港町エルファベール

 道中の旅は、警戒をイクスに任せ俺とユキノは体力温存という名目でスリープの魔法で眠ってしまうというなんともずるっこ大作戦をしてしまった。


 イクスはまったく気にもしていないが、港町エルファベール到着後は何かとイクスを気遣う俺とユキノ。

「お二人ともどうしたのですか?」

「だって、その寝てたから悪いと思って・・・ごめんねイクス・・・」


 優しくユキノの頭を撫でたイクスは気にしないでと微笑んだ。


 なんだろうこのところイクスの表情が柔らかくなってきている気がする。

 前はもっと無機質な色が強く出ていた気がするけど、柔らかい笑みが見えるようになったのは良いことだよなきっと。


 エルファベールは爽やかな潮の匂いのする港町だ。

 あの詐欺水上都市とは違って『 港 』という字に詐欺性はまったくない!


 チュニジアの白い家と青い扉を想起させるような街並みは異国情緒、いや異界情緒に溢れ匂いも清々しい。

 そうだよファンタジー世界ならこうじゃなくっちゃ!


 とやや興奮気味の俺をユキノが変な目で見ている。

「またエッチなお姉さんがいたとかなんでしょ、まったくこれだから変態は」

「おい変態言うな」


「イクスの胸元とかスカートのスリットをのぞき見してるのばれてないとでも思ってるの?」

「!!な・・・・なんだ・・・と!?」


「マスター、それほど見たいのであれば今御覧になりますか?」

「イクス、変態に見せちゃだめだよ」


「くそう・・・お前ら後で覚えておけよ」


 とユキノが本気で変態扱いをしているかと言えば、本気ではないだろう。

 俺の妄想とかではなく・・・・


 あいつは黒髪の少女、つまり葵衣の情報を前に俺の緊張を解こうと気遣ってくれている。

 葵衣と再会できる日が近づいてきただけで焦り落ち着きがなくなっていた俺を慮ってのことだ。


 御者の二人には色をつけてチップを弾み感謝を伝えると焼き立てパンおいしかったと本気で喜ばれた。


 夕暮れにはまだ日が高かったため俺たちは荷物の受け渡しをしておけると考えバーミリオン商会の支部を訪れていた。

 支部長のロッドは日に焼けた肌と堀の深い顔立ちが似合う気さくな男だった。


 港に隣接した大型倉庫には貿易品を含め様々な商品が積まれている。香辛料や香木の類まであるのだろうか?エスニックな香りが倉庫にほどよく漂っている。

 そう、チャイハネの匂いに良く似ている!


