追記
追記。
あの一件から下着泥棒こと桜間優希さんと、その被害者である杉山詩織さんは付き合うことになったらしい。付き合うと言っても女子同士であるから、いわゆる男女交際とは少し違う形式らしいけれど、それを簡単に説明すれば要するにこれまで以上に仲の良い友人関係ということらしい。
まあ、恋愛の形なんてのは人それぞれだし、外野の僕や、あるいは町子さんでさえ、とやかく言う権利はないだろう。人の恋路を邪魔して馬に蹴られたくはないし。
そういうわけで下着泥棒自体は示談という形で落ち着くにしても、僕に罪を擦り付けようとしたことは到底許されるようなことはない。なので犯人である桜間さんにはそれなりの賠償を請求することにした。
「二度と犯罪行為をしないこと。それと、杉山さんと仲良くしてあげてください」
それが僕が示談に応じる条件であった。
男女恋愛ならば節目節目(例えば学校を卒業したタイミングなど)で終わってしまうことがあるけれど、同性での関係ならばそんなこともないだろう。せっかく僕が多大な労力をかけて(実際に働いたのは町子さんだけれど)仲を取り持ったのだから、彼女たち二人には末永く仲良くしてもらいたいものだ。
「え? 報酬? いらないよー、そんなの」
僕の窮地を救ってくれた町子さんは、ファミレスでパフェ(僕の奢り)を食べながらそう言った。以前お世話になった時もそうだったのだけれど、こちらとしては正式な謝礼金も受け取ってもらいたいものだが、町子さんは金銭を受け取るということを決してしなかった。
「こっちは半分趣味で謎解きしてるようなもんだしねー。むしろ面白い事件を持ち込んでくるワンコ君には、こっちからお礼を言いたいくらいだよー」
それが建前なのか、はたまた町子さんなりのポリシーというものなのか、僕には分からない。正式な探偵でない町子さんが、未成年の僕から金銭を受け取ることは問題になると判断したからかもしれない。
「でもあの時言っていたことは、どこまで本気だったんですか?」
「あの時言っていたこと?」
町子さんがパフェを頬張って蕩けきった表情で聞き返す。
「桜間さんが言い逃れようとしていた時に言っていたことですよ。警察がどうとか」
「ああ、あれ」
町子さんはさしずめ解き終わった謎には興味ないと言わんとした様子だったが、それでも質問に答えてくれるようだった。
「三割くらいかなー、本気だったのは。警察に訴えたとしても学校内でのことだったし、曖昧にされちゃいそうだしね」
「……ちなみに、その場合の僕は?」
「学校側はうやむやにしたいんだから、訴えることはなかったでしょうねぇ。最悪のケースでも留置所一日コースってところかな」
それでも十分嫌だけれど。
「まあ、でも正直な気持ちを言わせてもらうなら、早く帰りたかったんだよねぇ。犯人も犯行方法も分かっちゃったし、後は当人同士の問題でしょ?」
「はあ」
「私だってそう暇じゃないしねー」
「何か予定でもあったんですか?」
もしもそうなら無理矢理呼び出してしまったことが申し訳ない。
町子さんはクルクルと前髪をいじりながら答えた。
「ちょっと髪を染めようと思ってね」
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