結び② カガリヌイ

 ホツレの残滓がこれほどまでに強力でまとわりつくものだとは思わなかった。


 それは変わりたいという願いから生まれたのだろう。



 わたしだけ特別になりたい。


 ぼくだけ特別になりたい。


 ルールを捻じ曲げてでも


 努力し続けている人よりも


 才能のある人たちより


 もっと良い思いをしたい


 因果律をいじって自分だけ幸せになりたい


 宝くじに当選したい


 石油王と結婚したい



 人を思いのままに操り精神を制御し、操ってみたい


 超常の力を授かって、今までバカにしてきた奴等を痛い目にあわせてやりたい


 魔法を使えるようになってクラスの連中を見返してやりたい


 ヒーローになりたい!


 ヒロインになりたい!!


 なんで自分は特別な力がないんだ?


 なんで私だけこんなに不幸なの!?


 友達はあんなに才能に恵まれてかっこよくてもてる!!


 私は友達の中で一番かわいくなくて、勉強もスポーツもできない!



 許せない!!

 許せない!!


 もっと特別になりたい!!




 << 世の理を捻じ曲げてでも、特別な何かが欲しい!!! >>




 願いとは力


 憧れは歩む活力となり


 歪んだ願いは・・・・・




 ホツレとなる。




 誰だって特別になりたい。

 生まれてきたからにはドラマの主人公のように、アニメのヒーローヒロインのように!!


 ちやほやされて、大活躍して 美男美女に惚れられて・・・・



 でも、みんな・・・・


 現実に向き合うために成長という名の大河へ、そのオモイを流していく。



 幾星霜の年月を経て、その オモイ が ネガイ が・・・・


 ホツレとなって人々の希望を奪う化け物となり果てた。



 だから葵衣は、その思いや願いを諭し、宥め、慰めることにした。


 皮肉にもホツレが弱まれば、自身の力も弱まってしまう。



 数十年に及ぶ凍結封印を経て再び世に戻った葵衣は、変わらぬ姿形で笑顔を見せるマイから知らせを受けた。


「レイジ様がこの世界に到着されたようです・・・・これから忙しくなりますね葵衣様」


「うん、みんなで仲良く死にましょう」



 ◇◇



 時は現在・・・・・・


 実家に顔を出す暇もなく、ファルベリオスは師匠でもあり上官にあたるバルケイムの元へと向かっていた。


 魔導王国時空魔法研究所所長バルケイム


 かつてルーンナイトの師匠でもあった歴戦の勇士だが、今では時空魔法の研究者として数々の業績を上げていた。


 雑多な薬工房にも似た研究所内にずかずかと入り込んだファルベリオスの表情は固い。


「バルケイム所長はいるか!!」


 研究員たちはただならぬ様子のファルベリオスを見て、関わりたくないと隅に逃げ去っていた。


「大きい声を出すなバカ者が」

「バカ者だと!? 僕を利用するだけ利用しておいて! あやうく殺されかけるところだったんだぞ!」


 初老の域に入っていたバルケイムは白くなってきた顎鬚を撫でながら自身の研究室へ招き入れた。

 罠かとも思ったが、彼なりに研鑽を詰んできたいう自負が重かった足を前へ進めてくれる。


 相変わらず訳の分からない時計や光る石、そして数々の魔導書が積み上げられていた。


「そろそろ来るころだと思っていた。お前にあの書状を託したのは実は私ではないと言ったら驚くかね?」


「驚くって・・・それ・・・・・は?」


「ファル坊・・・・聞いたことがあるであろう?かつてヴァルジェリス帝国とリシュメア王国を巻き込んだ大戦があったことを」

「いきなりなんだよ」


 ”

 まあ聞くがよい。


 魔導王国ラザルフォードが誇る預言者の一族、彼らの予言によって災いが最小限の被害に抑えられたとあるがあれは嘘じゃ


 たった一人の大預言者による詳細で緻密な予言の積み重ねにより、あの大戦は秘密裏に終着を見た。


 そのあまりにも正確無比な予言に王たちも驚き恐怖した。一部では拘束し利用すべきという意見もあったが、未来を見通す大預言者を拘束するなど無理なこと。


 しかし大預言者様は、ある突拍子もない要求を求めてきたのだ。


 この時代のこの時、わしの手でローエン伯爵家の次男坊 ファルベリオス・ローエンに細かな書状を届けること。大預言者の決めた日時時間場所にて。


 ”


「ちょっと待ってくれ! 師匠が先を見通してよこした手紙じゃないのか!?」

「もちろんわしが手紙をしたためたが、書面は全て大預言者様の指示通りである」


「嘘だろ・・・・・そんなことって・・・・」

 レイジの言っていた霧の中で背中にナイフを突き立てられながら歩いているという感覚に、ここで合点がいった気がした・・・・


「ほれ最期の手紙じゃ。これを読み、お前の思うままに行動するがよい」


 右手の杖で床をトンと鳴らすと床板が沈み込みながら開き、厳重に封印された木箱が姿を現す。


 ガチャリと自動で開くその重厚な箱の中には一通の封印された古びた書状が・・・・


「これも僕のために用意されていた書状だとでもいうのか?」


「ううむ・・・・・継承の儀はこれで終わりじゃのう。長かった・・・・大預言者様はお美しいが謎多きお方故気苦労が絶えんかった。唐突にやってきては三日後に噴火があるとか言い出すもんじゃからな」


 ファルベリオスは何十年も前に書かれた書状を手に取り、しばらく躊躇の念を払えずにいた。


「見ないのか?そこに全ての答えが、もしくは答えに繋がる何かが書かれているはずじゃ」


 ちっと舌打ちをしながら勢いよく蜜蝋の封印を解いて、質の良い巻物状の書状を開く。


「・・・僕にこんなことをさせるつもりなのか!!?・・・・ 師匠なら高速馬車ぐらい手配してんだろ!?」


「その通りじゃ、ちょうど表に待機させておる・・・・って礼ぐらい言わんか・・・・まあお前さんはいつまでたっても揉め事解決人ということじゃな」



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