「ふむふむなるほど・・・・すごいなぁレイジさんたちは。旦那様がこれほどまでに信頼なさっているとは・・・俺たちの情報が役立ってよかったよ」

「黒髪の情報、本当に!感謝してますありがとうございました!」


「いいってことよ!それより荷物なんだが・・・・本当に?」

「はい、この倉庫に出してしまっていいですか?」

「い、いいけどよ・・・・いまだに信じられなくてさ、そこに荷馬車20台分の荷物が??」


 何度か出し入れをしていると、こう荷物の出し方入れ方のコツがわかってくる。

 適切な表現か分からないが、イメージした空間に荷物を放り投げる感覚で引き出すとうまい具合にすとんと引き出せる。


 ロッドも次から次へと引き出される荷物に呆然としてしまっている。

 受け渡し書類にサインをもらい、適切に荷物の受け取りが出来たことを証明してもらった。


「はい、たしかにこれで取引は完了です!いやあレイジさん、商会長が気に入るわけですわ、だって正直で数ごまかさないし荷物の扱い丁寧だし・・・」


「恩人ですからね、不義理をするわけにはいきませんよ」

「・・・・ではこちらからも商会長ダイクさんからの指示のあったブツをお渡しせねばなりませんな。少し待っていてください」


 イクスやユキノも頭に??を浮かべていたが、ロッドが木箱を抱えてくるとドヤ顔で開け放つ。


「見てくださいこれ!」

「これって・・・・防具ですか?」

「はい!商会長の指示で西方大陸から取り寄せて欲しいとオーダーのあった品で、ダークグリフォンの革を加工した特注品の革鎧なんです」


 黒地というより紺染めの滑らかだが強い弾性と強度を誇る素晴らしい品質に思える。

 デザインもジャケットタイプの動きやすさを重視したデザインでインナー部分は、ダークグリフォンの幼生体からしか取れない貴重な皮を使ったものだという。


 インナーは黒、レザー部分は紺と濃いめの浅葱色であり上品かつデザイン的にも優れた一品だ。


「これをレイジさんに渡してほしいとの言伝です」

「ダイクさん・・・・本当の祖父のようにあったかい人だな・・・・」

「まったくです! すぐにその気持ちに気付けるあんただからこそこの鎧を着てほしかったんだと思うよ」


 俺は空き部屋を借りてグリフォンレザーに着替えてみた。

 非常に着心地が良く、可動範囲も剣や術の邪魔にならない。


 脛当てや篭手の部分には爪を削り出して作ったガーダーが取り付けられており、強度ともに素晴らしい。

 霊糸の衣に吸収させるか迷ったが、すんなり吸収しこちらの意思で展開後はきちんと強度を保っていたので一安心だ。


 これにモーリスさんからもらったマントタイプの外套を羽織り腰に刀を差す。

 ふぅ・・・・落ち着くなやはり。


 ロッドさんは黒髪の少女の情報をさらに調べておいてくれていた。


 やはり目撃情報は魔導王国ラザルフォードに限定されており、一目を引く美少女だという。

 そして一緒にいたのは獅子人族の青年らしい?。


 この情報に俺の心は・・・・・どうなったか分からない。

 立っていられなかった。


 そう・・・・心的なダメージが大きすぎたためあの発作に再び見舞われることになってしまった。


 崩れ落ち叫び声をあげながら苦しむ俺を、イクスとユキノが必死に落ち着かせようと声をかけてくれる。

 葵衣じゃなきゃきっと耐えられないと思っていたのに・・・・


 ユキノの小さい体がそっと俺を抱きしめ頭を撫でてくれると、不思議と楽になってきた。

 イクスが背中からぎゅっと抱きしめてくれたおかげで、呼吸が落ち着きを始めている。


 それはとても楽ではあったが、葵衣との心の距離が離れてしまったのではないかという恐怖心を呼び起こそうとさえしてしまっていた。


 ひどく罪悪感のある自身の状態と行動に、俺はしばらく起き上がることすらできずにいた。


 葵衣が他の男と???


 いや待て、そしたら俺だって二人の美女と・・・・美少女?  


 だったら逆に葵衣も協力者ということなのかもしれないし!!

 そうだ俺が信じずにどうする!!



 ◇



 意識を失った俺をロッドさんが心配し宿を手配してくれた。心労が重なったのだろうと同情的だったらしい。

 目を覚ましたのは夜遅くのことだ。

 ベッドのふんわりとした感触が、皆の心配の柔らかさのような気がして申し訳ない気持ちで溺れそうだ・・・・


 そして・・・ずっと手を握ってくれたユキノが涙声で抱き着いてきた。

「よかった・・・・もう起きないって思ったじゃない!」

「マスター・・・・ご無事で良かった・・・」


「心配かけちゃったな・・・・」


 イクスには一部、話はしていたがユキノに対しても最初から俺がどういう経緯でここにいるのかということを説明することにした。


 いや、話したかったのかもしれない。


 ユキノはひどく驚き、そして残された寿命がもう5年もないことに動揺を隠しきれないでいる。

「マスター、私が残された発掘ユニットを使い魂移転用のボディを作成するという案はどうでしょう?」


「イクスの気持ちはすごくうれしい。だが命の限界は肉体的な制約も受けるだろうが魂がそれ以上持たないんだ」


「私はなんと無力なのでしょう。マスターを救うことすらできないなど存在価値が見出せません」


「ねえ・・・・方法はないの?何もないの?」


 ユキノはイクスの手を握りながら横目で問いかけた。


「俺と同じ境遇にいる葵衣と再会し、紅い八枚羽の魔人から転魂の糸を取り戻さなければならない。そして・・・・」

 元の世界に帰る、とは言えなかった。


「じゃあレイジが生き延びるための道を私たちは歩んでることになるんだよね。だったら落ち込むことないよイクス、私はレイジに生きてて欲しいから死なせない!」


「ユキノ・・・・」


 こうストレートな気持ちはすごく胸に染みる・・・・


「レイジみたいな陰険で陰湿で粘着質な奴はさ!無事に王宮に戻ったら家庭教師と護衛役で来てもらうの!! 授業でここが違うとかああじゃないとか口うるさく教えて・・・おし・・・・いやだあああああ!!!」


 俺の胸で泣き叫んでいるこの子の気持ちがうれしい。

 同時に悲しませてしまったことへの罪悪感が凄まじかった。


「マスター、私も諦めるつもりはありません。以前私は発掘ユニットを買いあさり大変迷惑をかけましたが、もう迷うことはありません容赦なく集めます。お金など稼げばいいのです」


 不謹慎かと思ったが俺は二人を抱きしめ、何度も頭を撫でる。

 イクスのポニーを手で遊びつつ、今生を諦めることなく精一杯生きよう・・・・今まではどこかもうすぐ終わりだからと投げやりになっていた面がなかったか?


