第27話 出禁

「ふむ、どうやらエーテを倒せた様じゃな」

「あんなのにー、負ける方が難しいですー」

「うふふ、さっすが私のダーリン。訓練に付き合ったかいがあるわぁ」


街の居酒屋で美しい三人が祝杯を挙げる。


周りの男達の視線は全てその麗しの3人組へと注がれ、先程から代わる代わる彼女たちへと声をかけ、そして散っていく。


「でも師匠。どうしてこんな安酒場なんです?折角のお祝いなんだから、もっとお洒落な店の方が良かったんじゃ?」

「あやつに支払わせるつもりじゃからな。あまり高い店を選んだらまた業突く張り呼ばわりされてしまうわ」


師匠と呼ばれた絶世の美女が目の前のジョッキを一気に煽り、店員を呼び止めて追加の注文をする。


「ししょー、行きますねぇ。そんなペースじゃダーリンが来る前に潰れちゃいますよー」

「はっはっは、これぐらい軽い軽い!」

「エニル様ー。アルコールをー取りすぎるとー、馬鹿になるらしいですよー」

「安心せい!世界中の酒を飲みほしたとしても、お前より馬鹿になることは無い!」

「ぶー、酷いですー」

「あははははは、師匠ったら酷い酷ーい」


そんな女性たちの楽し気なやり取りを、店に入ってきたばかりの男が凄く嫌な物を見る目で眺める。男は女達の品のないやり取りをしばし眺めた後、小さく溜息を一つ付き、女達へと声を掛けた。


「随分楽しそうだな」

「キャー!ダーリン待ってたわー!」


金髪の女が嬌声を上げ男へと抱き着き、キスをしようとする。

だがそれよりも早く男の手から青い輝きが放たれ、女の唇は分厚い氷で覆われた。


「ひょっひょー、なにふるのひょー」

「うっせぇ、さっさと離れろ」


金髪の女性をぞんざいに押しのけ、男は席に着く。

その際に茶髪の美少女の前に置いてあった肉をふんだくり、咀嚼もせず丸呑みする。


「あー酷いですー、レルのーお肉を勝手にとるなんてー」

「さっさと食っちまわないお前が悪い」

「レルはー、追加の白米がー来るのを待ってたんですー。白米とーお肉は凄く合うんですよー。知ってましたー」

「知っとるわ。で?急用ってまさかこの飲み会に参加しろって事じゃないよな?」


男は不機嫌そうに疑問を口にする。


彼は先程強力な魔物。

魔王の一柱と称されるエーテとの戦いを終えて来たばかりだ。


戦闘終了と同時に魔法の念話によって呼び出され、勝利の余韻に浸る間もなく此処へとやってきた。しかし急いで来てみれば女三人による楽し気な飲み会しか見当たらず。くだらない理由で呼び出されたと知り、少々腹を立てていた。


「祝勝会じゃ!エーテを見事打ち取ったな!」

「俺の祝勝会なのに、何で俺が到着する前に始まってるんだ?到着するのを少しは待とうとは思わなかったのか?」


男の疑問はもっともだ。

主賓無しで始まる祝い事ほど滑稽な者は無い。


「流石に2時間も待ちとうないわい」

「はぁ?2時間?俺がエーテを倒したのって5分ほど前だぞ?」

「祝勝会は2時間前から始まっとったぞ?」

「2時間前って。俺まだその頃エーテと戦ってすらいないんだが?勝つ前どころか、戦う前から始まってる祝勝会とか聞いた事もないぞ。後坂神、そろそろ諦めろ」


先程から何度顔面を凍らされても、その度に氷を剥がした坂神がしつこく男の唇を狙う。その余りのしつこさに、男はそろそろ本気で即死魔法に切り替えようか悩みだす。


「照れなくていいのよ!祝福のキッスを」

「まじやめろ」


嫌がる男に、それ縋る美女。

男にとっては嫌で嫌で仕方ないこの鼬ごっこも、周りから見れば美女といちゃついているようにしか見えない。そんな様を見せつけられれば、安酒場のガラ悪い酔っぱらい達が黙っているはずもなく。


「おうおう兄ちゃん。たった一人で美女三人を独り占めたぁ、良い身分だな。俺達にも分けてくれよ。3人ともな」

「ぎゃははは。てめぇみてぇなのは一人で飲んでろ!さあねーちゃん達、俺達と一杯やろうぜ」


ごろつき達のくだらない挑発に男が席を立ち、彼らを睨みつけた。

その力強い眼差しに男達は後ずさる。

そんな男達を一笑に付し、彼はこう告げる。


「わかった。じゃあ俺はこれで!後はごゆっくり!!」


そう宣言すると、男はわき目もふらず酒場を後にする。


男が勢いよく酒場の扉を潜り外へと飛び出すと。

其処は酒場の中だった。


「こらこら何処へ行くんじゃ?」

「おい、変な魔法をかけるのはやめろ」

「これはお主の祝勝会じゃぞ。逃がすものか」


およそ祝勝会に似つかわしくない言葉を耳にし、男は溜息を吐いて席に着く。

足元を見ると、先程絡んできた男達の衣類が転がっていた


「ところで絡んできた奴らは?」

「裸で山奥に捨てておいた」

「酷いなおい!」

「安心せい。ちゃんとパンツは残しておいてやった」


山奥でのサバイバルにパンツの有無がどれ程意味があるのだろうか?

男はそんな疑問を口にしようとするが、どうせまともな答えは返ってこないだろうと尋ねるのを断念し、テーブルに運ばれてきたばかりの肉を再び丸呑みする。


「あー!何でー、レルのをーとるんですかー!」

「俺の祝勝会なんだから、譲れよ」

「許しまー、せーん!」



~result~最終結果


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