第18話 合法?違法?
「やっぱりSSクラスの冒険者様ともなると桁違いなんですね」
「え?ああ、そう?」
魔物に噛みつかれてべたべたになった頭や腕を拭きながら答える。
「凄いですよ!重い荷物やあたしを抱えて凄いジャンプしたり。魔物に噛みつかれても怪我一つせずにあやしたりとか。凄すぎます!」
「ははは、ありがとう」
ドストレートに称賛されて照れる。
人に褒められるなんて本当に久しぶりで、思わず顔が熱くなる。
「たかし様に仕事を引き受けてもらえて本当にラッキーでした。でも良かったんですか?SSランクの方に受けて貰うような報酬ではないんですけど」
「ああ、問題ないさ。最初に言ったけど俺は討伐クエストとか基本出来ないから、むしろこっちが感謝したいぐらいだ」
彼女の護衛の仕事はD級やC級の少数チーム、もしくはBランクの冒険者辺りを募集していたもので、正直価格はそうたいしたものでは無かったが、俺は迷わず飛びついた。
プリンは料金が安くて申し訳ないというが。
食うにも困る状態の俺としては、一人で出来る仕事は本当に有り難かった。
なにせレルには必ずしも手伝ってもらえるとは限らないし。
坂神は去年最後のクエスト中、延々抱き着いたりキスしようとしたりと、セクハラ三昧だったので、出来れば二度と一緒はごめんしたい。
そんな事情から、プリンの依頼は俺にとって天の助けに等しかった。
「でも血に弱いって本当の話なんですか?私にはとても信じられなくて」
「まあ、ちょっとしたトラウマって奴でね。それを克服って訳じゃないけど、対策として即死魔法を覚えたのさ」
「弱点を創意工夫で補うなんて流石SSランク冒険者様です!」
「創意工夫とかそんな大げさな物じゃないよ」
ぶっちゃけ答えを人から貰っただけだ。
創意工夫は残念ながら一切していない。
いや、勿論色々と自分で試して見たりはした。
例えば遠くから飛び道具で敵を倒すとか。
遠くの敵を視認できる時点で相手の血も見えてしまうからダメ。
気配が分かるから目を瞑って戦うとか。
目を瞑って戦っても、血の臭いや飛沫が体に付くと見えてなくてもアウト。
絞め殺してみるとか。
絞め殺すと何故か魔物は血を吹きだす。
合わせ技で目を瞑って飛び道具も試してみたが、流石に気配だけではうまく当てられない。
つまり結局全部だめだった。
そんな俺に答えを与えてくれたのがエニルだ。
だからエニルには感謝している。
―――が、こうまであからさまに搾り取られ続けると流石に堪ったものじゃない。
今のままだと、世界を救う処か日銭を稼ぐのでいっぱいいっぱいだ。
このまま日銭稼ぎに生涯を費やしたのでは、本末転倒もいいところ。
何とかして奴の魔の手から抜け出さないと。
「凄く強くて、努力家で、しかも謙虚!憧れます」
プリンが頬を赤らめながら、うっとりした表情で此方を見つめてくる。
その表情はとても艶っぽく、とても子供には見えない。
ってそういや、別に子供では無いか。
彼女は鍛冶師として働いてるのだから、子供な訳がない。
見た目が幼いのは、只のドワーフの特性だ。
じっと見つめられて、何となく気まずいので話題を変える。
「そういやなんでプリンは重鉄が必要なんだ?」
今回の依頼は重鉄と呼ばれる鉱石採取の護衛だ。
この鉱石は一般にはほぼ流通していない。
それは価値が高いからとか、取れないからとかではなく、純粋に需要が無いからだ。
重鉄はその名の示す通り重い。
鉄の5倍近い重量を誇るその鉱石は、扱うには重すぎる上に、加工までしづらい為ほとんど需要が無く。当然採掘等はされていない。
今回はそんなゴミの様な、それでいて街ではまず手に入らない金属の元を求めて、ここまでやってきた。
「実は今年の春に姪っ子が成人するんです。そのお祝いに槌を送ろうと思って。あの子も鍛冶師になるって言うから。重鉄は一般的には需要があまりありませんけど、うちの家系は代々槌には重鉄製を用いてるんで」
そう言えば言っていたな、プリンの家計は代々鍛冶師を営んでいるって。
「成程、姪っ子さんへのプレゼントか。でもわざわざこんな雪山に来なくても良かったんじゃ?」
わざわざ新年早々危険な冬の雪山に来なくとも、早い段階で依頼を出しておけば、クエストを受けた冒険者が採集してきてくれたはず。
「本当はもっと早く取りに来る予定だったんですけど、仕事の都合で中々取りに来れなくって。採収を依頼しようかとも考えたんですが、姪に送るものですから。出来れば材料も自分で手に入れたかったんです」
お金で手に入れるのではなく、自分の手で用意したかったのか。
よっぽど姪っ子さんが大切なんだな。
しかし姪っ子が成人か。
てことはプリンは少なくとも20以上って事だよな?
