第17話 ドワ子
雪を踏みしめ歩く。
吹雪に視界が奪われ、ともすれば方向感覚を失いそうになりながらも、しっかりした足取りで前へ前へと進んでいく。
「すいません、おぶって貰っちゃって」
「ああ、気にしなくてもいいよ」
今俺がおぶっているのは、赤毛を先端で分け、両サイドにおさげを結っている小さな女の子だ。
ぱっと見は10歳ぐらいにしか見えないが、ドワーフであるため実際の年齢は分からない。
ドワーフは人間と違い、ある程度成長した段階で姿が固定され。
それ以降は一切老化しない種族だ。
その為ドワーフの女性は、10歳程度の姿で一生を過ごす事になる。
「しかし本当にたかし様は凄いですね!流石SSランク冒険者様です!」
「たいした事は無いさ、っていうか様付はやめてくれ。呼び捨てで頼むよ。雇い主は君なんだから」
「いやいやありますって!さっきのあの裂け目、20メートルはあったじゃないですか!それをひとっ飛びするような方を呼び捨てなんてありえませんよ!」
目的地に向かうに当たって大きな裂け目を迂回する必要があったのだが、めんどくさかったので彼女を抱きかかえて飛び越えた。
それが彼女の琴線に触れたのか、それ以来俺を様付で呼び出す。
俺の雇い主の名はプリン・プリン。
ぺったんこなのにプリンプリンとはこれ如何に。
そんな馬鹿な事を、初対面の際に考えたのは秘密だ。
「この先にたぶん洞穴があるな」
「え!?そんなの解るんですか!?」
「魔物の気配を感じるんだ。動いてないから多分冬眠してるんだと思う」
冬眠してるという事は、身を顰める何らかの横穴があるという事だ。
「そこでいったん休憩しよう」
「え?魔物が居るんじゃ?って退治されるんですか?」
「まあそうなるね」
「そう……ですよね……」
彼女の声から、途端に元気がなくなる。
「あの……そのぉ……」
「ん?」
「いえ、何でもありません」
どうやら無駄な殺生は避けたいらしい。
かといってこの吹雪の中、進み続ける訳にもいかない。
吹雪にさらされ続けると、それだけで体力が消耗する。
俺は全く問題ないが、プリンには辛いはず。
「一応殺さずに済ませる事も出来るけど」
「ほんとですか!?」
正直べとべとになるから、個人的には好ましくないんだが仕方ない。
出来るだけ依頼主の希望に沿った結果を出す。
それが冒険者だ。
「それで、どうやって魔物を大人しくさせるんですか?」
「俺達が近づいたら、気配を察知して魔物が襲ってくるだろ?」
「そうですね。冬眠中でも人間が近づいたら流石に気づくでしょうから」
俺一人なら気配を殺して気づかれないようする事も出来るが、プリンにそれを求めるのは無理だろう。
「襲ってきたらそのまま齧られる」
「成程そのまま齧られて……て、ええっ!?」
プリンは驚いているが、気にせず言葉を続ける。
「そのまま魔物が飽きるか疲れ果てるまで放置。以上」
名付けてガンジー作戦!
俺の非暴力非服従が火を噴くぜ!
「え?大丈夫なんですかそれ?どう考えてもたかし様死んじゃうんじゃ?」
「問題無いよ。この先に居る魔物程度の咬合力じゃ俺には傷一つ付かないから」
「マジですか!?」
「大マジだよ」
即死で寝かせて、出て行く際に蘇生するのが一番手っ取り早いんだが。
蘇生は出来るだけ人前で使う事を控える様、エニルに言われてるからなぁ。
そういや即死って暴力に入るのかな?
そんなどうでもいい事を考えながら、俺は洞穴へと歩みを進める。
べとべとになりました。
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