第12話 蟻vs俺!

「片付いたな。レル解体頼む」


オーガの群れを殲滅し、一仕事終えたのでレルとバトンタッチする。


「少しー戦いがー、雑でしたよー」


レルが此方をとがめる様に言ってくる。

確かに雑だったのは認める。


オーガの攻撃では傷一つ付かないのを良い事に、群がってきた奴らの攻撃をガン無視して、範囲化した即死魔法を適当にかけまくって戦闘を終わらせた。

どうやらレルはそれが気に入らないらしい。


「別にいいだろ、問題なく倒したんだから」

「わたしー、エニル様にー言われてるんですー。へたれさんがー、能力にものをいわせたー戦いをーしないようにー見張れってー」

「ええ!?」


そういやエニルに言われてたっけ。

俺は身体能力は高くても、技術的な物は鼻糞みたいな物だから、ちゃんと鍛える必要がある。だから例え相手が格下でも、頭を使って丁寧に戦えと。


本当に強い相手には即死魔法は早々かからない。

そういった相手は弱らせることで掛かりやすくするのが基本だ。

極端な話、相手が格上でも瀕死状態まで追い込めば即死魔法は普通にかかる。


「たかしさんはー、血に弱いーへたれだからー。そのぶん戦いをー、上手くこなせるようにーならないとー、駄目なんですー」


俺は相手を追い詰める際出血させることが出来ない。

かすり傷程度の血なら大丈夫だが、強敵相手に誤って出血させてしまった場合、その時点で負けが確定する。

そうならない為にも、少しでも戦闘の技術や戦術を高める必要があった。


「千里のー道もー、一歩ですー」


千里の道を一歩で行けたら誰も苦労しねーよ!

しかしまあタヌキに諭されることになろうとは。


「次はーちゃんとー、戦ってくださいねー」

「ああ、わかったよ。けどもう今日は帰ろう。日も暮れて来たし」

「駄目ですよー。最後のボスがー今来ますからー」


何の事だ?

最後のボスが来る?

何か近づいて来てるってのか?


何のことか分からず、気配察知に意識を集中する。

こうする事でより広範囲をカバーする事が出来る。


ゲッ!なんかでっかいのがこっちに近づいて来てる。

あんなデカいのがこの辺りに居るなんて、聞いてないぞ!


「ちょっとー遠くにいたんでー。魔法とーフェロモンでー、引き寄せておきましたー」

「余計な事すんな!」

「これもー訓練のー、一環ですー」


どすどすと、遠くから足音が響いてくる。

どんどん近づいてくる音の方に視線をやると、そこには巨大なドラゴンが。

というか恐竜が近づいてくるのが目に入ってくる。


何処からどう見ても立派なティラノサウルスだ。

体高は10メートル位だろうか。

かなりデカい。


「あれはー、ティラノアントさんですねー。おっきなー蟻さんですー」

「いや絶対蟻じゃねーだろ!」

「蟻ですよー。その証拠にー、働きアリさんから徴収しておいたー、誘導フェロモンでー、ここまでー誘導出来ましたからー」


え?あの蟻潰しそんな意図があったの!?

只の猟奇的行動だと思ってたよ!

ていうかあんなの引き寄せるだけの量のフェロモン集めるって、お前どんだけ働き蟻殺してんだよ!


「きましたよー」

「ぐおおおおおおおおおお!」


レルの言葉に反応するかのように、すぐ間近にまで迫ったティラノアントが雄叫びを上げる。


「おいしそうだってーいってますよー」

「ああ、そうかい!通訳どうもありがとう!」


そう言って俺は横に飛び退く。

ティラノアントが背を向け、その太く長い尾を振り上げ叩きつけて来たからだ。


「じゃあー、頑張ってくださいねー」


叩きつけをまともに喰らい、体が半分地面にめり込んだ状態のレルが、笑顔で此方へと手を振る。

ぱっと見、ちょっとしたホラーだ。

というかちゃんと攻撃躱せよ。


レルを仕留めたと判断したのか、ティラノアントは俺を睨め付け再び雄たけびを上げる。


「一々声がでかくて五月蠅いっての!」


叫ぶと同時に放った即死魔法が決まり、ティラノアントの息の根が止まる。

手ごたえあり!


