作戦を立てた張本人たちだ。
悪気がなさそうな顔をした二人と心配そうな一人は、ケチャップまみれになったトシアキをねぎらう。
「作戦名名付けて、<死んだふり奪った財布は匂い付き>は大成功だ。私たちの見立て通りだな」
「迫真の演技だったワケ。炸裂するケチャップ、こと切れる際の断末魔、どれも一級品だったワケ」
「すいません。手伝えなくて、すいません。お身体大丈夫ですか」
トシアキはケチャップの付いた服を手で拭う。しかし、綺麗になる様子はない。
「あまり無理させてくれるなよ。いくら銃弾を受け止められると言っても、衝撃だけは逃せないんだ。骨は折れるし、内部から出血もする。現に今さっきので肋骨が何本か逝ったな」
「なんだ。今更傷つくのを恐れるのか? ハカセは頭脳労働、私は指揮統率担当、リトルリトルは癒し専属、ならば前線に立って汗と血を流すのはトシアキの使命なはずだぞ」
「否定はしないよ。しかし、手心は加えてほしいな。あまり労働環境が悪いと俺もストライキしたくなるからな」
「安心しろ。うちは労働組合は認めていないし、ストライキは握りつぶす予定だ」
こいつは何と待遇ブラックな組織だ。頭を抱えたくなる。
「それで、作戦はこれで良かったのか」
「大丈夫なワケ。トシアキがその身を顧みずに強奪されたハードウォレットは中身がダミーなワケ。ダミーは手段で、目的は位置特定。次に通信用のネストに繋げばどこから発信しているか分かるワケ」
「場所を特定してどうするんだ?」
「決まっている! 我々に歯向かったストーマ―共を頭から壊滅させてくれる!!」
一度だけの襲撃、しかも失敗したのにここまで執念深く追撃されるストーマ―たちは如何程の想いだろうか。
冤罪ではなくても、過剰請求すぎるだろう。
トシアキは誰かの苦労をいたわり、ため息をついた。
ゼノの言う通り、ストーマ―の隠れ家は本当にあっさりと判明した。
意外だったのは彼らの隠れ家がデュラハン仮本部、つまりトシアキがコールドスリープしていた元支部の目と鼻の先にあったことだ。
「よく今まで襲撃されなかったな」
「見た目は完全に廃墟だったからな。まさか華やかな美少女二人が隠れていたとは思うまい。実入りの多くは商人を襲っていたのだろうし、遭遇する確率は低かったのだな」
「… …それは大した自信だ」
ストーマ―の本拠地は巧妙に隠されている。周囲に壁や塔のような目印はなく、定期的に回ってくる偵察部隊だけが唯一の証拠だ。
入り口は新生デュラハンの本部と同じように廃墟のビルを使っている。変に周りの景色に反するものを建てず、完全にカモフラージュされている。
「これからの作戦は、本当にあれでいいんだよな」
「任せておけ。作戦の担当については一日の長がある。そう簡単には捕まらんよ」
「なら、俺は配置につく」
トシアキはミアとゼノとリトルリトルの三人と別れ、ストーマ―の隠れ家にできるだけ近づく。もちろん、バレない程度の距離だ。
トシアキは最終的に大型トラックの廃車の裏に隠れると、ビルの上に伏せているミア達に目線を送った。
ミアはそれを確認すると、廃ビルの上で仁王立ちした。
ちなみに廃ビルはストーマ―の隠れ家の目の前だ。
「宣誓! 私たちは子悪党ストーマー達と正々堂々と戦うことを、誓います!」
ミアの大きな地声は、拡声器がないにもかかわらず廃墟街に響き渡る。隠れ家にいるストーマ―だけではなく、偵察しているストーマ―達も一体全体何かと、挙動不審になっている。
ただ挑発にもかかわらず、ストーマ―達がすぐ動く様子はない。
ミアはその反応はあらかじめ予期していたかのように、言葉をつづけた。
「なお、我々の攻撃は既に始まっている。ハードウォレットをわざと奪わせ、本拠地を判明させるほかに、我々のハードウォレットへ自動送金させるウィルスも仕込んである。今頃貴様らの財布の中身は空っぽになっているはずだ!」
その言葉に、ざわついていた周囲が一瞬静かになる。後になってまたざわつきがない所を見ると、心当たりがあるようだ。
しばらく待つと、隠れ家から十数人の武装したストーマ―が慌てて出てきた。
「あの小娘を捕まえろ!」
ストーマ―らは口々に怒声を漏らし、銃を構えて撃鉄を下ろす。
ミア達は待ってましたとばかりに脱兎のごとく退却を始めた。
隠れ家から現れたストーマ―に続き、偵察していたストーマ―も後に続く。そうするとあまり時間を経たずして、隠れ家の前から雑踏は過ぎ去っていた。
「それじゃあ、仕事と行くか」
トシアキは誰もいなくなったストーマ―の隠れ家の入り口から、宣言通り馬鹿正直に堂々と乗り込んでいった。
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