第28話「ボランティアとの戦闘」



 敵は大群、こちらは一人の上に丸腰。


 トシアキはそれを重々承知しながらも、ミアを商人達の陰に隠し、向かい打つべく構えを取った。


 トシアキに対し、ボランティアたちは一斉掃射の構えをとり、いつでも引き金を引ける状態にあった。


「馬鹿もん! 群衆に当たる! 銃は使うな」


 だがボランティアの小隊長はそう指示を出す。今はギズモの街に明確な人命の被害は出ていないものの、万が一流れ弾に人が倒れればギズモの街との関係は最悪な状況になる。


 それはたとえ強硬手段に出るとしても、避けねばならない事態だった。


「三十人相手に銃ありは骨が折れるところだった。助かるぜ」


 トシアキは皮肉をとばし、銃の代わりに警棒やナイフを手に取ったボランティア達を迎え撃った。


 最初に対面したのは一人ずつ、警棒とナイフを持つボランティアだ。


 これならばまだスライムを使うまでもない。


 トシアキは手の甲で警棒を振り下ろす腕を、ナイフを突き出す腕を、外へ外へと弾く。


 そのまま身体が交差する瞬間を狙い、頚椎に追撃の手刀を叩きこみ。気絶させた。


「どんどん来い!」


 トシアキの挑発に次は二人同時に襲い掛かってきた。これには武術の達人ではないトシアキには荷が重い。


 なのでトシアキはスライムを展開し、一人は窒息攻撃を仕掛けて動きを止め、もう一人は渾身のストレートで先手を取る。


 やられていくボランティアはただ倒されるのを遠巻きに見ているわけではない。次はトシアキが身構えなおす前に、三人がかりで捨て身の突貫だ。


 トシアキは咄嗟に全身にスライムの膜を張るが、完全な防御にはならない。突き刺さるナイフは腹を掻っ捌き、警棒が何度もトシアキの頭を殴打する。


 致命傷までとはいかないまでも、これは痛い。


 トシアキはスライムの防御で傷を塞ぎ、超再生で傷口を閉じていく。同時に目の前の二人を窒息させ、もう一人は自力で引きはがしにかかる。


 その間にも、更に五人。全員がナイフを構えてトシアキに襲い掛かる。


「クソッ」


 五人のボランティアがトシアキに殺到し、姿を見えなくした。


 万事休すという、その時。トシアキの傍にコロリと落ちるものがあった。


 それは青い液体を少し残したアンプルであった。


 それと同時に、パラパラと散るものがあった。割れたガラスのように舞い散るのは、ボランティア達の持つナイフの刃の残骸であった。


「こいつっ! 急に刃が通らなくなったぞ」


「構うな。このまま取り押さえろ。ひるむな!」


 それでもなお、ボランティア達はスクラムを組むようにトシアキの下へ集まる。


 トシアキはボランティア達の自重でどんどんつぶれていくかに思えた。


「このっ!俺にたかるなよ。虫共!」


 これにはトシアキも逆鱗に振るえる。怒りに応えたのか、スライムもその形状を変えていく。


 瞬間、ドーム状に集まったボランティアを貫くように、針の山が現れる。これには勇猛果敢に挑んだボランティア達もたまらず、トシアキから引きはがされる。


 針を喰らったボランティアは重傷だ。腕をちぎられた者や顎を砕かれた者もいる。それは今までの薄皮程度の傷をつけるスライムの硬度とは別物であった。


「助かった。ゼノ。硬化能力の底上げといったが、こいつはいい。できればオウガのために残したかったよ」


 その後悔を振り払うように、両腕からスライムを伸ばしてムチの形状に変える。


 ムチになったスライムを薙ぎ払えば、それはドラゴンの尾のように悠然と複数人のボランティアを弾き飛ばす。


 ムチは交差するように何度も振られ、攻撃の通らないトシアキ相手に一方的になぶられ、ボランティア達の士気は底をつきつつあった。


「っ! ここまでか」


 奥に控えていた小隊長は覚悟を決めたのか、禁止していたはずの銃を抜く。それは鉄火九五式拳銃、小口径だが信頼性の高い拳銃だ。


 小隊長はそれをトシアキにむける。


 もちろん、その後ろには非戦闘の商人たちが控えている。


「馬鹿がっ!」


 引き金が絞られる瞬間、トシアキはスライムをシート状に薄く延ばし、アゲハの羽のように広げる。


 銃弾はトシアキに命中する弾道はもちろん、逸れた銃弾もアメのように包み込み。防いだ。


「自分が定めた命令なら、最後まで突き通すものだろう!」


 トシアキは弾丸を撃ち尽くし再装填している小隊長に走り寄る。


 拳を硬いスライムで強化し、勢いを殺さないまま突き出した。


「うぐっ!」


 小隊長は拳を避ける暇もなく、それを顔面に受ける。その威力のまま地面に叩きつけられ、気絶した。


「うしっ。任務完了」


 トシアキはスライムを収め、戦闘終了を告げる。


 あとの逃げる者たちは捕らえる人でもないので放っておこう、と思ったがそうもならないようだ。


「これは何事だ!」


 商人が呼び、やっと到着した自警団の集団がボランティアを拘束、もとい保護している。これではトシアキが悪者のようだ。


 実際のところ、悪の組織なので公序良俗に反するのだが、ここで捕まるのもしまりが悪い。


「なんというか。これは事故だよ。事故」


 と、何とも甲斐性のない回答に自警団達はトシアキをジロリと睨む。


「そうか。なら任意の同行を求めても構わないな?」


 トシアキは、ハハッと愛想笑いでミアの方に助けを求める。


 そのミアに至っては我関せずというふうに、やれやれと横に首を振っているだけであった。


「戻ったら愚痴をいっぱい言わせてもらうからな… …」


 トシアキは周りを屈強な自警団員に囲まれ、反撃するわけにもいかず、観念したように両手を挙げた。



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