図体はデカくても所詮アリ。

俺の敵では無かった。

崩れ逝くティラノアントを眺め……あれ?崩れない?


次の瞬間、ティラノアントの尻尾に勢いよく吹き飛ばされ。

遥か後方で岩にぶつかって止まる。

だがダメージは殆どない。

ティラノアントは見た目ほどパワーは無い様だ。


起き上がって、石と埃まみれの体を叩きつつぼやく。


「なんでだー。即死魔法はちゃんと決まってたはず」

「うふふふふー。ゆだんー大敵ですー」


瞬間移動してきたレルが腰に両手を当てて、俺の周りで楽し気にステップを踏みだす。それを見て少しイラっとしたが、何か知っている様なので我慢して質問する。


「何であいつ死ななかった?」

「それはー。自分でー考えましょー」


答える気はない様だ。

ムカついたので回し蹴りで顔を狙うが、片手で掴んで止められる。


「せっかくーヒントを上げようとー思ったのにー」


レルがブウっと頬を膨らませ。

不機嫌そうに俺のズボンの隙間に手を突っ込み、すね毛を引き抜く。


「いててて。悪かったって、今晩上手い飯食わせてやるからヒントくれ」

「ほんとですかー、約束ですよー」


そう言うとレルは俺の足を掴んだままジャンプし。

ティラノアントの尻尾の振り回しを綺麗に回避する。

だらだら喋ってる間に、距離を詰められていたようだ。


「ヒントはー、これですー」


そう言いながら、空中でレルは俺をティラノアントへとぶん投げ。

勢いよく放り投げられた俺は、奴の顔面にぶつかり弾き飛ばされる。


そしておれは見た。

ティラノアントの顔が、一瞬崩れた事を。

成程、素晴らしいヒントだ。

もはや答えと言っていい。


俺は着地と同時にティラノアントに迫り、即死魔法を放つ。

今度は、奴の核となっている女王蟻に向けて。




「えい!えい!えい!」

「お前よくこんな気持ち悪いの踏みつぶせるな。ていうか体液がとんで滅茶苦茶服汚れてるぞ」

「その為にー、汚れてもいい服をー着て来たんですー」


そう言いならながらぴょんぴょん飛び跳ねて、足元の大量に居るゴキブリっぽい蟻を楽しそうに踏みつぶす。

その度に潰された蟻から体液が飛び散り、レルの服へと跳ねる。

今日分かった事だが、魔物の体液ですら貧血を起こす俺でも、流石に虫サイズなら大丈夫なようだ。


ティラノアント

人間サイズの女王蟻を核として、その周りをゴキブリサイズの蟻が覆い尽くし、大型の生物へと擬態する魔物。


最初の一発目で倒せなかったのは、構成する中の一匹を倒したにすぎなかったからだ。

ティラノアントは女王以外は知能を持たず、女王が死んだ時点で擬態は崩れほぼ無力化される様で。気配から女王蟻を探り当て、ピンポイントで始末した事で勝敗は決した。


残った蟻は放って置けば勝手に餓死するようなのだが、それは可哀想だという事で、こうしてレルがぴょんぴょん飛び跳ねて始末している訳だ。

魔法で纏めて始末すればと言ってみたが、それは命に対する侮辱行為であるため駄目らしい。


キャッキャッ楽しそうに踏み潰す方が、よっぽど侮辱な気もするのだが。

結局この作業は、冬の寒い中深夜近くまで続いた。


~result~最終結果

蟻vs俺!

アリ相手に、レルからヒントを貰って即死魔法で俺の勝ち!


たかしwin!

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