ラングワース防衛戦②
<マスター、城門付近での戦闘に変化が見られました。一部の門扉が破損し敵が侵入してしまったようです>
「偵察だなんだと言ってられなくなったな。俺たちで門前の敵を可能な限り排除するぞ、イクスは門や城門及び味方人員に被害が出ない範囲で射撃を全面的に許可する」
<イエス、マイマスター>
「短時間だが簡易結界を貼っておく、くれぐれも無理はするなよ」
「はい!」
「オン キリキリバザラバジリホラ マンダマンダ ウンハッタ!」
俺とイクスを優しい光が包んでいく。
短時間ではあるが、強固な結界であるため使い勝手も良い。邪悪なモノは触れることがかなわないだろう。
「カウントいくぞ、3・・・2・・・1・・・GO!」
俺とイクスが全速で駆けだした。
隠形印を解き、アンデッド共の注意をできる限り引きつけ門前を守る。偵察からは大分毛色が変わることになるが、判断が遅れれば被害も増えてしまう。
<位相フィールド解除、ハンドブラスターによる射撃を開始します>
ざっと俺以上のスピードで門前に群がるゾンビたちの前で跳躍すると、二丁拳銃のハンドブラスターからオーラバレットがこれでもかと射撃される。
射出音は現代拳銃とは異なり小さいが、着弾したオーラバレットはゾンビの頭部や胸部を一撃で吹き飛ばし撃った分だけゾンビが爆散していく。
イクスならば俺を誤射することがないと信用し、門前街道広場を斜めに切り裂くように念を込める。
「火天アグニよ、勇敢な人々を守り給え!! ナウマク サンマンダ ボダナン アギャナウエイ ソワカ!」
火炎が螺旋状にうねり広場前に密集しているゾンビやスケルトンたちを巻き込みながら、荒々しい炎の浄化によって焼き尽くされていく。
城壁をかすることなく、理想的な範囲で焼き尽くされたアンデッドたちはさすがに炭化してしまっては活動を停止せざるを得ない。
加勢が来たと門前の混乱が回復しかけていく。
イクスは射撃によってスペースを作ると、ハンドブラスターを収納しながら着地し空中で展開していた強化型の大鎌をスタイリッシュに手に取り容赦なくゾンビやスケルトンを輪切りにしまくっていた。
強引に門前へと肉薄したイクスは門扉に背を向け、身を挺して門を守るため大鎌で奮戦を始めていた。
「すげえ・・・」と思わず唸ってしまうが、ここは不浄の存在を浄化する場であるから、魂を取り戻す協力をしてくれる神仏へ素直に力を借りようと思う。
発勁による気功破を撃ち、イクスの援護をしつつ両脇から群がる奴らを倒すべく新たな術を仕掛けることにした。
「日天スーリア!尊き太陽の力を持って邪を滅したまえ! ナウマク サンマンダボダナン アニチャヤ ソワカ!! 破邪太陽刃!!」
抜き放った刀に太陽の光が宿り、俺に力を貸してくれている!
音もなく空を切った日輪の刃が火天術によって抉られた隙間に対しクロスするようにX字を描きながら不浄のアンデッドたちを真っ二つに両断し、空中で塵と化していく。
城門内部や城壁の上では雄たけびと歓声が起きているようであり、内部へ侵入した敵も打ち取られたのかもしれない。
イクスの近くへ滑り込んだ俺は、得意ではなかったが今ここでこそ唱えるべき真言を想起した。
多くの人たちを不浄なるモノたちから守るため、どうか力を貸してください!
「イクス! 門前に結界を貼る、全力で死守しろ!」「イエス!マイ!マスター!!!」
歓喜の叫びにも聞こえたイクスの返答が魂の傷口を暖かく包む。
「ノウマク サラバタタ ギャテイビャク サラバボッケイ ・・・・・ 」
イクスが片手で大鎌を振るいながら左手で器用に俺へ迫るゾンビたちを射撃で撃ち落としていく。
弾切れになるのと同時に大鎌が迫るゴーストを両断していた。恐らくオーラコーティングにより対応可能になっているのだろう。
次から次へと押し寄せる不死の魔物たち・・・・イクスのようなアンドロイドでなければ恐怖で押しつぶされていたかもしれない。
だがお前が稼いでくれた時間のおかげで、完成したぞ!!
