ディストーション

高坂 悠壱

-0th. Achromatic Denouement

World's Re:End Garden

「これで、よかったの?」


 糾弾するでもなく、怒るでもなく。唯々静かな声で以て、彼女は疑問を投げかけてくる。


 彼女が言葉裏に潜ませた意図。それを酌み取った上で、首肯した。

 あらゆる因果を断ち切り、桎梏しっこくたる運命への叛逆を決めた瞬間から、予測と覚悟はしていた。これは、その上で望み選んだ結末なのだから。


 全ては、かつて救うことが出来なかった、眼前の“仕組まれた生命”を救うため。自らの存在獲得以前から有していた、罪の意識をあがなうため。

 所々倒潰した景色も、遙か下方に見える死体も、己の足下を侵食し始めた血溜まりも、何もかもは物語のための舞台装置でしかなかった。


「本当に?」


 それでも彼女は納得できぬらしい。

 微笑みながら相槌を打てども、凪いだ湖面然とした彼女の双眸、その最奥に見ゆる悲哀の色は濃さを増すばかりである。


 尚も彼女は、問うのを止めない。


「キミは――じゃないのに?」


「それでも、構わない」


 安心させるように告げて、小さな頭を撫でてやる。

 かつ触れる彼女の髪は、柔らかく、残酷なほどに艶やかで。


 ニューロンが見せるまやかしの、然れど言いしれぬ確かな懐かしさに、何故か涙が零れそうになった。

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