第19話 お駄賃

「ふむ、うちの孫が欲しいって話だが」


テーブルを挟んで向かい側に座っている大男が、鋭い眼光で此方を睨みつける。

彼の名はガンテツ・プリン。

プリンの祖父に当たる人物だ。


その身長は優に2メートルを超え、ひょっとしたら3メートルに達するのではないかと思えるほど高く。

しかも全身が筋肉で覆い尽くされていて、まるで大岩だ。

恐らく通常のドワーフの4倍、いや5倍以上の体積を目の前の男は有していた。


「え、いや。なんといいましょうか。将来大きくなって気持ちが変わってなければって話でして」

「つまり婚約したいと?」


何でそうなる?

いや、聞き様によってはそうとれるか。

我ながら間抜け発言をしたと反省し、訂正する。


「いえ、そういう大袈裟な話じゃなくて。将来俺を好きな気持ちが変わってなければ、その時改めて口説いてくれって話で」

「さっきと何も言ってる事は違わないと思うが?」


いや全然違うだろ?

口説けって事は、俺はOKしてないって事なんだが。


お孫さんの片思いで、俺は何とも思ってないって事をもっとアグレッシブに説明した方がいいな。


そう思い口を開く。

いや、開こうとした。


「第二夫人ですけどー、いいですかー」


先程までいなかったタヌキがいつの間にやら俺の隣の席に座り、口を挟む。


「レル!?何でここに!?」

「えっとー、上りをー8割せしめて来いってー、エニル様に言われてー」


あいつは悪魔か。

しかし9割じゃなくて良かったと一瞬でも感じてしまった自分が悲しい。


「第二夫人って事はあんたが正妻って事か? 」

「レルはー、ただの愛人ですよー」

「なるほど、正妻に愛人持ちか」


ガンテツは顔を顰めて口元に手をやり、考えこむ。

どうやらレルの戯言を真に受けてしまった様だ。


仕方ないので否定しようとすると、レルがそっと耳打ちしてきた。

女にだらしない男だと思わせれば破談に出来る、と。

驚いてレルの方を向くと、右手の親指を立てながらウィンクを飛ばしてくる。


余りのどや顔にぶん殴ってやろうかと思ったが、名案だったので許す。


ガンテツに2-3発殴られてこの話は終わりだなと考えていると、彼はとんでもない言葉を口にしだす。


「まあSSランクの冒険者なら、女の5人や6人いてもおかしくは無いか。1番になりてぇんならプリン自身が頑張るだろうしな」

「ええ!?」

「やったー、公認ですよー。よかったですねー」


よくねーよ。

しかしどういう神経してりゃ5-6人を許容できるんだ。

俺を王族か何かとでも思ってるんだろうか?


「俺が言うのもなんだがよくできた孫だ。よろしく頼んだぞ!孫よ!」


誰が孫だ。

おっさんフランクすぎだろ。


「いや誤解ですよ!お孫さんとは何でもありませんから!」

「ははは、照れるな照れるな。世間体的には最低だが、俺は本人たちの意思を尊重するからな!味方だと思っていいぞ!」


駄目だ。

俺の話を聞く気がまるでねぇ。


「レルもー、たかしさんのー味方ですよー」

「いやお前は敵側だろ絶対。本当に味方なら、俺は死んだとエニルに伝えてくれ」

「レルはー、嘘は嫌いですー」


それ絶対嘘だろ。


「ところで孫よ 」

「孫じゃありませんよ」

「では孫婿よ」

「孫婿でもありません」

「わかった孫よ」


何一つわかってねぇ。

完全に無限ループ態勢に入っているので諦める。


「もう孫でも何でもいいですよ。ところでなんです」

「うむ。親族のよしみで仕事を一つ頼まれてくれんか?」

「いいですよー」

「勝手に答えんな!」


レルの横暴を止めるべく、右手をチョキの形にして迷わず目を突く。

だがレルはそれを片手で受け止め、あろうことか右手で俺の目を狙ってきた。


「させるかぁ!」


左手でレルの手首を掴んで止め。

頭部を後方に仰け反らし、勢いよくレルの額めがけて打ち付けた。

ガゴっと鈍い音と共に額に衝撃が走る。


「うふふふー、効きませんよー」


くそっ!相変わらず無駄に打たれ強い奴だ。

だがこれ以上威力を上げると、額が割れて出血してしまう恐れがある。

俺は自らの不甲斐なさに歯ぎしりする。


「ぐぬぬぬぬー」

「えへへへへー」

「はっはっはっはっは、人目を憚らずイチャイチャするとは若いのう。孫のプリンともそんな感じなのか?」


誰がいちゃついとるか。

ていうかプリンにこれやってたら完全に児童虐待だろう。


ああそういやこの人、5歳児に才能があるって理由で鍛冶師やらせてた鬼畜だったなぁ。

初めから真面な対応が期待できない人物だという事に、今更気づく。


「で、だ。お前さんには竜の牙をとって来て貰いたいんだ」

「竜の牙?」

「ああ、ギルドに依頼しても梨の礫でな」


そりゃそうだ。

竜退治なんて大人数の軍隊か、名の通った冒険者チームでもなければ不可能だ。

俺もレルとちょこちょこ遊び半分で手合わせしてるが、かなり強い。

正直、俺に弱点が無かったとしても勝てるかどうか怪しいレベルだ。


「流石に竜退治はギルドに依頼しても無理だと思いますけど」

「別に退治しろとは言っとらん。牙が欲しいと言っとるんだ」


同じだろう。

このおっさんあほか?

倒さず手に入れれるんなら誰も苦労しねーよ。


「俺ももう年だからな、引退も近い。引退前に一度でいいから竜の牙で武器を作ってみたくてなぁ」


体つきや顔艶見る分に、後数十年は余裕そうに見えるんだが?


「という訳で頼んだぞ、孫よ」

「無茶言わないでください」

「勿論只でとは言わん。5千万出そう!」

「ゴゴゴ五千万!」


8割巻き上げられても1千万は残る!

いやなんで8割巻き上げられる前提で考えてるんだ俺は?

でも絶対巻き上げられるんだろうなぁ……


「俺の貯金全額だ!どうだ!」

「老後用に残しとこうとか思わないんですか?」

「はっはっは!無くなったらまた稼げばいい!」


さっき引退間近みたいなこと言ってなかったか、このおっさん。


「まあ最悪、作った武器を売り飛ばせば元ぐらいは取れるだろう!」


左様で。


しかし5千万か。

竜退治として考えれば確かに安すぎて話にならないだろう。

だが俺には奴がいる。


笑顔で振り向くと、そこにはもう奴の姿は影も形もなくなっていた。


ちっ。逃げられたか。

だが全く問題ない。

俺から巻き上げるって事は、エニルも何だかんだで金が要るって事だろう。

頼めばきっと笑顔で協力してくれるはず。


「わかりました!大船に乗ったつもりで任せてください!」

「おお!頼んだぞ!孫よ!」


1千万ゲットだぜ!


~result~最終結果


泣き叫ぶレルの虫歯を無理やり引っこ抜いて5千万ゲット!


おだちんとしていちまんだけもらえましたまる

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