 俺も反省しなくちゃ・・・・生きるってことをもっと真面目に考えたい。葵衣と生きるために。




 翌日は発作の影響もなく大陸を渡るための船の手配を急ぐことにする。

 ロッドさんは心配してくれたが、古い病の発作が出てしまったとごまかしておいた。


 さて船探しだが、西方大陸の港町であるノルダートまでの直行便はなく、大陸の間にある ファンドミア島 へ向かう船ばかりだ。

 これには理由があったらしく領海問題で特別許可のない船はメルノス島の海域までしか進めないという双方のルールによるものだった。


 いわばファンドミア島が両者の国境であり領有権を双方が主張しているが、現在は中立地としてリシュメア王国のエルナバーグ公が治めている。


 これは逆に魔導王国側とヴァルジェリス帝国側にとって喉元に突き刺さった棘ではあるが、その棘によって互いの睨みが利かせやすいといった特殊な地政学的バランスの上に立っている。


 そのため往来する船舶は所属する国境を超えることを禁じられ、旅人はファンドミア島で別便を探す必要があった。


 政治体制にあれこれ文句つけても仕方がない。


 潮の香と爽やかな風に包まれながら港で船を探しているが・・・・・渡航制限がかかっており許可が出ている船の席はほぼ埋まっているのだという。

「くそ、ここまできてこれか」


 同じように船に乗れなくなった商人や旅行者たちが港では多く立ち往生を強いられており、ちょっとした殴り合いまで起きている始末だ。

 ただ魔導技術を組み込んだ多種多様な魔導帆船の美しさには思わず唸り声を上げたし、独特の流線形と船底のフォルムが冒険心を刺激していることは間違いない。


「困ったな」

「すぐ船が見つかるって私も思ってた・・・・」


「ロッドさんに一度相談してみよう」

 だが人の良いロッドも今回ばかりはつてを当たっても厳しいと頭を下げてきた。

「リシュメア王国の軍人が来ていたり帝国の貴族もいるから、何かしらの交渉のために船を制限している可能性があるなぁ、こうなるともう一般人じゃどうにもならないさ」


 高速馬車を使ってまで来たのに、ここで立ち往生となっていることへの苛立ちはすさまじいものだった。

 ユキノやイクスに当たらないよう、必死で気持ちを抑え込んでいるが二人に心配をかけすぎてしまって本当にすまないと思う。


「マスターレイジへ提言。この状況の改善には時間を要すると思われるため、高い船代でも払えるように資金獲得のための行動に切り替えてはいかがでしょう?」


「たしかに・・・・金があればどうにかなる場合もあるな、えっとイクス、ユキノ、協力してもらってもいいか?」

「馬鹿じゃないの、レイジは私を守るためにお金稼ぎに付き合いなさいよね!」

「私はマスターにつき従うだけであります」


 最近ツンデレ成分が強くなってきたユキノをからかいつつ、俺たちはエルファベールの冒険者ギルドに顔を出してみることにした。

 なんというか、浜辺のヨットハウスのような小じゃれたギルドはアットホームな雰囲気で潮の爽やかな匂いに包まれている。

「くさくない!よかったねレイジ!」


 イクスがクエストボードを確認すると、気になる依頼をさっそく見つけたようだ。


 < 港周辺で発見されて日が浅いダンジョンがあるようです。調査レポートの内容次第で報酬が上がるそうですが、何より攻略する冒険者が少ないようで宝物もまだかなり残っている可能性があります >