「サラバビキンナン タラタ カンマン!! 不動明王火界呪!!」
俺のイメージしたよりも小さかったが、門前とその街道広場周辺をぐるりと走った火炎が強固な結界を作り出す。
しかも内部にいた俺たちへ襲い掛かっていたゾンビやスケルトン、グール、レイスなども一瞬で浄化され塵になっていく。
足元には噛みつこうとしていたオークゾンビが倒れるのと同時に灰になり転がった。
<誇らしいです、マイマスター!>
俺とイクスは破損した門扉の外側から叫ぶ。
「こっちに補修材をくれ!!外から打ち付けておく!」
助けてくれただけでなく補修まで手伝うと言い出した俺たちに、疲弊しながらも傷だらけになりながらも戦っていた兵士たちはすぐに鉄板や木材を隙間から通してくれる。
大人数で持ち上げるような鉄板もイクスは片手で門扉へ押し付け、オーラバルカンの出力を最小にして釘穴をあけていくと補修用の楔を手でねじ込んでいく。
すげえ・・・と感心してる場合ではない。俺も結界が効いている間に脆くなった箇所を探し、内側から補強部分を指示していった。
アンデッドたちはこれでもかと火界呪の結界へ押し寄せたがところてん式に灰や塵になって消滅していく。これだけでも大分数を減らせたんじゃないのか?
だが俺には分かる、得意ではなく練習不足の火界呪の限界は近い。葵衣だったら半日だろうが余裕なのだろうが、俺にはあと数分がいいところ。
「もう少しで火の結界が消滅する!補修急げ!」
城門の上からロープで大きな板を降ろしてくれたので、扉が稼働するように注意しながら必死に打ち付けていく。
「イクス、後30秒も持たない。離脱用のロープを」
「了解です、マスター!」
イクスも精神が高揚している?と錯覚するほどに俺の精神も興奮状態だったのかもしれない。
彼女が投げたロープを離脱用だと理解してくれた兵士が受け止め俺たちを引き上げ始めてくれた。次々と集まり引き上げる速度が加速していく。
間一髪!ではないが、結界が解けるギリギリのところで俺とイクスは城壁へ足を付けることができた。
◇◇
ユキノは人間というものを見誤っていたと後悔し始めていた。
一部の人たちは大好きであり、自分を守ってくれているローズウィップの女性たちは皆綺麗で優しくお姉さんが出来たみたいでうれしかった。
だが王国軍の指揮官クレイトンは本気で焼き殺してやろうかと思うほどの屑っぷりを発揮していた。
「あいつら!余計なことをして刺激しやがって!救援部隊が来てることがばれたじゃねえかよくそ!!」
椅子を蹴飛ばし部下を殴りつけている醜い心根に吐き気さえしてくる。
副官の二人が落ち着かせようとしているが無駄だろう。癇癪持ちのバカ貴族の典型だ。
魔族にもこういう輩はいる・・・・けど実力が伴わないから訓練で半殺しに合うか本当に死ぬかのどちらかになる。
なにかぶつぶつ言い続けているクレイトンが気持ち悪すぎて距離をとってレイジとイクスの無事を祈る。あの様子なら大丈夫だと思うけど無理してなければいいな・・・・
胸が押しつぶされそうなほどにあの二人が自分にとって大きな存在になっている。
アンドロイドという発掘人形なのに、イクスはレイジの命令を嬉しそうに受けたり、しょんぼりしていたり・・・・
大金を使ってしまったときは、しばらく起き上がれないほど落ちこんでいたから実は中身が人間じゃないかと思うほど親愛の情が高まっていた。
「イクス?イクス?大丈夫なの?無事??」
<ユキノ、マスターはお疲れのようです怪我はありません>
「レイジもだけどあなたもよ!イクスは?怪我してない??」
<・・・・私は問題ありません。ただいまラングワース駐屯軍と情報を交換中であります、詳細分かり次第連絡を>
ほっとした。
できれば早く伝えたいこともある。オルナの流れがやはり異常すぎる。例えるなら部屋で炊いたお香の煙を操って散らすことなく、隣の家の寝室へ流し込むような奇妙さだった。
何者かが、強大な力を持つ何かが背後にいることだけは事実だ。
あの不死の魔物たちを殲滅する以前に、元凶を断たなければいけないはず、少なくともユキノは今ここで徹底うんぬん以前にできることがあるだろうという苛立ちにさいなまれていた。
◇◇
ラングワース内の状況は想像していた以上に深刻だった。
何度もアンデッドたちの侵入を許しては駆逐し押し戻す。だが人的被害が拡大し、既に防衛戦が始まってから1500人以上の死者を出してしまっている。
門扉も補強ができたとはいえ不完全な状態であり、城壁も思った以上に厚みがなくあの大群が雪崩を打って攻め込めば崩壊する気配さえ漂っていた。
それでも駐留軍の兵士たちは諦めていなかった。
指揮官のアイオンは40代前半で脂の乗り切った鋭気に溢れる逸材で、短く刈り込んだ髪とタレ目がちで憎めない顔立ちのせいでご婦人や女性たちからの信頼も厚い。