普通に考えれば40近いって事か。
ため口で良いって言うからため口で話しているけど、失敗だったな。
相手が良いと言っても、やはり大きく年の離れた相手にため口は憚られる。
かといって今更敬語に戻すのもなぁ。
「ひゃあ!?」
「どうした!?」
急な大声に腰を上げ、悲鳴を上げたプリンを抱き寄せ辺りを伺う。
だが狭い洞穴の中には何も見当たらない。
居るのは俺とプリン。
それに疲れてぐったりしている熊の様な見た目の魔物だけだ。
「あ、ごめんなさい。水滴が首筋に落ちて来たみたいで、びっくりして声を出しちゃいました」
「へ、ああそうなんだ。何もなくてよかったよ」
安心して離れようとすると、プリンがギュッとシャツを掴む。
「あの……たかし様は……恋人とか……いらっしゃるんですか?」
「いや、いないけど」
自称愛人だの、恋人だのほざいてるタヌキと変質者はいるが。
悲しいかな、生まれてこの方恋人など出来た事が無い。
しかしこの質問。
まさか、ねぇ?
「あの……えと……それじゃあ。私がその……」
俯きながらプリンはしどろもどろと言葉を続ける。
「あの……そのですねぇ。私なんかがあれなんですけども……なんていうか……そのぉ…………」
10秒ほど言葉が途切れ、ふいにプリンが深呼吸してから叫ぶ。
「たかし様の恋人に立候補していいですか!!」
「ごめん」
即答する。
流石に40代の相手とお付き合いはちょっと。
いや、恋に年齢は関係ないとは言うけども。
流石に17歳の小僧に40代のレディーは荷が重過ぎる。
「だ……駄目ですか」
「うん、ごめん」
プリンが手を離し、目に涙を溜めながらしゃがみこむ。
伝家の宝刀三角座りだ。
少女の三角座りは本当に絵になる。
「そう……ですよね。あたしみたいな子供、たかし様が相手にするわけないですよね」
ん?子供?
「あたし…まだ10歳だけど。もう少し大人になって、その時たかし様に恋人がいなかったら……もう一度アタックしていいですか?」
震え声のプリンの言葉に、聞き捨てならない単語が混じる。
10歳?あれ?おかしくね?
「プリンって10歳なの?」
「はい」
「でも姪御さんが成人って、それに鍛冶師として働いてるんじゃ」
「私と兄は年が凄く離れてて、だから歳は姪の方が上になるんです。仕事は5歳の時に祖父に見込みがあるって言われて、それからは鍛冶師として祖父の元で働いてます」
それ児童虐待じゃないか?
いやまあ家業なら家の手伝いと言えなくもないけども。
後、お父さんお母さん頑張りすぎぃ!
「そっかぁ。俺てっきりプリンは40ぐらいだと思ってたよ。まあ、あれだ。大きくなってその時プリンの気持ちが変わってなかったら、またアタックしてみてよ」
失恋のショックでこの後の行動に響いては堪らないので、軽くオッケーしておく。
所詮瞬間的な気分の高まりだ。
すぐに忘れる事だろう。
「本当ですか!!」
プリンが勢いよく立ち上がる。
「勿論だ」
「やったぁ!」
嬉しさの余りからか、プリンが勢いよく抱き着いてくる。
「私、頑張ってたかし様のいいお嫁さんになりますね!」
「え?ああ、うん。まあ頑張って」
嫁にするなどとは一言も言っていないのだが、子供の想像力という物は豊かなものだ。
外を見てみると、吹雪が収まり日が差し込んでいた。
小さなフィアンセが出来ました。
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