「それだな」「うん、それね」


 ロズフィール ダンジョン。港町から約半日の距離にある海岸沿いの迷宮だ。


 現地語で 【 海の近くの魔境 】 という意味らしい。


 さっそく資料室でイクスが情報を集めている間に俺とユキノは保存食や医薬品その他もろもろを買い込んでいた。

 どうやら海系の魔物が多く現れるらしい。


 ユキノの協力を得て、改めてレベルシステムの検証が行われたが俺とイクスが恩恵を受けられないことは調査が必要だった。

 でも便宜上のレベルは上昇しており、俺が23、イクスが19、ユキノはなんだかんだで40になっている。


 そりゃあれだけ広域殲滅魔法でばかすか倒しているからなぁ・・・・・

 いくつか新しい呪文も覚えたらしいユキノは、複合魔法の資質まで開花しつつあるらしくレベルの恩恵をこれでもかと享受している。


 それに伴う打ち合わせでは、ダンジョン攻略に関する打ち合わせも進んでいた。


「海系だと雷系が効果的というのは定番だが」

「へぇ!!そうだったんだ!! うんうん、じゃあ私の雷魔法がさく裂だね!」

「俺たちを感電させないでくれよ」


「わ、分かってるよ。最近はコントロールも結構できるようになってきたからね」


「マスター、ユキノ、出現する魔物の情報がほとんど報告されていません。そのための調査レポート報酬なのだと推測します」


「だとしたら念には念を入れないとな・・・・ロープやランタン、登山用品や暖房器具その他も買いそろえておこう。出費はこの際仕方がない命あっての物種だからな」

「こういうところは思い切りがいいのに、なんでレストランで注文するときに悩みまくって一番遅いの?」

「優柔不断なんだよ、レストランのメニュー選びほど人生を迷わせるものはないな・・・・」


「ユキノはお菓子ばかりではなく、バランスの良い食事、主に野菜も食べるべきですよ」

「げげ~イクスがお母さんみたくなってきたぁ!」


 だが逆にうれしそうにイクスへ抱き着いている。まだまだ母親に甘えたい年頃だろうに、苦労をかけさせてるな・・・・


 ロッドさんに少しダンジョンで金稼ぎをしてくると伝えると、ふさぎ込んでるよりはよほどいいと背中を押してくれる。


 翌日は曇り空だったが、どうせダンジョンに入れば関係ない。港から海岸沿いを歩き浜辺で多少きゃっきゃと騒ぎつつの旅路だ。

 ユキノがはしゃぎながらやっと魔法ぶっぱなせる!と気合を入れており、イクスも新しいバレットの試射をしたかったと意気込みを隠せない。


 かくゆう俺も・・・・ため込んだイライラを吐き出すはけ口を求めていたのかもしれない。


 ここはデュランシルトと違って入り口に職員が待機するなんてことはなく、岩壁に突然出現した入り口があるだけだ。


 黒光りし不思議な文様のある柱や外壁、一部は吹き付ける潮風によって塩分が付着しているもののそれほど荒れてはいない。

 数カ月前の嵐で起きた高波で岩盤が抉られ入り口が出現したようだ。


 となれば封印状態が長く続いていたため、内部はかなり危険かもしれないな。

 ヒールポーションもほどほどに用意したが、状況次第では引き返す決断も覚悟する。


 しばらくは傾斜の緩やかな階段を下りていくが、やや壁面がしっとり濡れているように思える。

 そこまで湿度や気温は高くなく不快な感じもしない。


 デュランシルト付近のダンジョンで見られた発光外壁はここでも健在で、一部の壁面が割れ木の根が突き破っていたりするものの比較的視界は良好だ。


「レイジ、ここってあまり天井が高くないけど刀ふりまわして大丈夫?」

「良いことに気付いたなユキノ。だからここじゃ刀じゃなくてこの小剣で戦う予定だ」


「近接職は大変だなぁ。でもその小剣って刀よりは出来良くないんでしょ?」


「そう言うなよ。これでもイクスが特殊コーティングやミスリルで強化してくれたからそこらの店売り剣よりよほど切れるぞ」

「へぇ・・・イクスって本当にすごいよね」


「ユキノ、それは違います。マスターがすごいのです」

「はいはい」


 地下一階の雰囲気は入り口の延長といったところだ。あまり変化がなく、うねうねとした道を分岐もなく進むことになる。

 イクスによるオートマッピングが便利すぎてつい自分でルートを確認しようとしない癖ができつつあることを反省する。


「前方に動体反応」


「ユキノは状況が分かるまで呪文は控えろよ」

「あい!」


「蟲型・・・いえ海生生物型・・・・詳細不明」


 イクスでも分からないモンスターだと?