しかも自ら前線で剣を振るって戦うことから兵士たちや義勇兵から絶大な信頼を得ていた。
「レイジとイクスだったな、二人ともまじでつえーな! 本当に助かった感謝する!」
腰を90度曲げ俺たちのような若造に頭を下げられるこの人を、素直にかっこいいと思った。
「頭を上げてください、俺たちはギルドの依頼で来てるし早く情報交換に移りたい」
「良いこと言うじゃねえか!!気に入ったぜ」
正門の目の前にある指揮所へ通されると、両脇の民家や酒場などは野戦病院となっており、腕や足を食い千切られたり奴らの持つ鈍器で大けがをした者たちで溢れかえっていた。
幸いなことに、いわゆる Tっぽいウイルスタイプのゾンビじゃないため感染はしないらしい、ちょっと安心。
「ってその嬢ちゃんは井戸に連れて行ってやれ、プリヤお前がその子の案内役だしっかりガードしてやれよ!」
アイオンがこのようなことを言ったのには理由がある。最前線でゾンビ共を大鎌で倒し続けたので返り血で大変なことになっていたのだ。
「イクス、お言葉に甘えておけ」
「イエス、マイマスター」
顔半分を返り血で染めていてはさすがに美人が台無しだ。
ちなみにだが、俺が送ったリボンは特殊なバリアフィールドでコーティングしてあるらしく汚れが付かない処理をしているそうだ・・・・
「ご配慮ありがとうございます」
ラングワース周辺の大まかな地図が乗せられたテーブル席に座ると、アイオンが飲み物を差し出してきた。
「レイジ、とりあえずお前が来た目的を話してくれるか」
「はい」
・
・
・
「荷馬車20台に冒険者の先行支援隊が100人だと!?喉から手が出るほど欲しいが・・・・・逆に問題でもあるな」
「ええ、俺たちが偵察へ出る直前にはもう撤退論が幅を利かせていましたし、あの指揮官は腰抜け・・・・えっと慎重派なようで」
「腰抜けでいい!数が少なければ少ないなりの戦い方や防衛側の支援方法は山ほどある! お前らみたいに命がけで来てくれた奴らがいてどれだけ俺たちがうしれかったか」
「一つ気になっているのは物資の状況です・・・・食料はどうでしょう?」
アイオンの表情が渋い。
「水は井戸があるから問題ないとしても、もう食料の備蓄がほとんどない。各家庭や商会の倉庫も強制的に接収し全員に行き渡る様に分配しているが残り二日ってところだろうな」
籠城戦において住民同士の混乱もなく仕切ってみせたアイオンという指揮官の才能はまさに運命なのではないかと思えるほどだ。
これは秘密を打ち明けなければいけない状況だろうし、ここで魔法の袋を隠して何の意味がある?
俺は立ち上がるとアイオンの目の前で魔法の袋から、俺たち用の保存食20日分を取り出してみせた。
「・・・・・お、おい・・・それってまさか・・・!?ま、魔法の!?」
「大きな声は出さないでくれ、トラブルに巻き込まれたくないから隠してきたけど、ここではそうも言っていられない。少ないけど配給に回してください」
「恩に着る! それでお前はどうする?」
「一度戻って荷馬車の荷を魔法の袋に詰めてきます」
するとアイオンはすぐに指揮官クレイトン宛に支援要請の手紙を書くので待って欲しいと懇願してきた。
俺はイクスにここで待機してもらおうと考えていたので、井戸水ですっかり綺麗になったイクスと見惚れる連絡役の女性兵士プリヤの元へ走る。
「俺は一度戻り魔法の袋に物資を入れてくる、お前はここで防衛戦に協力してくれ」
「イエスマスター。防衛戦に参加いたします」
「じゃあ霊力をチャージするぞ」
ぎゅっと手を握り合う俺たちをプリヤが顔を真っ赤にしてあわわわーと恥ずかしがっている。
まあそう見えなくもないだろう。
オーラバレットの生成も行うが約5分程度で完了した。
すると俺を探していたアイオンが崩れた民家の陰から声をあげて手を振っている。
「無理はするなよ、いいな?」
「それはマスターにこそ必要な言葉です。降りる際は牽制射撃で援護します」
アイオンから手紙を受け取り、魔法の袋にしまうとそれを目撃していた兵士が駆け寄り不安そうに呻いた。
「あのレイジさんは出て行ってしまわれるんですか!?」
「イクスを防衛戦力として残していく。俺は援軍と支援物資の運び入れの打ち合わせで一時的に戻るだけだ。必ず戻ってくるから安心してくれ」
「そ、そうだったんですね!!! 僕たちは見捨てられてないんだ!!」
「当たり前だ!この状況で飛び込んでくるような命知らずが嘘つくわけねえだろ!必ず持ちこたえてやる! 気合入れろてめえら!!」
「「「おおおお!!!」」」
良い指揮官だ。
こちら側にクレイトンがいたらもうここは死体しか転がっていない街だっただろう。
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