第8話 虫けら

「清算をお願いします」


俺は魔石の入った布袋ををカウンターに置く。

受付嬢は、ちらりと汚いものを見るような目つきで此方を一瞥し。

その袋から中身を取り出しチェックする。


「確かにお預かりしました」


エニルの元で即死魔法と、ついでに蘇生魔法を習得した俺は10日ぶりにギルドへと足を運ぶ。

当然クエストの清算の為だ。

クエスト完了の証の魔石は帰る時に集めて置いた。


「此方が報酬となります」

「ありがとう」


報酬を受け取り振り返ると、当然のように奴がいた。


「おやおや勇者様。トレント討伐に10日とは、随分とお時間が掛かったようですねぇ。ひょっとしてトレントの中に魔王でも混ざってたんですかい」

「少し用事があってそっちを優先してただけだよ。ダレン」

「ほほう流石勇者様は多忙でいらっしゃる」


支部に入った時点では彼の姿は見当たらなかったのだが、いったい何処から現れたのやら。


「しってますかい?今この街にSS級冒険者チームが来てるんですよ。勇者様もSSクラスですし、折角だからパーティーに入られたらどうです?」


SS級冒険者チームか。

個人のランクとは違い、パーティーの等級は能力ではなくギルドや国への貢献、その影響力で決まる。

SS級チームともなれば英雄レベルと言っていい。


「考えとくよ」


当然血に弱い俺がそのパーティーに所属出来る分けも無いが。

一々ダレンの嫌味みに付き合うつもりはない。

適当な返事でさっさと話しを切り上げ、その場を去ろうとしたその時。

突如ギルド内にざわめきが起こる。


何事かと入口の方に視線をやると、すぐにその原因に気づかされる。


そこには絶世の美女が二人。


遠目からでもその美しさがはっきり見て取れる。

彫刻を思わせる美しい顔立ち。

その切れ長の瞳は黒く美しい。

真っ赤なローブに身を包み、その長い漆黒の黒髪は腰の辺りで結ばれていた。


大輪の薔薇。

それが彼女への印象だ。


もう一人は、裾や袖にフリルがたっぷりとあしらわれたピンクの可愛らしいワンピース姿の美少女。年は15-6歳といったところだろうか。

愛らしい顔立ちに大きなブラウンの瞳。

ぷっくらと膨らんだ桜色の唇は、見ているだけで幸せな気分に浸らせてくれる。

髪は瞳と同じブラウンで三つ編みにされており。右肩部分からから前に垂らされていた。


花で例えるなら、此方は開きかけのチューリップの蕾といった所だろうか。


タイプは違うが、どちらも生まれて初めてお目にかかるレベルの美女だ。

だが何故だろう?

何故か二人に見覚えを感じる。


首をひねりながら考えこむ。

二人の美女。

美人系と可愛い系。

黒髪黒目とブラウン。

どこかで見た事がある。それも極最近。

そこまで考えて、脳裏にある二人、と言うか一人と一匹の姿が横切った。


え!?まさか!?


考え事をしている間に二人は俺の前まで来ており。

俺に話しかけてきた。


「様子を見に来てやったぞ」


相手に話しかけられたことで確信する。


「様子も何もまだ半日もたってませんけど?」


黒髪の美女に答え。

その横に居る美少女を眺めつつ質問する。


「エニル様は兎も角、こっちの美少女はまさか?」

「はーい!れるですよー」

「詐欺だろ!完全に!」


エニルはまだわかる。

成長すればこういった感じの美女になる事は容易に想像できた。

だがレルは違う。

何がどうなろうとも、こんな美少女になるわけがない。


「えー。たかしさんひどいですー」


ぶー、ひどいですーと言いながら。

両手を握り、顎に着けて俯きながら上目遣いでレルは此方を覗き込んでくる。

やばい。

超かわいい。


タヌキの愛らしい仕草に思わずどきりとしてしまう。

やはり詐欺だ。


「初めましてお嬢さん方。俺はたかしの友達でダレンといいます」


いつから友達になった?

今まで散々嫌味を吹っかけ続けてきたダレンが当たり前のように俺の肩に手を回し、笑顔で自己紹介する。

しかも今まで俺に向けて来たにやけ面ではなく、同じパーティーだった時にも見る事が出来なかった、きりっと引き締まった表情で。


「ほほう、お主たかしの友人か。私はそ奴の主でエニルだ」

「レルですー。よろしくですー」


俺はいつからエニルの下僕になったんだ?

少々腑に落ちないが、まあいい。


「あははは、主ですか。ユニークな方ですね。もしよかったらこの後食事でもどうです?」


ダレンは主という自己主張を軽くスルーし、笑顔でエニル達を食事に誘う。

エニル達の美貌を考えれば、お近づきにになりたい気持ちは分からなくもない。

だが俺の友人という設定には無理がある。


こいつは俺がばらさないと本気で考えてるのか?

それともウソがばれたときの事を考えられないあほなのだろうか?


「申し訳ないが、私達は用事があるので遠慮しておこう」

「そ……うですか、残念です。ではまたの機会に」


上ずった声でそういうと、ダレンは慌ててその場を離れる。

その理由は至って明白だった。


「レルよ。その殺気はなんとかならんか?」

「えー、だってーあの虫けらがー。分もわきまえずにー、食事なんか誘ってー来るからー」


そう、ダレンが一目散に退散したのは、レルの凄まじい殺気に充てられたためだ。

幸い、殺気はダレン相手にピンポイントで発せられたものであるため、周りに気づかれてはいないが。


ダレンを虫けらか。

まあ、確かに竜から見ればBクラスの冒険者など虫けらの様なものではあるのだろうが。

レルの思わぬ黒い部分にちょっと引いてしまう。


「レルはまったく仕方ないのう。まあよい、たかしはそこで少し待っておれ」

「え?待つって何をするんです?」

「勿論、冒険者登録じゃ」


は?え?

今冒険者登録つったのか?


「弟子の成長を間近で見守ろうと思っての。あ、言っておくが戦闘の手助けなんかは一切はせんからな」

「レルはー、社会見学ですー」


この日パーナス支部に、二人目と三人目のSSランク冒険者が誕生した。

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