第14話 師弟
「こちらが買取とクエストの報酬になります」
トレーの上に乗る山積みの金貨を目にし、思わず涎が垂れそうになる。
このうち8割はティラノアントの報酬だ。
ティラノアントに関してはクエストを受けていなかったが、緊急性の高い案件だったため、結構な額のボーナスが付く事になった。
有難い事だ。
これなら越冬どころか4-5年は遊んで暮らせる。
袋にしまうべく、山積みの金貨に手を伸ばすと。
バシッ
何故か勢いよくレルに手を叩き落とさた。
「何で邪魔するんだ?」
「9-1ですー」
「何が?」
「報酬はー、私が9でー、たかしさんがー1ですー」
「は?」
意味がよく理解できない。
レルが報酬を求めるのは当然の権利だ。それに文句はない。
だが何故奴が9で俺が1なんだ?
敵を倒したのは俺なんだから、俺が6か7貰っても良いレベルのはず。
どんだけ強欲なんだよ、このクソ狸は。
「正確にはー、エニル様がー8でー。私とーたかしさんがー、1ずつですー」
「んな!?何でエニルに報酬払わにゃならんのだ!?」
あいつ何もしてねーじゃん!
意味が解らん。
「たかしさんはー魔法なしでー、こーんなにー、お金を稼げましたかー?」
「いやまあ、確かにエニルから習った即死魔法のお陰だけど……」
そう言われると返す言葉もない。
全て即死魔法あっての物だ。
「これはー授業料みたいなーものですー」
まあいい、1割あれば少なくとも冬は越せる。
何よりレルと組めば、この後いくらでも稼げるさ。
「ねぇたかし。今即死魔法って言わなかった?」
「ん?言ったけどそうれがどうかしたか?」
「うそっ!?じゃあたかしって即死魔法使えるの?」
即死魔法に、ティア改め坂神が激しく反応する。
「ああ、まあそうだけど?」
「凄いじゃない!即死魔法って
ダーリン言うな!
背筋が寒くなるわ!
「
「何って、そのままの意味よ。現在その習得方法が失われたって言われてる太古の魔法で、即死魔法や蘇生魔法なんかがそれに当たるわ」
蘇生魔法もそうなのか。
まさかそんな凄い魔法だったとは。
そう考えると糞高い授業料も頷ける。
「ダーリンってほんと凄いわ!……ところで、話は変わるんだけど?エニルって誰?」
急に声のトーンが変わり、眩いばかりの坂神の笑顔が唐突に闇落ちする。
普段は黄金の輝きを放つ相貌が今は漆黒に彩られ、その瞳の奥におれは深淵を見た。全ての光を貪らんとする深淵の闇に戦慄し、思わず目を逸らす。
チョー怖いんですけど。
「で?誰?」
「ま、魔法の師匠だよ」
「ふーん。その人綺麗なの?」
びっくりするほど美人だが。
それを真っすぐ伝えると坂神の逆鱗に触れそうだから、皺くちゃの婆さんと答えておこう。まあ何百年も生きてるから、婆さんの部分は嘘ではないからな。
「何百年も生きてる皺くちゃの婆さんだ」
「誰が皺くちゃの婆さんだって?」
「え?」
ふいに後ろから声をかけられ、振り返る。
「げ!エニル」
「げとはなんじゃ。全く失礼な奴じゃな」
「エニル様ー、どうしてここにー?徘徊ですかー」
「人をぼけ老人みたいに言うでないわ!」
エニルが一瞬蹴ろうとするが、軽く上げた足を降ろし、代わりにレルのほっぺたを両手で摘まんで豪快に引っ張る。
蹴り飛ばせばギルド内がとんでもない事になるので、自重したのだろう。
「
「そうじゃ。私が笑うのが先か、それともお主のほっぺが引きちぎれるのが先かの睨めっこじゃ」
何その睨めっこ、怖すぎるんですけど。
ているか睨めっこでも何でもない。
それ只の拷問だろう。
それにしても静かだ。
先程まで騒いでいた坂神があまりに静かだったため、そちらを見ると、がっくりと膝をつき項垂れていた。
一体何事!?
「おい、坂神どうした!?」
「完敗よ。あんなに綺麗なんて反則じゃない。そりゃこんな人がいたら、たかしも私程度じゃ満足しないわよね」
どうやらエニルの美貌を前にして、敗北感を噛み締めているようだ。
坂神も美人だとは思うが、それでもエニルと比べるとワンランク落ちる。
それぐらいエニルの美しさは際立っていた。
坂神を元気づけようと「坂神も十分綺麗だよ」と言おうとしたが、辞めておいた。
口にするにはこっ恥ずかしすぎるし。
何より下手な言葉をかけて、それを契機にガンガン迫られても叶わん。
坂神にはこのままへこんでいて貰おう
それが世のため
そんな自分に都合のいい事を考えていると、レルを虐め飽きたのか、エニルが坂神の前に立ち激を飛ばしだす。
「何を項垂れておる!立たぬか!背を伸ばし前を見つめよ!」
正直余計な事はしないで欲しいのだが。
遮るとそれはそれで怖いので、仕方なく指をくわえて黙って見守る。
「見た目など女の魅力のほんの一端にしかすぎん!真なる魅力は内側からあふれ出るものじゃ!己を磨け!さすればたかしもお主にメロメロじゃ!」
残念ながら坂神は中身が男だ。
だからどんなに磨いたって何もあふれて来ない。
「師匠!」
え!?いきなり何言ってんだ坂神は?
「私!女を磨いてイチャイチャしたいです!」
「その意気や良し!ならば黙って私に付いてくるのじゃ!」
「はい!師匠!」
なんでやねん……
俺は余りの急展開について行けず。
その後も続く師弟のやり取りを、間抜け面で只ボー然と見守るのであった。
何故か知らんが坂神がエニルに弟子入りした。
後、受付の前で騒がれると迷惑だって事務員さんに怒られた。
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