 前方の曲がり角から姿を現したのはなんと・・・・全高が1m50ほどもある大型のサソリ・・・・ん?どこか違う?


「海サソリだと!?」


 しかも5体が明確な敵意をむき出しにして俺たちへ襲い掛かって来た。跳躍し天井を這いまわり鋭い鋏をカチカチ鳴らしながら、鋭利な尻尾を振り回してくる。


 思わず飛び下がり小剣で尻尾を切り落とすが怯むことなく鋏で斬りつけてくる獰猛さを併せ持っている。原始生物らしく痛覚も鈍いのだろうか・・・・


 イクスがハンドブラスターで頭部らしい場所を打ち抜くがそれでも生命活動は停止せず、腹部へ撃ち込んだところでようやく一匹を仕留めることができた。


「二人とも壁際に!  ブリッツシュート!!」


 ユキノの掌から発せられた青光りのする電撃が密集していた海サソリに直撃する。

 全身を震わせながらのたうち回った奴等は、焦げ臭い煙を上げながら絶命していた。


「やっぱり雷が効くみたいね」

「・・・・・」


「マスターどうかされましたか?この魔物をご存知だったのですね、さすがです」

「こいつがイクスのデータベースになかった理由だが・・・・恐らくこれは俺の世界で絶滅した生き物が魔物化した可能性がある」


「????どういうこと?」


「わからん・・・・だがこいつは海サソリという俺がいた世界の生き物だった。数億年前に絶滅したな」

「数億・・・・ねん?」


「ああ、俺たちの世界じゃイクスほどじゃないが、科学技術が発達していて年代測定とかできるようになっているんだ」

「すげえ! 行ってみたい!」

「ユキノの好奇心の強さは尊敬に値するな」


「えへへへ褒められちゃった」


「マスター、このダンジョンは現状のデータを基準に行動するのは危険であると判断します」

「ユキノ、いつも以上に注意しろってことだな」


「もちろんよ」


 しばらく歩くと巨大ヒトデが壁に張り付いていたり、部屋の中がイソギンチャクだらけだったりと海系ダンジョンの色合いが強くなってくる。


 イクスは細かくデータ収集をしながら索敵をこなしてくれているが宝物関連はほぼ見つからずがっかりしていた時だった。


 水の流れる音が聞こえ、下り階段の先が大きく広がる砂浜になっており天井からは日中のような光が差し込んでいる。


 そこは南国のようなビーチであり白い砂浜と広がる海のような水辺がダンジョン内にあるという事実にしばらくの間、俺やユキノは動くことができなかった。

「幻影系の魔力反応があるようです。海は途中までが地底湖でほとんどが幻影魔術による補完であると推測」


 踏みしめる砂浜の感触と潮の香・・・全てが現実としか思えない。

 だがこういう場所には大体それなりのもてなしがあるというのがセオリーなわけで・・・・


「おいでなすったみたいだぜ?」

「うげ~きもい!」


 突如海中から飛び出したのはいわゆる半魚人。

 <サハギンです。手に持った三又槍で攻撃をしてきますが背びれが鋭いため注意を>


 数は12匹。


 青緑色の鱗とぬらぬらとした粘液が不快感を刺激する。思った以上に不気味で狂暴そうな顔立ち、威嚇するようなギャッギャッギャ!という叫びをあげている。

 死んだ魚のような目と評されるサメに似た無機質で無感情な目が、俺たちを獲物として認識しているのがよく分かる。


「ユキノ、俺とイクスが左右に飛び下がるから雷撃呪文かましてくれ」

「おっけー!  インペリアルマジック! エレクトロスマッシュ!!」


 振り上げた右手の動きに合わせて出現した雷球がギョッ!と見上げた上空から砂浜に打ちつけられほぼ全てのサハギンが感電し肉の焦げる臭いをまき散らしている。


 ウギョギョギョギョ!!!


 焼き魚になった半魚人たちを後にすると、イクスが奇妙な反応があると言い出した。

 大鎌でサハギンの背中を切り裂くと腕を突っ込んで奇妙な塊を取り出す。

「だめだよイクス、臭い残っちゃうよ!ばっちいよってそれ魔石じゃない!」


「魔石とは稀に魔物の体内で生成された不思議な効力を持つ物質のことですね?」

「うん、魔道具の材料とかいろんな使い道があって高値で売れるみたいよ」


「よし、これからは魔石も積極的に集めていくぞ。金だ金!俺たちには金が足りんのだ!!」

「おおー!」

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