第28話 転移魔法
高級店顔負けの会計に、財布の中を確認しつつ溜息を吐く。
弁償代を含めても酷すぎる額だ。
「おう!会計御苦労!」
「ごちそうさまでしたー」
「うふふ。ダーリンありがとう」
店を出ると満面の笑みで美女三人が出迎えてくれるが、一ミリたりとも嬉しくない。
「何で俺の祝勝会の会計を俺が負担せにゃならんのだ?」
「それが男の甲斐性というものじゃ」
「こういうのはー、どべがー支払うものですー」
「どべってお前……」
始まってから呼ばれてる俺に一体どう逆転しろと?
出来レースにも程がある。
「たかし……あたし酔っちゃった……」
顔を赤らめながらしな垂れかかってくる坂神を氷漬けにしつつ、蹴り飛ばす。
「んじゃあもう帰るぜ」
。
坂神とあほとレルのせいでへとへとに疲弊している俺は、早々に帰宅を宣言する。
まあレルに関しては俺が飯を横取りしたせいではあるのだが。
とにかく、こいつらの相手は魔王と戦うよりよっぽど疲れる。
「何を言っておる?本番はこれからじゃぞ?」
「俺は遠慮しとくよ。祝勝会はさっきのでお腹いっぱいだから」
これ以上こいつらの相手等してられん。
そう思い、背を向けてさっさと去ろうとするとレルに羽交い絞めにされる。
「何しやがる!?」
「逃がしませんよー」
「レルちゃんナイスよ!そのまま抑えてて!!」
いつのまにやら氷から脱出していた坂神が、俺の唇を奪うべく接近してくる。
万事休す!
そう思われた時、思わぬところから助け船が入る。
「ティアさん!そんな風に無理やり迫るのは良くないと思います!もっとたかしさんの気持ちを大切にしないと嫌われちゃいますよ」
「げ!?プリン!なんであんたが居るのよ!?」
突如現れたプリンが俺の前で通せんぼをしてくれお陰で俺は難を逃れた。
プリンまじ女神。
「わしが呼んだんじゃ。仕事が終わった様じゃからな」
「エニルさん御招待ありがとうございます。でも魔法ってほんと凄いですね!一瞬でたかしさんの所まで飛んでこれるなんて!」
プリンはエニルの魔法で一本釣りされてきたのか。
道理で気配もなく突然現れた訳だ。
「ぬぬぬぬ」
「ぬぬぬぬじゃありませんよ!恋愛はお互いの気持ちが重要なんですから、無理やりなんてもっての外ですよ!何度も言ってるじゃないですか!」
「ふーんだ!ライバルのいう事なんて聞かないわよ!」
「もうティアさんは本当にしょうがないんだから」
10歳児に正論で諭され、溜息を吐かれる18歳とか見てられん。
昔の坂神は此処迄馬鹿じゃなかったと思うんだが、いったいこの2年の間に彼に何があったのだろうかと少し心配になってくる。
「さて、全員そろった所で我が家へ招待してやろう。プリンとティアは来たことが無いじゃろう?」
そう言うとエニルは軽くウィンして魔法を構築し始める。
赤い光が辺りに幾何学模様を描き、俺達を包み込んむ。
その紋様をしっかりと目に抑えながら俺は集中する。
転移魔法を
転移魔法はあれば便利な魔法だ。
だからエニルには、以前転移魔法を教えてもらうよう頼んだことがあるのだが、あっさり断られた経緯がある。その為こういう機会を利用して覚えるしかなかった。
「ついたぞ?」
唐突に景色が変わり、転移が終わる。
「わあ!大きなおうちですね!」
「おおーここが師匠のお宅ですかー」
森の中に立つ豪邸を目にし色めき立つプリンと坂神をよそに、俺は軽く舌打ちする。
転移魔法を受けたにもかかわらず、それがどういった
「どうじゃ?盗めたかの?」
エニルがニヤニヤといやらしい笑顔で聞いてくる。
どうやら盗もうとしていたのはバレバレだったようだ。
「ヘタレさん如きがー、転移魔法を覚えようなんてー、100年早いですー」
屈辱だ。
タヌキに出来て俺には出来ないとか、これ以上の恥辱は無い。
とりあえず、いつまでも俺を羽交い絞めにし続るタヌキの顔に後頭部を打ち付け、脱出する。
「ぷぷぷぷー、腹立ちまぎれにー、頭突きですかー?そんなのー、レルには通じませーん」
「喰らえ!ラブ&ピースアタック!」
人差し指と中指を立てた平和のピースサインで迷わずレルの目を狙う。
「その
「ぐぬぬぬぬ」
「むむむー」
ドカンドカンと大きな音を立て、取っ組み合いを繰り広げていた俺とレルがその場にしゃがみこむ。
「いってぇぇぇ」
「本気でぶつなんてー、エニル様酷いですー」
「人んちの前で暴れるでないわ。お主ら家を滅茶苦茶にする気か?」
もっともな意見ではある。
ヒートアップして俺とレルが本気で暴れだしたら、目の前の豪邸程度一瞬で吹き飛ぶ。
しかし痛い。
殴られ張れている部分を涙目でさすっていると。
「たかしぃ~大丈夫~。今あたしが痛いの痛いの飛んでけしてあげるね~」
「いやけっこうだ。ていうか何故顔を近づける!」
「口から吸いだしてあげる~」
そんな痛いの飛んでけなんざ聞いたことがない!
「ぐぬぬぬぬぬ」
「むちゅー」
己が貞操と誇りを守る為坂神を取っ組み合いをしていると、エニルの鉄拳が振り下ろされ、再びドカンドカンと音が響く。
同じ場所を的確にぶん殴られ、俺は痛みの余り変な声が出てしまう。
「ほふぉー」
「暴れるなと言っとるじゃろうが」
今度のに関して俺は完全に被害者なのに理不尽すぎる。
そんな俺の姿をみてきゃっきゃきゃっきゃ喜んでいるレルにイラつき、蹴り飛ばそうとするがぐっと堪えた。このままでは無限ループ待ったなしだ。
「師匠ー、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてって言葉があってですねー」
「もう一発行くか?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
突き付けられたエニルの握り拳を前にして、坂神は言葉を飲み込んだ。
うん、正しい選択だ。
「さて、たかしよ。何ならもう一度転移魔法を使ってやっても良いぞ?」
「え!まじですか!?」
急な嬉しい申し出に諸手を上げてお願いしようとするが、俺の心のブレーキが警鐘を鳴らす。
一体どういう風の吹き回しだろうか?
まさか金取られねーよな?
もう持ち合わせ全然ねーぞ。
そんな俺の感情を見抜いてか、エニルは笑顔で俺に金は取らんから安心しろと告げる。
「よくよく考えたら、2発目は流石に少々理不尽だったからのう」
少々どころか理不尽以外の何物でもなかったが、折角の申し出を引き下げられでもしたら勿体ないので黙っておく。
「業突く婆のー、エニル様がーただ働きとか珍しいですー」
当然のようにお星に様になったレルは放って置いて、俺は頭を下げる。
「お願いします!」
「うむ、では行くぞ」
全然ダメでした。
転移魔法習得の道は険しい。
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